9−7 サンドウィッチ海岸方面 (3)
文章中に刺激の強い表現があるかもしれません。お嫌な方は日曜の更新をお待ち下さい。
「くっさ!風上から船が近づいて来ると思うよ」
「大型船は特に臭いからね。それじゃあみんな、蛸壺に隠れな。草むらの二列目は一列目の後退まで手を出すなよ」
そうして、船が海岸に接舷してすぐに攻撃をする蛸壺班が一列目、相手が近づいたら蛸壺班の後退を援護する草むら班が二列目を作った。
そんな海岸の北東から船が近づいて来た。
「上陸しやすいロングシップだね。どっちにしろ離岸する時は帆走じゃなくてオールだ。最初の船が接舷する直前に近くの船に鎌鼬と強風の連続攻撃だよ」
喫水の浅い細長い船が20隻以上近づいて来た。里の守りに子供を含めて100人残っているが、こちらにも100人以上の魔女がやって来ていた。とは言え、20隻からそれぞれ20人以上が上陸するなら圧倒される可能性がある。漸減作戦とならざるを得なかった。
帆走の速度で岸に乗り上げるとは言え、どこかで重心を下げる為に帆を降ろすだろう。だからその直前に帆を攻撃する必要があった。最初に攻撃する役目の魔女が鎌鼬を帆にぶつけたが、帆布はそう簡単には破けなかった。だから続けて強風で攻撃をし、帆にストレスがかかっている状態で次の鎌鼬がぶつけられた。横風を断続的に受けた船は揺動したので、前進の速度が乱れた。
「さすがに帆布は頑丈だね。縄の方に攻撃を変えるんだよ」
縄は縄で固かったが、布の面積で受ける圧力変化より局所的なストレスが高くなり、やがて縄が切れて帆が船体まで下りてしまい、帆走が不可能になった。それでも岸にむかって惰性で進んで来た。まだ後方で攻撃を受けた船はオールを使って岸に向けて進んだ。
そうして前列の船が岸に着いて、海賊達が船から飛び降り、浅瀬を走り始めた。この浅瀬にいる間に攻撃をして敵の数を減らす必要があった。海に慣れた海賊だとて、浅瀬を素早く走って進む事は出来ないからだ。海賊達は飾り付きの鉄兜を被っていたが、顔面は無防備だったから、鎌鼬は効いた。浅瀬を走る海賊達の顔から血飛沫が飛び散り、目を押さえて立ち止まる者、運動中の失血により気が遠くなって倒れる者などが続発した。
それでも全ての海賊を倒しきる事は出来なかった。盾で顔面を守りながら足元だけ見て海賊達は上陸した。先程からの風魔法の攻撃から、海賊達は立ちすくむのが一番不味く、風攻撃よりも早く走りこもうとしたが、周囲を見渡す暇がなく、攻撃手の位置を掴めなかった。とは言え、50人以上が上陸するといつまでも波打ち際が見える蛸壺に入っている訳にはいかなかった。そうして蛸壺班は後退し、彼女達を目指して海賊達は聞きなれない雄たけびを発しながら走ろうとしたが、二列目からの風攻撃を受けて立っていられなくなった。とりあえず上陸した海賊達は、盾を並べて休める場所を作った。橋頭堡という訳だ。
もちろん、風塵の魔女達は横向きの攻撃を続けたが、海賊達も多数が集まって盾を横にも並べて防御を固めた。臨時の陣は風魔法に対してならそれなりの防御効果を持つようになったので、仕方なく二列目の魔女達は後続の浅瀬を進む海賊達を鎌鼬で攻撃した。血まみれになっても何とか上陸する者とその場で倒れて赤い海水の中に浮かぶ者が次々と増えて行った。
上陸する者が増えてくると、弓から身を守る為の木の板なども上陸する様になり、岸辺の橋頭堡は強化されていった。他方、海賊たちの内陸部への侵入は進まなかった。橋頭堡から顔を出した海賊は左右からの鎌鼬の集中攻撃を受けて倒されたからだ。
こうして、海辺の攻防は膠着状態になった。魔女達の前線が下がったことから、後続の船は完全に陸に乗り上げ、これを横にして防御に使う様になった。海賊側の損害は多く、退却する際には全ての船を操る人数はもう残っていないから、船を全部守る必要は無かった。
「上陸拠点は作られちまったね。とは言え、あれだけ死体が転がっていたらもう陸上での荒事は大して出来ないだろうよ。もう一列下げるよ」
