9−3 王都の動き
国王エルフワルドは、謁見室にカンタベリー方面に領地を持つボーフォート侯爵を呼んだ。
「隣国エセックスに海賊の上陸があり、我が国東岸付近は軍船が入り込めない状態である事は以前に告げたが、フォークストーンの方に動きがあり、これは陽動と思われる。よって、その方の領地の東岸が本命の上陸地点を思われる。この警戒、迎撃についてはこちらから風塵の魔女の里に情報を入れてある。彼女達と協力して上陸を阻止してくれ」
「ご下命、承りました。風塵の魔女達は大丈夫でしょうか?」
「怒らせるな、としか言えぬな」
「判りました。愚息に後方支援を命じます」
「うむ。頼んだぞ」
ボーフォート侯爵の長男は元々領地で公爵の代官として領地経営を学んでいたが、逆にそちらで手一杯であり、魔女の対応までは手が回らないと考えられた。そして、魔女の後方支援にはそれなりの立場の人間を立てないといけない。次男のグレゴリーは魔法学院の3年としてトップクラスの成績だったが、頭でっかちで実地や対人の経験が不足していた。この機に魔女とのやり取りで勉強してもらおうとボーフォート候は考えた。
「グレゴリー、我が領地東岸に海賊の大群が上陸する可能性がある。陛下は風塵の魔女に情報を渡し、警戒と迎撃を促した様だ。彼女達の監視を兼ねた後方支援の任務を命じる」
グレゴリーはそういう訳で経験不足だったが、秀才との評判でプライドが高かったから、不安そうな顔は出来なかった。
「大役をお任せいただき光栄ですが、兄が行った方が良いのでは?」
「ハリーは領政全体を見なければならぬ。あまりに地位の低い者を行かせても魔女達も軽視されていると機嫌を損ねる可能性がある。立場的にはお前が適任だ。ただし、気位の高い魔女達を刺激せぬ様に注意してくれ」
「分かっております。シュルズベリー家の二の舞は御免ですから」
「その通りだ。気を付けて行ってくれ」
魔法学院の応接室に、ハワード兄妹とクリスティンだけが第三王子エドウィンからの呼び出しを受けた。
「ボーフォート候は次男のグレゴリーに風塵の魔女対応を任せた様だ。あのプライドだけ高い男には適任とは思えない。そういう訳で東岸の迎撃でひと悶着ある可能性があるから、フォークストーンへの風塵の魔女からの応援は期待出来ない。そのつもりで対応に当たってくれ」
クライブは一つ指摘してみた。
「グレゴリー・ボーフォートには殿下から側近になる様に依頼があったと噂されていますが?その評価ですか」
「秀才ぶってプライドだけ高いあの男なら評判の悪い私からの誘いなど当然断るだろうと考えた上での依頼だ。そうして増々私の評判が落ちれば我が兄上達が安心するだろうからやってみただけだ」
王子に生まれるのも大変だな、ともこの王子はやっぱり策士、とも聞いている三人には思われた。
それでもクリスティンとしては確認したかった。
「御用聞きくらいは出来るのですよね?親から指示された仕事くらいは?」
王子は爽やかに微笑んだ。
「やって貰う時くらいは遜ってみせるものなのだがね。愚者は面子を優先するものだ」
三人は憂鬱になったが、あちらの事はあちらに任せるしかない。クライブが確認の言葉を告げた。
「まあ、あちらの事はボーフォート家にお任せするとして、フォークストーン方面の警戒状況は如何ですか?」
「サンドストーン海岸に障害物を置く準備は進めているが、まあ気休め程度になるだろう。西側のハイスの集落に物資を置いて、そこから支援を出来る様には進めている。ただ、実兵力は僅かだから、こちらの魔女達の活躍に期待しているよ」
「ジェシカとイザベラ、デボラとレジーナに支援を頼むとして、クリスティンが主力と言う訳ですか」
「暗黒の魔女レイラが現地にいる。彼女も複数属性の魔法の使い手だから、それなりには期待しているが」
「魔法研究所にいる炎熱の魔女はあちらには派遣しないので?」
「ジェシカと仲が悪いのだろう?同士討ちをされるくらいならいない方がマシだよ」
クリスティンが確認したいのは、イーストボーンから西の哨戒状況だった。
「ところで、王都近海から西の哨戒状況は如何でしょうか?」
「朝夕の警戒は通常より密に行っている。今のところ怪しい船舶の発見情報は無い」
クライブの意見としても王都の西の海岸線は警戒は薄くて良いと考えていた。
「海流の関係と、海賊が大陸の北の方から来る事を考えると、ドーバーの南西方向はそれほど大規模の上陸は無いんじゃないか?」
「そうは思いますが…警戒は必要と思います」
そこは王子から説明があった。
「陛下としても場合によりドーバー北への援軍派遣も必要と考えている。
それも含めて訓練を兼ねて哨戒を行っている。一定の信用は出来ると考えて欲しい」
「分かりました。フォークストーン近辺の上陸に対する迎撃を優先的に考えます」
これに対してクライブから確認の発言があった。
「フォークストーンの監視報告はどうなっているんですか?」
「レイラからの報告では、二日に一回やって来るアザラシは別の個体との指摘があった。だから、やはり襲来当日には複数のアザラシがやって来ると思うべきだろう」
「そうなると、問題はいつ来るかという事ですね。予兆は何かあるのでしょうかね?」
「フォークストーン南方の哨戒が出来ない以上、予測は難しいな。早めに動く事になるだろう」
「海流に逆らう以上、北風が吹く様な日に南下してくる可能性はありますが…風が強いという事は天候が悪い可能性が高い事から、逆に動きにくいという事もありますね…」
「どちらにしても、主攻軸はエセックスの東岸と思われる。だから風塵の魔女の警戒にかかるか、北の海岸の騒ぎで予測するのが一番確実ではある」
「予測出来ないと言う事ですね。では、二・三日の準備を行っておき、移動後に追加の馬車を家から出して貰います」
「それが良いだろう」
こうして基本方針は決まった。応接室のある校舎から出てから、クライブはクリスティンに言葉をかけた。
「そういう事だから、事前に我が家に届けてくれれば、後日に荷物を届ける様にするよ」
「そうですね、お願いします」
「殿下に聞かせたくない事、または正確に分かっていない事で言いたい事はあるかい?」
「簡単な事が一つあります。暗黒の魔女に鳥を操って哨戒して貰えないでしょうか?出来ればの話ですが」
「相手がアザラシを操れるんだから、こちらの暗黒の魔女も鳥くらい操れるかもしれないな。何故殿下に直接話さなかったんだい?」
「暗黒の魔女達が秘密にしている可能性がある為、殿下には内密に伝える様にお願いして欲しいのです」
「まあ、壁に耳ありだからね。今から伝えてくるよ」
「お願いします」
爽やかに微笑むのが悪い意味という第三王子エドウィン…
明日はキアラの更新です。こちらの更新は日曜日になります。




