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9−5 サンドウィッチ海岸方面

「はあ、よりにもよって学院で悪名高いカーラ・フランクランドが出てくるとはな。それでどんな因縁を付けに来たんだ?」

「それはこっちの言う事だな。頭でっかちで教科書に載っていない事は何も分からないお前がボーフォート侯爵家の代表と来た。侯爵家は風塵の魔女の里をどれだけ軽視しているのか。いいから、下っ端役人を出せ。まだ現場を分かっているだけお前よりマシだ」

「侯爵家を馬鹿にするのか!?私の一存で里一つくらい潰す事が出来るのだぞ!?」

「只の里なら出来るだろうが、魔女の里が侯爵家如きで滅ぼせるものか。そんな風に世間知らずだから頭でっかちの大馬鹿者と呼ばれるんだ」

グレゴリー・ボーフォートは顔を真っ赤にした。彼自身、教科書を真面目に覚える事は出来ても、実世界の事は経験不足であるという自覚はあったが、よりにもよって学院一口が悪いと言われる下級生に指摘されるのは我慢がならなかった。要するに、見下している相手に見下されて、キレてしまった。

「貴様如きが分かった様な事を言うな!それ程世間が分かっていると言うなら、我が家を通さず何でもやって見せてみろ!もう我が家は貴様等の事など知らんからな!」

「最初から侯爵家如きを当てにはしてないさ。風塵の魔女の威力を思い知ると良い」

感情論者と、口の悪さでは人後に落ちない者とを交渉役にする双方に問題があるとも言えるのだが、カーラについては何でこんな人間に育ったか、という問題があった。つまり、風塵の魔女の里の女達は全員、他人の話を聞かない者揃いだったのだ。もっとも、今回は下手に双方が相手の悪評を知っていたからより拗れた点は否定出来ないが。


「里長、ボーフォート家は次男で学院一の大馬鹿者を交渉役に出して来た。馬鹿が世間知らずにも里に喧嘩を売って来たから、買ってやったぞ」

「あんたも気が短いねぇ。まあそれでこそ風塵の魔女だってところだが。そっちをどうにかする前に、とりあえず前面の敵を何とかしてからだ。背水の陣の侵略者の方が始末しやすいからね。但し、こっちの対陣の準備が出来てないから食料を手に入れないと待っていられない。だから、カーラ、あんたは王都に戻って王子から食料なり金なり分捕ってきな」

「分かった。でも、王都に戻って返ってくるまで食べる物はあるのか?」

「何、鼻の利く魔女が風が臭いと言っている。つまり侵略者の帆船はそろそろ攻めてくる頃合いさ。さっさと始末して後ろの馬鹿者達を攻める前に宴をやろうじゃないか。その分を分捕ってきな」

「なるほど、分かった」

こうしてカーラは馬を借りて王都に戻って行った。


 一方、レイラとアニーの報告を受けた第三王子エドウィンは、一同を集めた。

「アザラシは大型の帆船に集められているらしい。その帆船は補給を受けている事から、そろそろ頃合いと思われる。サンドウィッチ海岸方面からの報告はカーラからもボーフォート侯爵家からも無い事から、明日出発すればフォークストーンの上陸は充分阻止出来ると思う。態々本隊の上陸を予告する様にフォークストーンへの上陸を先にする事はないだろうからだ。そういう訳で、明日早朝に出発する」

これに対してジェシカが挙手をして質問した。

「現地での布陣はどうするのですか?」

「西からのレジーナとデボラによる水魔法でアザラシを誘引した後、クリスティンの風魔法で後続の上陸部隊の帆船を難破させる。数によっては現地にいるレイラと、同行するイザベラにも風魔法で手伝ってもらう。難破した船から上陸した者達は、当初はジェシカが、船の処理が終わったら全員で押し戻す」

「例えば、風塵の魔女から援軍は貰えないのでしょうか?」

「東岸が敵上陸部隊の主力と思われる。そちらの戦力を減らせないから無理だ」

イザベラが目を瞑ってニヤニヤしているのを見て、ジェシカは小声で話しかけた。

「あなた、不安は無いの?」

「だから、こっちの主力は恐怖の魔女だ。せいぜい怖い思いをして逃げ帰ってもらうさ」

イザベラはわざわざクリスティンに聞こえるボリュームで喋っている。聞こえたクリスティンが口を開いた。

「そこ、事実と異なるデマを流すのは止めて頂戴」

「事実だ」

イザベラはクリスティンに睨まれて幸せだった。それを王子が羨ましそうに見ていた。駄目な二人である。


 解散した後、クロちゃんがクリスティンに話しかけた。

「接近戦なら俺も役に立てると思う。クリスティンの最後の盾になるから、安心してくれ」

可愛い子犬の背伸びした言葉に、クリスティンはときめいた。なんて健気な子でしょう!

「ふふふ、ありがとう、クロちゃん。私から離れないでね。絶対あなたを守るから」

いや、そうじゃなく、俺が君を…クロちゃんは肩を落とした。


 そうして王子を含む一行がフォークストーンに発った後、カーラは王都に着いた。学院の職員にそれを聞いたカーラは悪態を吐きそうになったが、職員から王子の伝言を受け取って、養父に会いに行く事にした。

「そういう訳でボーフォート家次男は風塵の魔女の里に喧嘩を売ったぞ。王子は何か言っていたのか?」

「早馬を出す様に言われている。それは今すぐ発たせる」

「どこに行くんだよ、早馬は」

「もちろんサンドイッチ海岸とサンドゲート海岸西のハイスの物資集積地だ。サンドイッチ海岸の風塵の魔女の駐留地を教えなさい」

「何を伝えるんだよ」

「ハイスの地に風塵の魔女の里向けの支援物資を先行して集積してあるんだ。これを急ぎサンドイッチ海岸に送る、と伝えるんだ」

「そんな物があるなら、さっさと送ってくれれば良いじゃないか?」

「ボーフォート侯爵の面子を潰せないだろう。これなら彼らを救済する目的だから、感謝されこそすれ文句は言えまい」

「はあ、あの王子もそういう知恵をもっと表に出せば評判も変わるだろうに」

「敢えて落としている評判を変えてどうする。殿下はよく考えておられる」

「まあ、それは良い。では私はサンドゲート海岸に行って、物資の輸送に付いて行けば良さそうだな」

「その方が魔女達の受け入れがスムーズになるだろう。行っておいで」

「ところで親父殿はどうするんだ?」

「ボーフォート侯爵に恩を売りに行くに決まっているだろう」

「王子の策だろう?」

「実際動いているんだから恩は恩さ」

「まあ頑張るんだな」

 そういう訳で危機を回避する事は考えられるエドウィン王子。人柄が残念でなければ良い王子なのですが。


 明日はキアラの更新。こちらは次は土曜の更新になります…は間違い。日曜の更新です。

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