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9−8 サンドゲート海岸の朝 (1)

 第三王子エドウィンは一同に説明した。

「どうやら今朝が上陸の日の様だ。間に合って良かった。クリスティン、説明してくれ」

「ロングシップが10隻と、アザラシの母船と補給の船が揃っている様です。アイスちゃんと先輩さんは作戦通り西側から水魔法でアザラシの気を引いてね。中央には私がクロちゃんに護衛して貰いながら魔法攻撃を行います。王子様とジャッキー達は東より後方に、カミナリさんとイザベラは東で適当にお願い」

その言葉にジェシカが噛みついた。

「私への指示が適当過ぎない!?」

「どうせキレたら手に負えないから、好きにして」

「そう簡単にはキレないわよ!!」

周囲から見たら今すぐにでもキレそうだった。

「ジェシカ、まあ、臨機応変にしてくれれば良いから。今はすこし落ち着こう」

クライブが抑えに回ったが。

「だって、適当過ぎない!?」

「侵略者の上陸を前にして気が立っているのは仕方がない。でも、ちょっと落ち着こう」

ぶぅ、とジェシカは頬を膨らませた。クライブに甘えているのだ。

とりあえずクライブはジェシカの肩を抱いた。

「では、出発しよう」

王子の音頭で出発する事になった。


 砂浜の後方の土手近くで待機している間、クリスティンは肩にかけた帆布のショルダーバッグから魔法棒を取り出してクロちゃんに見せた。

「この間、アザラシ魔法棒を見て気に食わなかった様だから、わんちゃん魔法棒を作って来たのよ」

その魔法棒の先端には、耳の垂れたトイプードルの様な子犬が棒の先端方向に首を伸ばして、口に小さなエメラルドを咥えていた。いや、俺、狼だから耳垂れてないけど…君が見た俺はこんな子犬なんだね…と思ったが、とりあえず返事はした。

「可愛いね」

「可愛いでしょう?」

クリスティンは花弁が零れる様に笑った。それを見られたからクロちゃんとしては幸せだった、と思う事にした。


 そうこうしている間に、クリスティンは船の気配を感じた。

「うん、帆を降ろしているけれど、マストの先端が見えている。もう船は上陸体制に入っているのね」

クロちゃんにはまだ見えないから、クリスティンの言葉にだけ対応した。

「帆を降ろしているのに上陸するのか?」

「風に関わらず、オールで漕いでいるのよ。朝の凪でも進める様にね」

「ああ、なるほど。昼と夜で風向が変わるけど、朝夕は凪ぐって言うからな」

「もちろん、天候次第で風が吹くけど、今は晴れだからね」

遠くでアニーの声が響いた。

「アザラシが後、半マイルで上陸します!」

クリスティンがぼやいた。

「アザラシの速度が分からないから、半マイル進むのにがどのくらいかかるのか分からないわね」

「アザラシの上陸は良いとして、その後の船の上陸とどのくらい時間間隔があるかが重要だよな」

「まあ、アイスちゃんと先輩さんの力量が問われるところね」

「デボラに何を期待しろと?」

「きっと今日こそは期待に応えてくれるんじゃないかと願っているの」

「期待に応える人材と、応えてくれない人材がいると思うんだが」

「ごめんなさい、私はまだ夢を見たい年頃なの」

「君の夢が叶うと良いとは思うんだが」

無理じゃないかな、とは二人共思っていた。


 そうしてアザラシの体を引きずる音が聞こえてきた。何せ40頭程上陸している。西側からデボラとレジーナがウォーターランスで一匹一匹の顔を叩く。アザラシ達が西を向いて、何が起こっているのか気にしている。クロちゃんが見たところ、大体が顔近辺に着弾している。

「300ftはあるのに、よく当たるな」

「まあ、魔女ならこのくらいはね。問題は大勢に近寄られても退きながら攻撃出来るかよね」

アザラシ達は水が飛んでくる方に這いずって進んでいる。一方、上陸の為に向かってくるロングシップはまだ乗船している海賊達の顔が判別出来ない。転覆してマストが海底の砂に刺さって復元に人手がかかるレベルの浅瀬で横風攻撃を行いたい。まだクリスティンの攻撃は待つべきだった。


 退きながら水魔法で攻撃を続けるデボラとレジーナは、近づいて来るアザラシから離れてもいけないし、近づきすぎると危険であるし、我慢強く攻撃と後退を続けなくてはいけなかった。我慢。これが一番苦手な人物がこの役に就いていた。

「があっ!数が多い!ちょっと減らそう!!」

「ちょっと、待てデボラ!」

だから、デボラは待てと言われて待つバカはいない、と考える性質の人間だった。ウツボ魔法棒をぎゅっと握って叫んだ。

「アイスランス!突き刺せ!」

先頭のアザラシは体の大きな、群れのリーダーだった。その頭部にぶつかり砕け散った氷を群れ全体が見ていた。

「ぶもぉぉおぉぉお!(怒)」

しかもその近くにこの間アイスランスをぶつけられたアザラシがいて、この間の事を思い出した。

「ぶもぉおぉおぉ!!(怒)」

二匹の怒りに群れ全体が怒り出した。人間並に扇動に弱い連中らしい。まあ人間も犬猫並なのだが。


 レジーナが怒鳴った。

「馬鹿!今回は運んでやらないからな!」

「ケチ~~~!!!」

そうして二人で砂に足を取られながら走り出した。


 他の面々もやはりデボラが思っていた通りにやらかした事を悟った。クリスティンの割と近くにいた第三王子エドウィンが少し大きめの声で言った。

「狙い通りにデボラがアザラシを引き付けてくれている。そろそろ海賊達をやってくれ」

「別に狙っていた訳じゃなくて…最悪こうなるからアザラシを引き付けてくれるかなと思ってはいたけど…」

ぶつぶつ呟くクリスティンの声はもう少し遠くにいるジェシカには聞こえなかったが、幸いイザベラが風魔法の音波伝達強化を使って聞いていた。

「何か言ってる?」

「狙っていたけど狙っていないって言い訳してるんだ。まあ仲間の一部を犠牲にして目的を達成するくらい冷徹じゃないと森の魔女を代表する魔女とは言えんだろう」

「何、良い人ぶってデボラを犠牲にしてるのね」

悲しい事に、クリスティンも風魔法で周囲の声を音波伝達強化で聞いていた。そんなつもりじゃないのに、と内心激しく傷ついてしまった。

 ジェシカとイザベラの他人事感が、なんだかんだと言ってクリスティンなら何とかするだろうと思っているのを示しております。女二人が集まると、共通の知人の悪口で盛り上がるなんてことを表現している訳では決してありません。


 明日はキアラの更新。火曜分が書けてないですどうしよう。こちらの続きは水曜に。

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