こうして魔女側の戦果は大きかったが、魔女達からすれば死者を出してまでボーフォート候の領地を守る必要はないから、風塵の魔女達も距離を取って休む事にした。相手が偵察部隊を出そうとした際には、散発的ながら鎌鼬を放って損害を与えた。
「ちいと疲れたけれど、これだけ血を見ると楽しいねぇ」
里長はもういい年なのに充分恐い女だった。連続攻撃で疲労した体内の魔法伝達系の回復を促す水だし茶を魔女達は飲んで、続く後退戦に備えた。
「疲労の大きい者がいるし、神経が細いのが何人か泣き出したから、こいつらは後ろに下げるよ、里長」
「ああ、そうしとくれ。しかし、海賊達を何とか100人以下にしないと、色々荒らされそうだね。監視の者の連絡を待って、あいつらが前進しだした際には更に半減させるよ」
3隻の船を陸揚げして盾に使っている事から考えて、100人以上が上陸しているだろう。
「まあ、ボーフォート家の馬鹿が居座っている集落方面は無視していいね。痛い目に遭わないと勉強しない奴は多いからね」
「領主の息子らしいから、そいつだけは部下が死に物狂いで逃すだろうよ。何なら後で首を頂きに行こう」
魔女達は魔女らしく、残忍な顔で笑った。
さて、海賊達は当然、サンドウィッチ海岸周辺の集落の情報は得ていた。でないと上陸後に道に迷う事になる。ここまで頑強な抵抗を上陸時に受けるとは考えていなかったが、この部隊は広範な上陸作戦の内の一部隊であり、損害が出てもこの地で一定の騒動を起こす必要があった。だから彼等は、集落とは違う南側に一部の兵を向けて、敵がそちらに対応する隙に集落に向かう主力を出す事にした。
「ああ、見え見えの陽動部隊だね。まあ予定通り、集落側は無視して陽動部隊を全滅させてやろう。陽動部隊には援護が無いだろうからね」
そうして陽動部隊は半マイルほど進んだところで全周からの鎌鼬を受けた。
部隊は必死に固まって全周を盾で守ったが、左右からの強風攻撃で開いた隙間に鎌鼬を割り込まれ、段々と数を減らしていった。
「〇△●▽!」
海賊達は必死に降参の言葉を発したが、この国の言葉とは違う言葉で、特に田舎に引きこもっている風塵の魔女に理解出来る筈もなかった。一人でも助かろうと残った数人は散開して逃げようとしたが、多勢に無勢だった。血まみれの死体が30程周囲に転がり、この方面の戦闘は終了した。
一方、集落方面には60人の海賊が向かった。集落は侯爵の子息がいるのでそれなりの護衛がいた上に、代官の護衛も合流していたから普通の集落より兵力は多かったが、あくまでここは魔女との交渉の場だったから、誰も海賊と戦う覚悟が無かった。集落の外れには海岸方面の監視台があり、集団の接近を警告した。
グレゴリー・ボーフォートに戦闘指揮など出来ない為、グレゴリーの護衛隊長が指示を出した。
「集落の住民はともかく西へ逃げろ。我々は村長宅を拠点に防御戦闘を行う」
村長宅には蔵もある為、それなりの柵があったので防御力が一応あった。とは言え、60人と戦う事は出来なかった。だからグレゴリーと代官も集落の住民とは別方向に逃れた。翌日の夕方、ボーフォート家の軍勢がこの集落に到着した時には、略奪された家々と物言わぬ死体しか残っていなかった。
ちなみに、この集落を襲った海賊達は、略奪物資で足が遅くなって戻ることを見越した風塵の魔女達の待ち伏せ攻撃を受けた。路上に複数の障害物を置かれて前進を阻止され、集落での戦闘で疲労していた海賊達には防御上の粘りが無く、なす術もなく全滅した。
もう魔女達の攻勢に対抗する事が出来なくなった事を悟った海賊達は、陸揚げした船を捨てて残りの船に戻って退却した。
という訳で、サンドウィッチ海岸方面の侵攻は阻止しました。次回はサンドゲート海岸の話になります。クリスティンが主力だから血生臭い表現は無い筈。
明日はキアラの更新です。こちらの更新は日曜になります。




