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9−6 サンドウィッチ海岸方面 (2)

 グレゴリー・ボーフォートは領主の館のあるカンタベリーまで戻る事も出来ず、報告書も夕方ではなく朝に出す事にした。愚者は失敗を隠蔽したがるものだから。そうして次の日の朝、学院の後輩の誹謗中傷を受け、交渉が中断したと報告を出した。


 昼食後に報告を受けた侯爵家長男のハリーは、代官と相談する事にした。

「誹謗中傷とはあるが、魔女に対して喧嘩を売った事の言い訳だろうな」

「グレゴリー様はいささかプライドを重視し過ぎるところがあります。魔女の里との交渉はむしろ他国との外交と考えて、相手への敬意を失した交渉は避けるべきですが」

「家の面子を重視したとも言えるが、多分、自分の面子を優先したんだろうな…」

「まず領主様に早馬を出しましょう。情報を伝達する事が肝要と思われます。一方、風塵の魔女に実情を聞き取り、口論はともかくまず支援物資を出しましょう」

「そうだな。感情論はさておいて、侯爵家としては敵対意図が無い事を示すべきだろう」

「何かあった場合に備えて、私が出向きます。問題が大きくなった場合は若様のご指示で事態の鎮静化をお願いします」

「弟の後始末で苦労をかけて済まないな」

「我が忠誠をいささかでも示せるのなら本望です」


 そうして代官はグレゴリーの滞在する村に日が暮れる前に到着した。

「グレゴリー様、ひとまず私が魔女達の許に参ります。謝罪などについてはとりあえず棚上げで支援を進めます」

「待て!家名を貶められてまで頭を下げる事は許さん!」

もっともらしく激高してみせているが、事実を隠蔽したくて行かせたくないだけである。

「ですから、その件は後日、一方で魔女への支援は進めるという方法で、最悪の事態を回避致したく存じます。魔女達への支援は領主様のご意思でございます。お兄様にも了承を得ております。ですので、代官としてお家の命を優先致します」

「衛兵!この者を逮捕せよ!我が指示に抗命した反逆罪だ!」

要するにこの男、下の者はとことん見下す男である。忠告は聞かないタイプだ。

立哨の者達もグレゴリーより代官の命令を重視したいが、侯爵家への反逆としての逮捕に抗命すれば自分達も同罪とされる恐れがある。まず代官を拘束する事にした。


 兵達はとりあえず代官に待機をお願いした。

「申し訳ありません。領主様のご子息の反逆罪での拘束指示には従わざるを得ません。この件は領主様のご裁定で覆る事と思われます。暫く待機して頂けないでしょうか」

「仕方が無いな。しかし、ハリー様にご負担をおかけして申し訳がないな…」

「致し方ありません。ご不便をおかけしますが、暫くお待ちください」


 その頃、王都ではカーラの養父であるフランクランド男爵がボーフォート侯爵と面会していた。第三王子エドウィンには予測通りの展開だから、王子の紹介状を持っての訪問だった為、優先した面会が行われた。

「そういう訳で、我が養女カーラが風塵の魔女の代表として出向いた集落で、ご子息との口論となり里と侯爵家の喧嘩の売り買いとなった模様です」

ボーフォート侯爵としては頭の片隅にあった悪い予想が現実となった形で、その場で頭を抱えた。 

「魔女達を刺激するなと釘を指しておいたのに、このザマか…」

「とりあえずエドウィン殿下がサンドゲート海岸近くの集積地からサンドウィッチ海岸に向けて至急、物資を送る予定です。これで魔女達に一息ついてもらった上で、候の方から追加の物資を送り、魔女達の怒りを早急に沈める事が肝要と思われます」

「…殿下は道化を演じておられても、流石に読みの鋭さは隠せぬものだな。まずは殿下のご厚意に甘えて、続けての支援にて関係の改善を図ろう。よく伝えてくれた。いずれこの恩には報いよう」

「殿下のご威光にございますれば、お気になさらぬようお願いします」

「そうもいかん。だが、とりあえずありがとう」


 フォークストーンに第三王子エドウィン一行が着いたのはまだ日が沈む前だった。

「今朝はアザラシの上陸はあったのか?」

「ありませんでした。水鳥の偵察を出しましたが、大型船二隻と東方の監視船と思われる船だけが帆を降ろしておりました」

「作戦会議で忙しかったか。明朝も偵察を頼む。レイラも数日は偵察を頼む」

「雇われ者として、給料分は働きますよ」

「今回の出張手当は割り増しで出す様に話してある」

「よろしくお願いします」


 そして日が暮れた頃、フォークストーンに風塵の魔女カーラ・フランクランドが着いた。

「全く、王子は分かってたんならもっと早く動いてくれよ」

「いや、ボーフォート家の対応次第でこうなると思われたから、こちらに物資を移動しておいたんだ。最初からこうなると思っていた訳では無いんだ」

「何か白々しいが、まあ良い。物資は明日の朝に出ると考えていいか?」

「ああ、早い方が良いからな」

「では、私はそちらに付いて行ってサンドウィッチ海岸で混乱を起こさない様にすれば良いんだな?」

「ああ、それで頼む。後、一筆書いてあるから持って行ってくれ」

「詫び状かい。準備のよろしい事で」

「上陸部隊の阻止を自主的にやってもらっているんだ。これくらいはするさ」

「なるほど、そっちが物資を出す必要があった訳だ。狙い通りなんだな」

「ボーフォート候がもう少し慎重だったらこうはならなかったよ」

「そこも読んでいたんだろ?恐い恐い」

「何、君達ほどじゃないさ」


 王子は輜重隊を暗いうちに出発させた。サンドゲートのいざこざで出発が遅れる可能性を危惧したんだ。そうして日が昇り水鳥の偵察をレイラが出して暫くすると、レイラが呟いた。

「ああ、12隻になってるよ」

「どういう事?」

「船の高さが低い、細長い船が10席、大型船2隻と一緒にいるんだ。どうする?東の船を探しに行く?」

「一旦距離を取って。探索をしていると思われたくない」

「はいはい。それで、どうする?」

「殿下に伝えてくるわ」

 水曜の話は、確か血という表現は控えている筈ですが、嫌な人は読み飛ばして日曜更新をお待ち下さい。明日はキアラの方の更新です。


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