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9−2 待ちの時間

 暗黒の魔女レイラは魔法研究所の粗末な馬車でフォークストーンに着いた。

「もうちょっと良い馬車が出せないの?お尻が痛くて仕方がないわ」

「魔法研究所の予算は決まっているから、馬車に使えるお金は最低限なのよ」

研究所の先輩であるアニー・バーナードはそう言ってレイラを窘めた。

「ケチ臭い」

「そう思うなら、何か素敵な研究結果を発表して、沢山予算を獲得して頂戴ね」

「気の長い話!」

魔女と言っても研究家肌な人間と、好戦的な人間、そして普通の人間より魔力に優れた事から短絡的に結果を求める人間などがいた。レイラは三番目の人間だった。


 馬車の御者、護衛兼従者と共に二人は漁村に泊めて貰った。この村には騎士団から警戒の人員が入っていたが、こちらは魔法研究所で指揮系統が違うので、挨拶をしただけで共同行動を取る予定は無かった。


 翌朝は二日に一回のアザラシの上陸する日だったので、二人は日が昇る前、空が白む前に漁村を出て砂浜に向かった。その甲斐があって、アザラシが上陸するその姿を見る事が出来た。

「ああ~、何か繋がっているわ」

「闇魔法?」

「私達が使う使役の魔法とは少し系統が違うみたい。でも、闇魔法ね」

「一々指示をしているという事?」

「いや、感覚を共有しているだけみたい」

「すると、こちらは見られている?」

「安心して。バレない様にこちらは闇魔法を使っていないから」

「それは、アザラシを介しても分かるものなの?」

「アザラシ自体は魔力を感じないわ。でも、自分の使う魔法に対する雑音として気付く事があるのよ。だから、あちらが魔法を使っている時に、同系統の魔法は特に使わない方が良いわ」

「闇魔法なんて使い手が少ないから、余計分かりやすいのかしら」

「そういう面もあるけどね」


 二人が小声で話す間、アザラシは体の前部を振りながら頭を左右に回し、周囲を観察している様だった。二人の方を少しの間注目していたが、やがて顔の向きを変え、波打ち際をのたのたと進んで行った。

「無様な生き物ね」

「そう?変わっていて興味深いじゃない」

「変な物が好きなのね」

アニーは小さく溜息を吐いた。もうちょっと色々なものに興味を持たないと、良い研究は出来ないのに、とこの娘の将来を心配した。

「うん、指令が出たみたい。海に戻って行くわ」

「そうね、段々方向転換しているわね」

海に戻ったアザラシは、体をくねらせて泳いでいった。

「魔法で追跡出来る?」

「相手の魔法接続もかなり弱いから、最後まで追って行くのは無理ね」

「闇魔法師の方向は判る?」

「アザラシの泳いで行く方向よ。つまり、南東の方ね」

(東の海、やはりエセックス方向の警戒海域を我が国の軍船が航行出来ないのを利用して接近する準備の様ね)

アニーは漁村に戻った後、最初の報告書を騎士団の指揮官に渡して、毎日の騎士団からの王都への報告と一緒に運んで貰える様に頼んだ。


 二人は次の日も夜明けは砂浜に足を運んだが、その日は上陸する物は無かった。そして次の日に上陸したアザラシを見てレイラは呟いた。

「なるほど、確かに接続が少し違う様だから、別の個体の様ね」

「確かなの?」

「今日の個体には少し強めの魔法接続をしているのよ。アザラシ自体も一昨日の奴より大き目に見えるから、気の荒い個体なのかもしれない」

「大きいかどうかはよく分からないわ」

「何となく、魔法接続の体内分散が大きい様に見えるの」

「なるほど」

アニーには使役の魔法が使えないから良く分からないが、大きい魔法を使うと魔力が大きく動く様なものだろうか、と推測した。漁村に戻ったアニーは、また騎士団に頼んで報告を王都に届けて貰えるように頼んだ。


 一方、エイルシャム方面の風塵の魔女の里に戻ったカーラ・フランクランドは、里長に挨拶に向かった。

「なんだい、カーラ。もう男を落として身ごもったのかい?」

「里長、私は男を落としに王都に行っているんじゃないぞ」

「なんだい、がっかりさせるなよ。良い子種を貰ってさっさと帰っておいで」

「だからそういう目的で行っているんじゃないって」

「全く、里の一員とは思えないほど奥手だね、あんたは」

「だから、そういう目的で行ったならすぐ誑し込むって」

「はいはい、次はしっかり身ごもってから帰ってくるんだよ」

里長にとっては里から出る魔女は皆子種を貰う目的で出ると思っているらしい。カーラはさっさと用件を伝える事にした。

「ところで、今日戻って来たのは別の用件をエドウィン王子から言付けられて来たんだ。海賊の大規模な上陸があるかもしれないので、東岸の方の警戒と、上陸があれば迎撃をして欲しいんだと」

「まあここいらの東岸から上陸されたら他人事じゃないから、警戒するのは嫌じゃないが、王家に顎で使われるんじゃ面子に関わるねぇ」

「だから、私が情報提供という形で来たんだ。里から外に出していた連絡員からの情報で動くんだったら問題ないだろ?」

「まあ、子供の癖に策略めいた事を言うねぇ。少しは大人になったのかい?二・三人男を弄んで経験を積んだのかい」

「とりあえずその話題は今度にしてくれよ。フォークストーンの方にも動きがあって、東岸への上陸の可能性も高いんだ」

「フォークストーンの方にもかい。そっちの警戒は大丈夫なのかい?」

「そっちは王家の方で迎撃するけど、東岸の方まで手が回らないし、この里を刺激したくないってのもあって、依頼しているんだよ」

「ほう、そういう配慮は出来るのかい、評判の悪い第三王子が?」

「噂程の馬鹿じゃないよ。腹は黒そうだし」

「良いねえ、そういう性質の悪い男は。今度子種を貰っておいで」

「だから、その話題は後にしてくれよ!」

 田舎の老人は結婚の話題が大好きですよね。親戚とか実家の隣人とかだとハラスメントとか言いにくいし。


 明日はキアラの更新、こちらは次の更新は水曜です。

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