7−12 真の狙い
「うん、判断を誤って皆を危険に晒した王子様がみんな悪いの。今度こそ強化魔法で殴りましょう」
「いや、待て。爆散するんだろう?そこまでする必要はないから!」
「クロちゃんは優しいね」
いや、殺す程ではないと言っているので別に優しいとまでは言えないのだが。この様に状況を無視して二人は二人だけの世界に浸っていたが、さすがにここの主役を気取っていた人物が声を上げた。
「何を勝手な事を言っているのかしら?今のここの主人はわたくしよ?」
控え目なドレスにフート付きのコートを被った、クリスティン達と同年代の少女が口を開いた。クリスティンも、いつまでも犯人を放っておけないか、とそちらと話をする事にした。
「クロちゃん、ちょっと待っててね。すぐ片づけるから」
「無理をしないでくれ、俺の事は良いから」
「良くないわ。でも、すぐ自由になるから待っててね」
そう言ってクリスティンは立ち上がった。
「ここに皆を誘ったのは王子様だから、主人は王子様だと思うわ。上位貴族ならルールは守らないといけないわよ、みそっかすのイヴちゃん」
無言で隣に立つ第三王子エドウィンの腕に腕を絡めている少女の顔色が変わった。暗くて普通の人には見えないのだけれど。
「上位貴族に礼を示さないのもルール違反でしょ!お黙りなさい!」
「ごめんなさいね、魔女は王侯貴族に頭を下げないのがルールよ。みそっかすのイヴちゃんは知らないルールかもしれないけど」
「あなた…侯爵令嬢に2度も失礼な発言をして、ただで済むとは思っていないでしょうね?」
イヴリン・マナーズは侯爵家のみそっかすと言われる3女だった。彼女が同じみそっかすと思っているエドウィン王子を慕っているのは有名だった。みそっかす同士お似合いと影で噂されていた。
「だから、魔女は侯爵家なんて恐がらないわ。実力で全て吹き飛ばしてしまえるから。そんな風に家に頼るのではなく、あなたの実力で威張るなり、脅すなりしてみることね」
「何も知らない癖に!」
イヴリンは唇を小さく丸めた。
クリスティンも唇を小さくまるめた。
その時、空気が低周波で大きく振動した。
周囲にいたイヴリンの護衛も、倒れていた人々もその低い振動に呻いた。
「うゎっ」「えっ」「気持ち悪っ」
その時、クロちゃんは自分の体の自由を取り戻したのに気付いた。
クリスティンが説明した。
「魅了魔法は可聴帯域以下の低周波で三半規管をゆすり、軽く酔ったところを言葉や香りや眼力で脳を支配する魔法だから、逆に同じ周波数で共振させて体感出来る程の違和感を感じさせれば醒めてしまうものよ。教わった通りに魔法を使うと簡単に対策されるという事を覚えておいた方が良いわ。みそっかすさん」
イヴリンはせっかく覚えた魔法をあっさり破られて反感を覚えたが、彼女は侯爵令嬢だから1組にいるだけで、魔法の実力は3組レベルだった。もうクリスティンに対抗出来る手段などなかったが…
マナーズ家の護衛達の後ろの木から影が落ちて、そのまま風の様にイブリンとクリスティンに割って入ろうとした。クリスティンが指を鳴らすと、周辺の木の枝が三本落ちてきて、地面を蹴って回転しながらその影に襲いかかった。影は両肘と右膝でその4ft程の長さの太い木の枝の攻撃をガードした。
「イヴちゃんが危なくなれば出てくると思っていたわ。あの時は学院内を調べてでもいたのかしら?」
「仕事の前に実地を調べておくのはプロの常識だからな」
それはいつぞやにジャッキーに殴りかかって来た謎の工作員の女だった。
「傀儡の杖三本の攻撃を防ぐなんて、あなた本当に王子の護衛より有能よね」
「仕事を阻止されているから、お褒めの言葉に聞こえないんだが?」
「ふふふ、もちろん、荒事中にお喋りするのは、お互い次の攻防の準備を胡麻化す為だからね」
クリスティンがそう言うと、更に二本の木の枝が落っこちて来た。傀儡でない以上、腕も足も増やせない工作員の女に5本の傀儡の杖を防ぐ事は出来ない。女の姿が消え失せた…が、その上でばさばさと音がした。上に逃げた工作員に三枚の網が絡まって動きを妨げていた。そのまま工作員は落ちて来た。
「風魔法師なのに前回は平面の機動しかしなかったから、風魔法による三次元の機動を隠していると思ったの。追い詰めれば上に逃げると踏んでいたわ。魔女のテリトリーで荒事など避ける事ね」
そう、クリスティンは裏の林に、とうの昔に傀儡の枝や不審者を捕らえる網を仕込んでいたんだ。工作員は負け惜しみも言わず拘束を解こうと足掻いたが、クリスティンが魔法で強化した網を破る事は出来なかった。クリスティンは自ら工作員の口に魔法封じの猿轡をかませた。
マナーズ家の護衛はイヴリンを守ろうとクリスティンの前に走りこんだが、自由になった傀儡の杖がクリスティンに迫ろうとする者を全て一撃で倒した。仕事を終えて地面に横たわり、待機状態に戻った傀儡の杖にクリスティンが一言告げた。
「いい子ね」
傀儡の杖達はガタガタ揺れて主人のお褒めの言葉を喜んだ。
イヴリンの横でとっくに魅了魔法の解けたエドウィンが口を開いた。
「イヴリン嬢、方法はともかく私に好意を抱いてくれたのは嬉しかった。ただし、失敗は失敗だから、甘んじて受け入れる事だ」
そう言ってイヴリンから腕を離した。
「エドウィン様…」
イヴリンは俯いて涙を流した。
その時、雷鳴の魔女ジェシカ・フィールディング、氷結の魔女デボラ・パーマーとその先輩のレジーナがその場にやって来た。しゃがみこんでいるクライブを見つけてジェシカが駆け寄った。
「クライブ聞いて!クリスティンったらこんな魔法棒を私に渡して恥をかかせたのよ!」
そうしてぽっこり竜の魔法棒を見せた。クライブは言いたい事は分かったが、クリスティンに悪意がない事だけは分かった。ただ趣味が悪いだけなんだ。
「ジェシカ、でもその魔法棒は役に立ったんだろう?悪意は無いと思うよ」
「それでも見た目をもっと気にしてくれても良いと思わない!?他人が使うのよ!?」
役に立ったなら良いじゃないかとクリスティンは思ったので一言返した。
「ぽっこり竜ちゃんは役に立ったのでしょう?なら受け入れて頂戴」
「ぽっこり…やっぱり馬鹿にしてたのね!」
僻みっぽいジェシカは左手でクリスティンに雷撃を放った。クリスティンの近くで雷撃は地面に吸い込まれた。地面から誘導雷を出せば簡単に曲げられる。魔女である事を隠さなくて良ければ、土魔法でこっそりやらなくても雷撃を妨害することは出来るのだ。
「カミナリさん…そうも怒りっぽいからカミナリさんと呼ばれるの。自覚を持って反省して」
「あなたしかそんな呼び方する人いないわよ!」
そこで風塵の魔女カーラが一言口にした。
「怒りっぽいのは構わないが、所構わず魔法を打つのは良くないぞ?」
カーラが他人を宥める言葉を言うとは思わなかった皆は驚愕した。でも怒りっぽいのは構わないんだ…やはりカーラの価値観は一般人とは異なると皆納得した。
ついでに5−8にイヴリンを出しておきました。改めて読むほどの内容はありません。続きは水曜日に更新します。




