9−12 後片付け
サンドゲート海岸の方は、翌日にレイラが水鳥の偵察で船団が完全に撤退したのを確認して、完了した。
一晩過ぎて、満潮が砂浜の痕跡を綺麗に洗い流していた。クリスティンとクロちゃんは二人だけでのんびりと散歩をしていた。
「大した事が無くて良かったわね」
クロちゃんからすると、クリスティンがいなければ大変な事になったと思うし、
海賊達にとっては大変な事になったとは思ったが、クリスティンに精神的な負担をかけたくないからそれは口に出さなかった。
「クリスティンが頑張ってくれたからね。お役に立てなくて済まない」
クリスティンはにっこり笑って横目にクロちゃんを見た。
「そばにいてくれるだけで良いから」
クロちゃんもはにかみながら笑った。
「あの闇魔法の魔女はこれからどうするんだろう。あまり良い扱いで無かった様だし、ここでも活躍は出来なかったのだし」
「部下の功績は自分の功績、自分の失敗は部下の失敗とする人は沢山いるからね。でも、少なくともこの海岸で私達が彼女を傷つける必用も庇う義務も無かったから、そこから先の責任は彼らのものよ」
「そりゃそうだな」
二人は手を繋いで歩いていたが、この時、クリスティンは両手でクロちゃんの手を包んだ。
「戻ったら受けられなかった授業の内容を二人で勉強しましょうね」
仕事をして帰ったら自主学習が待っている。クリスティンも報われないとクロちゃんは思った。
「あまり役には立てないだろうけど、一緒に調べものをしよう」
クリスティンはにこにこ笑った。クロちゃんが気を使ってくれるだけで幸せだった。
「大丈夫。そのくらいはもう予習してるから。しっかり教えてあげるからね」
「そりゃそうか」
真面目なクリスティンが予習くらいしていない筈が無かった。
二つの足跡が西に向かい、途中で東に引き返した。王都から離れたこの海岸には、何もなければ人は集まらなかった。クリスティンとクロちゃんは昨日の事など忘れて、静かな砂浜で二人の時間を過ごした。
一方、カンタベリーに戻ったグレゴリー・ボーフォートは兄ハリーの叱責を受けた。
「魔女にとりあえずの物資を届けようとした代官を捕らえるとは何事だ!」
「しかし、魔女達は我が家を貶めたんだ!面子を優先する必用があったんだ!」
「だから謝る謝らないは棚上げして物資を届けよ、と代官に命令を出したんだ。私の命令で動いている者を邪魔して捕らえるとは、何時からお前は私より偉くなったんだ?」
「だが家名を守るのも大事な筈だ!」
「だからその判断を私がしたのに、それを勝手に覆すのは、家内で大事な指揮系統を乱しているだろう。お前はこの件が片付くまで謹慎だ」
「俺の話も聞いてくれよ!」
「お前が私の話を聞かないで勝手をするのが悪いんだろう。暫く反省しなさい」
間もなくボーフォート候の代理の侍従がカンタベリーに到着した。父親の判断もグレゴリーの謹慎だったから、グレゴリーは後日父親が領地にやってくるまで外に出られなかった。サンドウィッチ海岸方面の集落への兵の派遣は前もって計画されていたので、相手の兵力を越える100人以上の兵を送った。続いて輜重隊が続き、現状を確認し、海賊達がいない事を確認してからハリー・ボーフォートは侯爵が書いて送って来た詫び状を持ってサンドウィッチ海岸に向かった。
サンドウィッチ海岸近くの風塵の魔女達の陣地に先に着いたのはサンドゲート海岸から出発したカーラの方だった。
「里長、サンドゲート海岸の王子から貰った物資を持って来たぞ」
「何だい、随分話が早いんだが」
「王子は読んでたよ。だから、自分が間接的に頼んだ風の魔女の里に、自分の方から物資を送りたかった様だ」
「ああ、男はそのくらい女に気を使わないといけないな。丁度いいから戻ったら押し倒して子種を貰って来な」
「だからその話は後にしろよ!」
「まあ、とりあえず贈り物を受け取るかね。いい女は男からの贈り物は拒まないもんだからね」
「はいはい」
そうして王子側からの物資を荷馬車から降ろし終わる頃、ハリー・ボーフォートの先触れがサンドウィッチ海岸に着いた。
「家の者が失礼を働いた事を謝罪したい、間もなくこちらに来る、かい」
里の女達は肝心のグレゴリーの無礼の内容はあまり分かっていないから、ピンとは来なかった。
「まあ、カーラの気が済めばどうでも良いけどね」
「そうさな、私とカーラで会えば良いか」
と言う事で里長とカーラで次期侯爵の謝罪を聞く事にした。
里長の前で跪いたハリーは里長の手を取ってキスをした。
「尊敬すべき隣人の長とお会いできて光栄です。この様な事で参上する事となり誠に遺憾に存じます」
まだ可愛げのある若い男にかしずかれて里長は気分が良かったから、気楽に答えた。
「何、この娘が口喧嘩をしただけだから、こちらに謝って貰えれば問題ないよ」
その言葉を聞いて、ハリーはゆっくりとさも惜し気に里長の手を離した。そしてカーラの手を取ってやはりキスをした。
「慎み深いご令嬢に、愚弟が失礼を働き申し訳無かった。後日、お詫びに一席設けたいと思う。この哀れな男にご令嬢に償う機会を是非与えて頂きたい」
ここまで言われてまだ怒り続ける程カーラも根性が曲がっていなかった。ただ口が悪いだけなのだ。
「貴方の謝罪を受け入れよう。後日のご招待を楽しみにしている」
「おお、お許し頂けるのなら是非お迎えに参上する」
「良かったねぇ、カーラ。ついでに一晩愛の交歓でもしてもらいなさい」
里長のセクハラは相手構わないものだったが。
「いや、申し訳ない。実は私は既婚者で」
女の扱いの上手いいい男は大概結婚している、の法則通りであった。
もう一悶着させようと思ったんだけど、ハリー・ボーフォートが舌が良く回るやつなのでカーラを怒らせ様がなくなりました。
これで9章を終わります。10章の構成がまだ纏まっていないので、水曜は閑話とかコントになるかもしれません。明日のキアラはもう書けてますので更新します。




