9−4 潮目
フォークストーンの漁村に滞在する暗黒の魔女レイラに対して、封蝋をした手紙が届いた。
「あ~、闇魔法で動物を操り、その視界を転送させるなんて事に気付くのは、森の里のあの女か…余計な情報を王家に与えやがって」
外面くらいは整えるが、素は気の荒い魔女の一人であるレイラだった。研究所の先輩のアニー・バーナードの部屋に行って、アザラシの上陸する日の砂浜への出発をこれまでより早くする事を告げた。
「手紙の内容に関する事?」
「そう。大きな声では言えないけれど、アザラシの後を付ける方法を考えたんだ」
「鳥でも操るの?」
「…大きな声では言えないと言ってる事を言い当てないでよ!分からないフリぐらいして!」
「闇魔法でアザラシを操る連中の事を『系統が違う使役魔法』って言ってるんだから、あなたも使役魔法を使えると普通は思うでしょ」
「あなたも一応魔法使いなんだから、相手の秘密を守るフリくらいしてよ!」
「はいはい。何をやりたいか分からないけど頑張ってね」
「こっちがやる気になってるのに無関心ってどういう事!?」
「…面倒な娘ね」
アザラシの上陸する前のまだ暗い海岸の、近くの茂みにレイラは入り込んだ。
出て来たレイラはアニーに右手を見せた。
「ほら、これ」
レイラの右手は口を開けて放心している白地に黒の色が混じった小鳥を掴んでいた。
「阿呆になる魔法?」
「使役魔法よ!今は指示待ちで呆けているだけよ」
…まあ指示をすれば真面目に飛んで行くなら阿呆にはなっていないかもしれない。アニーは反論するのを止めた。
「じゃあ、あとはアザラシが来て、帰って行くのを待つだけね」
「そりゃあ、迎撃の命令が出ていないのだから監視しか出来ないしね」
「あら、本当はあれを八つ裂きにでもしたいの?」
「あんな無様な生き物を相手にしたくないわ」
「自然に対する敬意が足りないんじゃない?」
「そんなものは教わってないわ」
どんなだよ、とアニーは思ったが、魔女の里はいずれ劣らぬ気の荒い者揃いなのだろうな、とも思った。愛が足りないのか、鉄分が足りないのか。
そうして上陸したアザラシが暫く周囲を観察した後帰って行く時に、レイラは小鳥の顔を自分の目の前に持ってきた。
「お前は私の傀儡。さあ、あのアザラシを上空から監視するの、行きなさい」
そうして羽ばたき始めた小鳥を上に放り投げた。
小鳥は上空に飛び上がり、時々羽ばたきの速度を調節しながらアザラシを上空から追跡した。
アザラシの泳ぎはあまり速くなかった。のんびり泳ぎながら南東に進んで行くと、その先に大型の帆船が浮かんでいた。
「帆船がいるのか…水中に何かぶら下げている様には見えないけど…」
「帆船に向かっている?でも船の甲板って結構水面から高いよね?乗れるの?」
アニーが尋ねるが、レイラは帆船には興味が無いから何の知識も無かった。
「さあ?筏を引いているようには見えないから、船体にくっついて寝るんじゃない?」
「どうやって!?」
「知らないわよ」
監視の小鳥は帆船から不審がられない様に、アザラシと船を通り過ぎた。
「あ、船乗りの男達に混じって魔女っぽい女が何人かいる」
「そりゃあ、闇魔法師がいるでしょうよ」
「いや、出身地が違いそうな女達なのよ。服装が違う」
「ふうん?」
通り過ぎた小鳥が大きく回って陸方向に向きを変えると、船の隣に氷が出来、どんどん成長していくのが見えた。アザラシはその氷に飛び乗り、既に氷山サイズになった斜面を上り、帆船の甲板に飛び降りた。
「ああ、水魔法師が氷山を作って、その斜面を上って甲板に辿り着くんだ」
「って言う事は、船内にアザラシが何頭もいるって事?」
「なんか、器用に階段を降りて行ったから、多分下に何頭もいるんでしょうね」
「他に船はいる?」
「東の方に一隻見えるけど、合計二隻しか見えないわ」
「もっと遠くまで行けない?」
「こいつ、小鳥だからあんまり遠くに行けないのよ。明日、水鳥を見つけて偵察させましょう」
「そうね、それなら休み休み飛べるから良いわね」
翌日、アザラシの上陸しない日だが、二人は暗いうちに海岸に向かい、まだ目が覚め切らない水鳥を見つけた。レイラが術をかけるとやはり水鳥は呆けていた。アニーはやはり使役魔法と言うより阿呆になる魔法ではないか、と思ってしまった。後輩がキレるから言わないが。
レイラの指示で飛び立っていった水鳥は、時々水面で羽根を休めながら南東に進んで行った。やがて水鳥は、アザラシを収納した帆船の東にいた帆船がその日もほぼ同じ場所にいるのを見つけた。そこから南下した水鳥が見つけた、昨日アザラシを収納した船は、そこで他の船から補給を受けていた。
「ずっと南で補給を受けているみたい」
「暫く活動するのか、もう次の行動を始める為に補給を受けたのか分からないわね。急いで報告しましょう」
アニーは封蝋を押した報告書を騎士団の連絡と一緒に王都へ運んで貰う様に依頼した。
一方、サンドウィッチ海岸に移動した風塵の魔女達は天幕を張って監視を始めていた。里と通商をしている商人に依頼して食料を持って来て貰う様に依頼したが、余計な輸送料を要求されて憤慨していた。そういう訳で里の外の人間に慣れているカーラを近くの集落に行かせて現地の商人達と交渉させようとしたが、
現れたのはグレゴリー・ボーフォート、侯爵家の次男だった。
帆船同士の補給について資料がありませんので、搭載している小舟で運んでいるイメージです。
明日はキアラの更新、こちらの更新は水曜日です。




