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8−10 視察 (4)

 クリスティンとクロちゃんが少し走った後、最初にデボラとレジーナを見つけたのはクリスティンだった。狼は耳と鼻は利くが目はそれほどでもないのだ。

「ああ、アイスちゃんが何かやったのね。逃げてるみたい」

「…ごめん、まだ見えない」

「先輩さんがアイスちゃんを抱えて走っているのよ。砂に足を取られそうになりながら」

「あ、あれか…デボラ、何やってんだ」

「先輩さんがアイスちゃんを抑えられないとはね…まあ誰でも無理か」

レジーナも砂を蹴って走っているが、その後ろから砂煙をあげながら灰色の物体が這いずってついていた。

「あれがアザラシ…何て可愛い動き方なの…」

クロちゃんからすれば可愛いというか巨体を持て余している様な動きなのだが。砂漠に住む伝説の魔物、サンドワームが蠢く様に見えた。まあ女性の感性を男が貶して良い事など一つも無いから、そこは黙っていた。


 しかし、見ているとレジーナが既に疲れ果てている。小柄とは言え15才の女性を抱えて走るのは辛かろう。

「ああっ!もっとちゃんと観察したかったのに!だからと言ってアイスちゃんを見捨てられないし!」

え、レジーナはどうでも良いの?とクロちゃんは思ったが、レジーナ一人なら逃げられただろうとは思った。クリスティンは立ち止まってアザラシ魔法棒をアザラシの方に向けた。

「ぶもおぉおぉお(驚)」

アザラシは砂煙を上げて砂の中に身を沈めた。クリスティンがアザラシの足元…と言うか胴の下を土魔法で掘ったんだ。そして砂煙は渚の方からも上がり、それはアザラシに向かって走って行った。アザラシが何とか這いあがって来ようとした時、大きな水の塊がアザラシの頭上から落っこちて来た。

「ぶもおぉおぉお(驚)」

アザラシの声は水しぶきに時々かき消されながら海側に移動していった。つまり、クリスティンはローマ式水洗便所方式でアザラシを海側に流して行ったんだ。その為の流路を作っていた為に、海側からアザラシの方に砂煙が進んで行ったのだ。渚で一度砂に打ち上げられたアザラシは、次の波で海に帰って行った。レジーナも一息ついて、デボラを降ろしてクリスティン達に合流した。

「すまん。私が合図を出してる隙に、デボラがアザラシを攻撃したんだ」

問われるまでも無くデボラが発言した。

「だって、寝そべってたから先手必勝だと思ったんだ」

「反省が足りないっ」

レジーナはデボラの頭を平手で叩いた。

「痛ーい!暴力はハラスメントで訴えられるよ!!」

「問答無用で動物に暴力を振るった奴が何を言う!」

尤もだ、とクリスティンもクロちゃんも思った。


 そんな時に皆が集まって来た。第三王子エドウィンが口を開いた。

「予想通りにデボラが手を出した、と言う事で良いかな?」

レジーナは肩を落とすしかなかった。

「誠に申し訳ありません」

「まあ、済んだ事は仕方ない。クリスティンが撃退した、と言う事で良いかな?」

「土魔法で溝を作って、水で流しただけです。攻撃に対する防御力は測れていません」

「更に刺激しない事は良かったよ。それで、観察出来た事は何かあるか?」

「海獣らしく、足の機能が無い様でした。這いずって先輩さん達を追いかけていたのですが、アイスちゃんを抱えた先輩さんに追いつけない移動速度でした。だから、怒らせても陸上なら逃げ切れると思います」

「ふむ、では最悪騎士などを使って追い出そうとしても、被害を受ける事は少なそうという事か」

「出来れば放水等で穏やかに追い出した方が良いとは思います」

「他に有効そうな対策はあるかな?」

「土壁の魔女の里の協力を得られれば、砂浜全体に壁を作って阻止は出来ると思います」

「どのくらいの壁なら越える事が出来ないと思うかな?」

「傾斜にも依りますが、4ftで充分かと思います。長い手も長い足もないのですから」

「サイズはどうだった?」

「人間の大人の身長以上の体長がありそうでした。ゆっくり観察出来なかったので誤差はあると思いますが」

「万一の場合に攻撃は通りそうだろうか?」

「そこは先輩さんに聞きたいところですね」

一堂はレジーナを見つめた。攻撃したのはデボラなのだが、責任は大人が取るものと決まっているのだ。

「5ft長程度のアイスランスで流血にはならなかったので、一般の魔法使いの攻撃では傷付けるのは難しいと思います」

皆がデボラに視線を向けたので、デボラもさすがに小さくなった。だがジェシカやイザベラなどとカーラの意見は違った様だ。

「やるならちゃんと殺れよ」

小声でカーラが呟いた。皆、そうじゃないって、と心の中で呟いた。


 漁村に戻って、エドウィン王子は村長に説明した。

「手違いで攻撃をした者がいるが、傷は与えられなかった様だ。それでも人に対して敵意を抱くかもしれない。しばらくは誰も近づかない様に広めて欲しい」

「その、どんな攻撃をされたんで?」

「氷による魔法攻撃だ。皮に阻まれたらしい」

「金属以外では攻撃は通らないって事ですか?」

「もちろん、火魔法が使えればどうなるか分からないが、遠くから観察しても人間の大人より大きな体をしている様だから、下手に近づかない方が良い」

「そりゃあ、そうでさぁ。水辺の生き物を粗末にする奴ぁ、海の神様に怒られて溺れ死にますから」

「そう、命は大事にしないといけないな。村に広く告知してくれ」

「分かりました。それで、国としての対策はどうなりましょうか?」

「陛下には警戒部隊の派遣を進言する。そう決まったら、この近辺の商人に多少の食料購入を依頼するかもしれない。目途だけ付けて欲しいと伝えてくれ」

「馴染みの商人には声をかけておきまさぁ」

こうして視察を追え、一堂は王都に帰って行った。

 アシカは前肢というか横ヒレが大きいのでそれなりに陸上を移動出来ますが、アザラシは前肢が短いので、陸上の移動はあまり得意でなさそうです。


 今日はお昼寝をしたので、更新は大丈夫。でも水曜分をこれから書かないと…明日はキアラの更新で、こちらの更新は水曜になります。

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ハラスメントの概念あるんだ……
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