9−1 対策の検討
一堂がフォークストーンに視察に行った次の週、国王はサンドゲート海岸の監視に人を出した。巨体の海獣の対処をどうするかは監視内容から検討する予定だった。それでも木曜には第三王子エドウィンの呼び出しがあった。
「隣国エセックスのブラックウォーター方面に海賊が上陸する事件があったので、エセックス海軍の哨戒中に衝突が起きない様に、協約により我が国の大型船はイーストボーン以東に航海しない事になった。クライブ、意見を聞かせてくれ」
「アザラシの上陸と関係があるかは分かりませんが、フォークストーンに何か押し寄せると困ったことになりますね」
「その辺り、君はどう思うね、クリステイン?」
話を向けられてもクリスティンはしれっと横に流した。
「そういう事は北風さんの方が詳しいと思うの」
北風さんこと、風塵の魔女カーラ・フランクランドは聞き返した。
「それは軍事の事か、それとも地理的な事か?」
「どちらもよ。私は王都より東には、この間一回きりしか行った事がないから、正しい意見が言えないと思ったの」
なるほど森の魔女の里は西だからそれもそうか、とカーラは思った。
「航海禁止区域に海賊が大規模に上陸する可能性はあるな。それがフォークストーンか、それともドーバーの北側か、どちらが裏か表かは判らんが」
王子は頷いた。
「そうだな。そうなると、近辺に里のある風塵の里に一声かけて、警戒に力を貸して貰えないかお願いしたいのだが、カーラに行ってもらえるかな?」
「そんな事はクリスティンでも判っていた筈だが、どうして話をこっちに振った?」
「あら、特に意図はないわ。それに、違う里の者が行くより、同じ里の者が行った方があちらも話を受けやすいでしょ?」
そこまで考えてこっちに振ったんじゃないか、とカーラはクリステインを睨んだが、クリスティンは涼しく笑うだけだった。
だから王子はクリスティンに再び尋ねた。
「つまり、ドーバーより北が本命だから風塵の魔女達に向かわせようと思うのだろう?なら、フォークストーンの騒ぎは何だと思うんだ?」
あ、と皆は思った。クライブもジャッキーもクリスティンももう王子の能力を疑っていなかったから、三人は平然としていたが。
「二日に一遍、訓練をしているのだから、何かやるつもりでしょうね」
「訓練とは?」
「二日に一遍、一匹ずつ訓練をしているのだから、そういう事でしょう?」
えー、と皆驚いた。二日に一回上陸するアザラシは、同じ一匹だと思っていたんだ。王子は聞き返した。
「その論拠は?」
「アザラシには深く潜る能力があるから、長距離泳ぐことも可能でしょう。でも、あの巨体だから海上で寝ているとは思えない。一々帰って行く事を考えると、訓練だと考えた方が妥当でしょう。そして同じ個体を着岸する訓練だけする意味を感じないから、複数の個体に着岸訓練をしているのじゃないかしら?」
「ふむ、そういう指示を何かがしたところで、アザラシは意のままに動くものだろうか?」
「生き物を操るのは闇魔法でしょうから、確認するのに適任な人が魔法研究所にいるでしょう?」
「なるほど、そちらにも指示を出そう」
これを聞いていた雷鳴の魔女、ジェシカ・フィールディングは隣にいるもう一人の森の魔女の里出身者のイザベラに話しかけた。
「仕事を頼むんだったら名前ぐらい呼んであげても良いんじゃない?」
「あいつが一度会っただけの人間の名前など覚える訳ないだろ。大概の人間には興味がない奴だからな」
「それでカーラを使ったって事?人見知りだから?」
「人見知りもあるが、あいつは言葉遣いがなってなくて意図せず相手を怒らせるから、他所の魔女の相手をさせるのは危険だと自分でも分かっているんだろう」
「そうね、話をしていると何となくイラっとするものね」
小声で喋っていたがクリスティンには聞こえる様な音量だったので、クリスティンは眉を顰めて口を開いた。
「そこ、他人の悪評を広めるのは止めて頂戴」
「事実じゃない」
「真実だろ」
ジェシカは妬みから、イザベラは愛からクリスティンの噂話が大好きだった。歪んでいる。
王子は話を続けた。
「それで、一方では海賊の上陸、一方ではアザラシを複数投入するとなると、狙いは何だろう?」
クリスティンも正確には理解していないから断言出来ない。
「少なくとも、闇魔法師も一度に何匹も操れないのでしょう。複数に着岸に慣れさせて、実行の際には送り出す時だけ操って、後は行くに任せれば、何匹も一度に着岸出来るという考えじゃないかしら」
「多数が押し寄せれば、さすがに対応しないといけないな」
「でも、対応しては駄目でしょうね。一匹が攻撃を受けて騒ぎだしたら、群れ全体が人の敵となって暴れるでしょう。攻撃しない様に厳命しないと。どうしても攻撃したいという人もいるでしょうから」
全員が氷結の魔女デボラを見た。デボラも文脈から次は攻撃したら不味いとは悟った。その時まで覚えているとは思えないが。
「なるほど、そうして王都側からの騎士達が対応に追われて東岸の応援に行けないという訳だ」
「もちろん、フォークストーンという上陸しやすいところに海賊も上陸しないとは限らないけど」
「それもそうか」
王子も少し思案し、とりあえずの指示を出す事にした。
「では、デボラとレジーナは待機してもらうが、その他の者は数泊出来る様な準備はしておいてくれ。移動はそう先ではないだろう」
クリスティンはそれに一言返した。
「でも、上陸船が来た場合、ビッグウェーブの魔法で押し返せる水魔法師は必要なの」
皆、眉を顰めた。王子すら薄い笑顔の向こうに拒否感情が伺えた。
それほどデボラの未来の行動を皆が確信していた。
この物語はフィクションですから、実在する人物並びに団体、地名等とは一切関係がありません。魔法がある異世界が舞台だし。と言いながら、王都はブライトンという設定です。
明日はキアラの更新です。こちらは次は日曜更新。土曜に書きます。




