7−13 黒幕?
「さて、アイスちゃんの先輩の紹介をしてもらいたいところだけど、黒幕役が隠れているから、その話は後にしましょう」
ジャッキーがそれを尋ねた。
「黒幕って?」
「ほら、森の魔女の里から恐怖の魔女がやって来るって噂を流した人がいたでしょ?つまり、森の魔女の里の内情を知る者がいる筈よ。出てこないなら生き埋めにするけど、良いの?」
この言葉に最初に反応したのは第三王子エドウィンだった。生き埋めの恐怖!なんて素敵な恐怖感だろう…興奮を隠しきれずに王子は身震いした。何、この変態。
それ以外のメンバーはどこかから忍び寄る敵に警戒していた。すると、先程工作員が落ちて来た木の近くに、影が音もなく現れた。ふぅっとクリスティンが小さく息を吐いた。
「やっぱりあなたなのね、イザベラ…」
やはり音もなく進んで来た影がようやく人の形になった。
「もちろん、お前の様な化け物が王都で悪さをして里の評判を落とさない様に、抑えに来たんだ!」
「森の魔女だと言わなければ里の評判を落とし様が無いでしょう」
「後でバレた時に大騒ぎになるだろう!あたしがお前を倒して連れて帰ってやる!」
イザベラはデボラ並みに小柄な娘だが、やんちゃな少年の様に目力があった。皆はクリスティンの実力を知りつつ大口を叩くイザベラがどう出るか興味津々だった。はぁっとクリスティンは息を吐いた。
「あなたはいつもそうね。私の悪口は吹聴するけど、実力が伴っていない。他人を誹謗中傷するなら相手を上回る実力を身につけてからにしなさい」
「実力が上だったら誹謗中傷じゃなく実力でねじ伏せるだろう!」
「そうね。魔女なら魔女らしく、口じゃなく実力で勝負しなさい。じゃあ、お先にどうぞ」
その一言でもうイザベラは追い込まれた。手を出さなければ実力で押しつぶされるんだから。イザベラは強化魔法をかけ、自分の右手にアイスランスをくくりつけた。
「これなら魔法で妨害出来まい!さあ、いくぞ!」
「工夫は認めるけど…」
クリスティンに向けて走り出すイザベラに、クリスティンの周囲に落ちていた傀儡が襲いかかった。イザベラは一本目の傀儡をアイスランスで、二本目の傀儡を左手でガードしたが、傀儡は全部で五本転がっているんだ。ボディーブローに続き首筋を叩かれ、最後に太腿を強打されてイザベラは倒れた。
ジェシカが文句を付けた。
「クリスティン、仲間に容赦なしなのね…」
「魔女なんだから、他の魔女に手を出したら最悪命を奪われる事まで想定しないと駄目でしょ?お互い、人ならざる力を持っている以上、軽く魔法を放つだけで命を奪う事が可能なんだから。」
カーラはこの言葉に共感したらしい。
「うむ、どうせやるなら初手から命を狙わないとな」
やめてくれ、と皆は嫌な顔をしたがカーラは気にしなかった。
そういう訳で魔女は出尽くした様だった。倒れたイザベラの頬と地面の間にクリスティンが靴のつま先を差し込んで、上を向かせた。
「こういう訳で、大概の相手は酷い乱暴などしなくても私なら無力化出来るんだから、あなたの心配は無用よ。誹謗中傷を広めるのは止めて頂戴」
いや、情け容赦なく乱暴したと思うぞ、と皆思ったが、イザベラが何か言いそうだったから誰も口を開かなかった。
「こんな風に百戦全勝のお前が恐怖の対象にならないとでも思っているのか!自分の恐ろしさをちゃんと自覚しろ!」
「嫌ね、母親世代には十戦七勝くらいよ。あなた相手なら負け様が無いけど」
「そういうところだ!大体、お前ら母娘はアッシュなんか番犬にして、みんな恐がっていたじゃないか!」
「アッシュは只の飼い犬よ。穏やかな番犬だったじゃない」
「アッシュはハイイロオオカミじゃないか!恐がらない奴がいるか!」
えー、マジで狼を番犬にしてたのか。だから若い人狼なんか可愛い子犬扱いなんだ、と皆納得した。一方、クロちゃんは何時か『クロード』と愛し気に呼んでもらえる夢が潰えたのが分かった。ハイイロオオカミだからアッシュ、黒毛の人狼だからクロちゃん…クロちゃんはその場に跪いて声も無く泣いた。
「別に近づかなければ恐くないわよ。あなたは意味も無くアッシュに近づくから恐い目に遭うのよ」
「里長の親族なんだから、里の危険分子は何とかしようと思うのが普通だろう!」
「里長を二世帯に渡ってやっているあなたの親族なら力のある魔女は脅威と思うかもしれないけど、里長なんて雑用係をやりたがる人がいないから継いでいるだけでしょ。あなたが変に里の治安を気にする必要は無いのよ」
ここでクリスティンがイザベラの視線の先に気付いた。
「何処を見てるのよ!」
イザベラはクリスティンの足首をずっと見つめていた。
ジェシカは気付いた。
(魔女の里では女しかいないから、恋愛対象も欲情対象も女になりがちなのよね…それが恐くて私も里を出たんだし)
クライブも気付いた。
(いつだか『足首を見つめる人が嫌い』と言っていたのは、この事か。いつもこの娘とこういう構図になっていたんだね…足首を見つめたいから倒されたくてちょっかいを出す…歪んでいる)
クリスティンはつま先をくいっと上げてイザベラの顔を上向かせた。
王子は思わず
(羨ましい)
と思った。もう不治の病の様だ。
イザベラはまだクリスティンを糾弾する言葉を用意していた。そんなにもこの構図で居続けたいらしい。
「大体、お前ら母娘は恐怖の対象だろう!メテオの魔法を引き継げるなんて!」
「別に誰でも出来るでしょ?ただ動かせる隕石のサイズに大小があるだけで」
「お前が大惨事を起こしたじゃないか!」
「たまたまサイズを見誤って大気圏で燃え尽きなかっただけでしょ?海に落としたから惨事になんかならなかったじゃない」
「だから津波で被害が出ただろ!」
「土魔法部のみんなで海岸に障壁を作ったから、予想される津波地域の八割は防いだじゃない」
「二割で被害が出たじゃないか!」
「そこは塩害が出ない様に土壌改良に土魔法部みんなで出張ったじゃない。過ぎた事をいつまでも言わないで」
「言わないと繰り返すだろうが!」
「大丈夫、次は燃え尽きるのを選ぶから」
「大きいのを選べば国一つ滅ぼせる恐怖の魔女じゃないか!」
メテオ…憧れの魔法なのでこの作品で出してみました。次回更新は金曜日に。
蝙蝠の続編は2月2週くらいから投稿予定、二度の週末でどれだけ書けるか次第ですが。調査隊は週末更新で細々と続行するつもりです。せっかく魔女が揃ったんだし、クロちゃんとクリスティンの二人の世界が書けてないので。




