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7−11 祭りの終わり

 暗黒の魔女を拘束して少し進むと、貴族街の方から騎士達が小走りにやって来た。

「止まれ、不審な奴!ここで何をしていた!?」

「第三王子エドウィンから聞いていないの?反乱を意図する勢力が雇った魔女が暴れるから、その鎮圧にやって来たのよ」

「殿下の依頼だという証拠があるのか!?」

「馬鹿ねぇ、証拠があろうがなかろうが、王国側に魔女の逮捕権限なんてないでしょ?実害が無い以上、ここで問答をする事が無駄なのよ」

後ろの方から騎士の隊長らしき男が歩いてきた。

「しかし貴族街南の上空で魔法戦闘らしきものがあったと目撃証言がある。事情を説明してもらおうか?」

クリスティンが指を鳴らすと、傀儡の胴体部分が斜め下に向いて拘束したままのレイラを滑らせて地面に落とした。

「むー!むー!(怒)」

衝撃を受けたレイラが怒ってもぞもぞしているが、口に巻かれている革バンドがそもそも魔法減衰効果のある魔女対策品だったから何も出来なかった。

「これが反乱側の魔女だから、これに聞くと良いわ。後で王子様が話を合わせてくれるでしょう」

「我々が欲しいのは口裏合わせの嘘じゃなくて真実だ!」

「真実なんて権力者の発表の事でしょ。王家が纏めてくれるから、兎に角この王家認定の反乱者をしっかり拘禁しておく事ね」

その場に西から雷鳴の魔女ジェシカが、東から水籠りの魔女達がやって来た。


 底冷えのする低い声でジェシカが唸った。

「クリスティン…」

しかし、ジェシカの顔をみてクリスティンがかけた言葉は、ジェシカの意を汲んでいなかった。

「カミナリさん、とりあえず顔を洗った方が良いわ。身に覚えがあるでしょ?」

そう言って氷の桶に水を満たしてジェシカの前に浮かべた。水面に映る己の顔は、化粧が涙で流れて悲惨になっている事だけは分かった。とりあえずジェシカは顔を洗う事にした。その時、持っていた炎熱の魔女バーバラの足を落っことしたが、バーバラはまだ気絶したままだった。クリスティンはバーバラに近づいて体調を確認したが、流石に炎熱の魔女、これだけ火に焼かれていても死にそうにない。レイラを降ろした傀儡がやって来て、バーバラの足を掴んで騎士の隊長の前に持って行った。

「これも反乱側だから。火魔法師だから気を付けて頂戴」

「だから王子の依頼だという証拠が無ければ!」

隊長の言葉を無視してクリスティンはデボラに尋ねた。優先順位というものがあるから。

「アイスちゃん、そちらは水籠りの魔女の先輩?」

「あ、ああ。先輩は投降するって」

クリスティンはデボラの先輩とやらを目を細めて観察した。その、獲物を見極める冷たい目にレジーナは背中に汗をかいていた。

「まあ、あなたの顔を立ててあげる。後で学院裏の林に連れてきて。王子様の許可を得ましょう」

「待て、勝手な事を!」

「とりあえず二人の犯人を引き渡したんだから、そちらの取り調べが先でしょ。どちらにせよ、こんな陽動に人を使い過ぎると裏をかかれるわよ」

「裏って何だ!?」

「だから、これは反乱なんでしょ?つまり魔女の陽動の裏で兵が動いている筈よ。こんなところで油を売っていて、王城で何かあったらどうするの?」

「何か知っているなら言え!」

「どこぞの侯爵家で兵が集まっている様よ。そちらに警戒する事ね」

「知っているなら詰所で証言しろ!」

「だ・か・ら、それも陽動で、王子様に魔の手が迫っている様よ。ここで私の足止めをした者がいる、って後で証言されたら困るのはあなた達でしょ?もちろん第三王子がどうかしたら第一王子も第二王子も大喜びでしょうけど、あなた達のせいにして、一族郎党、反乱の罪でさらし首よ。みんなが不幸になるより、みんなが幸せになる道を選んだ方が良いと思わない?」

騎士の隊長はこの子供扱いな喋り方に自尊心を傷つけられたが、確かに王子に何かあったら自分の首は間違いなく飛ぶ。物理的に。

「後で詰所に来い!」

「王子様に質問集を渡す事ね。誰が答えを書くかは分からないけど」

騎士達は犬としての義務と責任問題の間で心を迷わせていたが、そうして逡巡している間にクリスティンは歩き出した。

「ちょっと、クリスティン!私達はどうしたら良いの?」

「クライブお兄さんが心配なら学院の裏の林に向かいなさい。私は先に行くから」

そういってクリスティンはジャンプし、空中で何度も片足で交互にジャンプステップしながらどんどん南の上空に飛んで行った。先程とはやる気が違い過ぎるとジェシカもデボラも思ったが、ああ、わんちゃんが心配なんだ。と思い当たった。


 学院裏の林では、第三王子エドウインの護衛を含めて皆が倒れていた。クリスティンがそこに到着しても、皆が息をしていたので、攻撃は精神的なものと思われた。過たずにクロちゃんに歩み寄ったクリスティンは、人狼化してうつぶせに倒れているクロちゃんの首に抱きついた。

「ああ、クロちゃん、可哀相に。こんな目に遭うなんて…」

と、口では言っているが、黒毛の人狼の毛の下から伝わってくる温もりに酔いしれた。だって死ぬような怪我はしてないし。


 クロちゃんは臭いでクリスティンが分かるから彼女が到着したのは分かっていたが、自分の首を持ち上げて抱きつく彼女の温もりにやはり酔いしれた。しかし、王子護衛の仕事に就いていながらこの体たらくに、まず謝罪が必要と思った。

「すまない、クリスティンが他の仕事を無事終えているのに、こちらは仕事を全う出来なくて」

その言葉を聞いて体を離したクリスティンに、クロちゃんは一瞬残念な気がしたが、葉を落とした木々の枝の隙間から届く月の光に輝く彼女の金の髪の毛に見とれた。

(ああ、月の光に輝く彼女の金色の髪、魔力の残渣で薄く光るエメラルド色の瞳…こんな至上の美しさを持つ彼女なら、魅了の魔法なんて必要ない…)

そう、この一行は魅了魔法の使い手を相手にして体の自由を失っていた。それはともかく、控え目な茶髪茶目が良いんじゃなかったのかこの犬ころは。

 クリスティンは別に周囲を小馬鹿にして喋っている訳ではないんです。いわゆる不思議ちゃん系の人間なので、マイペースで喋っております。次回は月曜更新予定。蝙蝠の続編が進んでいないけどともかくこちらの更新を進めます。


 ダレカノじゃなくカノオトにこちらのポイントが抜かれてちょっとショック。イセレンでは短編の方が読まれるとは言いますが。

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