10−12 北の国と南の国
北の国に入り込んだノルマン公の部下、ジョゼフ・クルーエは、部下の功績は奪い、自分の失敗は部下に押し付ける男だった。サンドゲートの失敗は海賊達の失敗だと思っていたが、牽制の海獣攻撃を行ったモイラを使ったのはジョゼフである。そこは海賊達と一緒になってモイラに失敗の責任を押し付けた。
一方北の国に上陸してからは、南の国の牽制の任務を受け、モイラに挽回の機会を与えると称して再び使い捨ての道具として利用していた。通常の工作員の一部が排除されてからは動きにくくなった為、モイラに潜入させ、闇魔法で工作員ネットワークを広げて敵王都を汚染させる様に指示したんだ。
そしてサンドゲートの失敗の原因となった魔女に仕掛ける様に命じた。モイラにどうにかなる相手とも思わなかったが、王都にちょっかいを出して怒った魔女が越境して北の国にやって来たら、それを口実に南の国を攻める、そういう筋書だった。
この段階でジョゼフは魔女の威力を過小評価していた。ノルマンディーの魔法使い達を見ていた為、その程度の魔法使いが攻めてきても返り討ちに出来ると思っていたのである。もちろん、ノルマンディーに『手が滑って』サイクロンを起こす様な魔法使いはいない。
「ブライトンからの連絡はどうだ?」
「モイラが野犬と浮浪者を操って誘いをかけていますが、まだ雑魚しかかかってこない様です。もう少し騒ぎを広げる為に使役者を増やしていくとの事です」
「まったく闇魔法師というのは嫌なものだ。浮浪者や獣とはいえ、命あるものを多数操るとはな。やはりどこかの段階で排除せねばなるまい」
「とは言え、この様な作戦には適している能力の持ち主ですが」
「ノルマン公がこの島の主になればしばらく戦はあるまい。人心を乱しかねない闇魔法の使い手は不要になる」
「味方に向かえば危険な能力である事は確かですね」
「だからブライトンで向こうに始末して貰えば手間が省けると言うものだ」
「それもそうですね」
王都では、魔法研究所にクリスティンが魔法アイテムを持ち込んでいた。薄く伸ばした銅を厚みのある3インチ直径の円形に象ったものだった。第三王子エドウィンには用途が分からない物だった。
「それで、これは何に使うのかね?」
「もちろん、魔法のアクセサリーですから、一日身に付けておくものです。紐でぶら下げてもよし、服に縫い付けてもいいです」
エドウィンもクリスティンもお互い薄く笑った。ピントをぼかした回答の意味をエドウィンは正確に理解した。あまり公に出来ないものなのだ。
「それで非公式な効能はどうなんだい?」
「一日身に付けておくと、平均的な魔法使いが放つ中級魔法程度の魔力が溜まります」
同席していた暗黒の魔女レイラ、その先輩でお目付け役のアニー、そしてモイラ、ジャッキー、クライブは息を呑んだ。アニーの様な非力な魔法使いにとっては垂涎のアイテムだ。思わず口に出して確認した。
「つまり、その日に使える魔法が中級魔法一回分増えるのですか?」
「そうなりますね」
クリスティンにとっては誤差範囲だが、貴族でも弱い魔力の持ち主と、平民の魔法使いにとっては大きな効果がある。
エドウィンはさすがに釘を刺さざるを得なかった。
「外部に出されると困るものだね」
「日照りが続いた時には近隣領主に高価に売りつけていますよ。水魔法を貯めこんだ上で」
「なるほど、弱い水魔法師に使わせれば畑に撒く水を増やせると」
「使ったら回収してまた水魔法を充填すれば高く売れますし」
「耐久性もあるのかい?」
「敢えて耐久性は落としていますよ」
そう、魔女達にとっては誤差範囲の容量だから、これが有効な道具となるのは魔女以外の魔法使いであり、田舎貴族の反乱の道具になり兼ねず、耐久性を持たせる訳にはいかなかった。
「森の魔女の里の見識の正しさには敬服するよ」
「そういう訳で、サンプルとして3つ売りますが、どう値付けしますか?」
「とりあえずモイラの作業場提供と、官舎の提供、手付金の金貨一枚の支給とする。もちろん、今後10年の魔法研究所への専売契約込みだが」
「それでお願いします」
「と、簡単に言うと言う事は、似たアイテムがあるのだな?」
「もっと大きくなりますから、そうそう売れませんよ」
「もっと小さいのはあるのかい?」
「使い捨てになりますから、影響は小さいと思うんです」
「分かった。身内以外に売るのは控えて貰えれば構わない」
「ありがとうございます」
まあ、森の魔女の里近辺で売っているものは王都への影響は殆どないから問題ないだろう、とエドウィンもクリスティンも割り切った。そもそも態々口に出さなければバレない事だ。
「さて、モイラ。使い捨て版が5個あるから、毎日一つずつ身に付けて貯めこんでおいて頂戴」
「なるほど、その時の為に魔力を溜めておけ、という事ね」
「ええ、使わなくて済むなら良いのだけれど、保険は必用だものね」
「ジャッキーとクライブお兄さんも2つずつ溜めておいてくれません?」
「あら、私も出番があるんだ?」
「そろそろ暴れたがっているかな、と思って」
「そんなに暴力的じゃないわよ?」
これにはクライブが口を挟んだ。
「そろそろ暴れないと何をするか分からない。上手く解消させてやってくれ」
「ちょっと!」
「お兄さんも手伝ってもらいますよ?」
「まあ、ジャッキーのお目付け役で付いて行く必要があるからね」
次回更新は水曜ですが、動き出すのは来週日曜になりそう。明日はキアラの更新です。




