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1−5 迷惑男の本領

家族なんてもういらない

アッシュが私の父親代わりで

兄代わりで

弟代わりで

そして彼はもういないのだから


 週末にはクリスティンはカスバート・クロフォード男爵と会う約束をしていた。昼前には学院の馬車止めにクロフォード家の馬車が迎えに来た。そうして貴族街の上位貴族向けレストランで食事をする事になった。


 クロフォード卿は36才でクリスティンの母より一つ年上だ。

アッシュが亡くなって何も出来なくなったクリスティンを、母は一度外出しただけで養女として引き取ってくれる相手を見つけて来た。つまりこの食事会は義父と養女の面接なのだ。

「やあ、久しぶりだね。学院での暮らしはどうだい?」

クロフォード卿は貴族らしい柔らかい微笑みで内心を隠していた。クリスティンから見ても何らかの感情は見られなかった。

「寮生活で必要な物は揃えていただきましたので、何も問題はありません。ありがとうございました」

「学院内は色々歩いてみたかい?」

「図書館は何度か行きました。呪文については興味を持って勉強できると思っています」

「もう授業は始まっているんだよね?気になる男の子とかはいたかい?」

「女の友達は出来ましたが、男の友達は少し難しいかな、と思っています」

「まあ、段々慣れていけば良いよ」

「はい」

上位貴族向けレストランは流石に味付けが違った。義父が気を使って分かりやすい味つけの料理を選んでくれたのかもしれない。義父はもしかするとクリスティンの実の父かもしれない、と母の仲間の女性達が言っていた。クリスティン本人の魔力など見ずに養子縁組が決まったからだ。でもそれを明かす事はないだろう。義父にはクリスティンの一つ上と一つ下に子供がいるという。同じ年頃の子供がいるのに他所で作った子供を認める事は出来ないだろう。クリスティンも今更、実の父など必要ない。大切な存在とは大切な時間を共有した存在だから、血のつながりなんかで代用出来ない。


 デザートの時間に義父は10月の学院祭に何かやるなら見に行きたい等と言い出した。

「クラスで何かやるかどうかの話も出ておりません。私の様な者は何かあっても裏方になると思います」

「それならそれで見に行くよ」

それ、1年上の実子に対して不味いだろう、とクリスティンは思った。だから、もっと気にしないといけない事を口にする事にした。

「それより一つ言うべき事がありまして、友人になった令嬢がハワード家のご令嬢なんです。その縁で、お兄様と知り合いになりまして、そうして第三王子エドウィン殿下と知り合いました。彼のお方の仰る事には、『森の魔女の里から恐怖の魔女が王都にやってきて災厄をもたらす』という趣旨の噂が広まっているとのこと、私達もその調査に参加するように指示されております。」

第三王子の名前が出ただけで義父はぎょっとしたが、魔女の里の話が出ると顔色が変わった。

「それは不味いな…こちらでも調べてみる」

「お願いします。ただ、ハワード家のご令嬢のお兄様と私は危機感を共有しております。決してこちらから噂を広める事の無いように気を付けます」

「うん、それが良いだろう。ハワード家のご子息は噂通りの人物なのだね」

クリスティンは貴族界隈の噂など知らない。だが、貧乏くじを引いたお人よし、という噂なのだろうと想像した。

「なぜあの方を放置されているのでしょう?」

王様は、という主語は省いた。不敬な話題になりかねないからだ。

「噂に聞く先代は凡庸だったと言う。トンビはあひるを生んだ。その子もニワトリ並みだ。誰とは言わないがね。鳥頭の後継者を目立たせない為にもっと出来の悪いのを歩き回らせているんだよ」

そんなクレイジーチキンに近寄りたくなかったな、とクリスティンは思った。


 月曜にはジャッキーが1年男子の噂話を持ってきた。

「4組に出来の悪い子爵家子息と男爵家子息がいて、気に食わない平民を裏の森に連れて行ってボコろうとしたんだって。ところが相手は9人の家来どもをワンパンで殴り倒して、貴族家子息はみぞおちに一発入れて黙らせたんだって。

その貴族家子息の二人だけ保健室に連れて行って、養護教師に手当をさせたんだって。そこで職員室から教師を呼び出して、誓約書に血判をして提出したんだって」

「何の誓約書?血判って尋常じゃないけど?」

「今回同様、今後もそちらから手を出さなければこちらからは手を出さない、って誓約書。両家の親宛てと、学院長と自分用の四枚作ったって。血判までして男の誓いをたててるんだから、次に何かあったらそっちの責任で、どうなってもしらないぞ、という威嚇だよ。貴族相手にやるよね」

「何をやるの…」

「まあ、そういう事で、その男の事は学院の悪い人達の間で『ビースト』と呼ばれてるらしい。凄いね。入学ひと月も立たずに二つ名が付いてるんだよ」

「凄いって言うか近寄りたくないって言うか」

「まあつまりヤバい奴だと思わせて火の粉を避けるやり方だね」

「目立ってるから火の粉が飛んできそうだけど…」

「貴族家どうしの争いなら表立ってやりあう事もあるけど、学院内での悪い子の張り合いなんて表にでると処分されちゃうからね。いざとなったら表に出してやる、という威嚇でもあるんだよ」

「何か、もっと無難に生きられないものかなぁ…」

「ほら、火遊びとかケンカとかは学生のうちしか出来ないからね」

「火遊びは駄目でしょう…」


 第三王子もこの男子生徒に注目したらしい。昼食会に呼ばれる事になった。

「身体能力の高い1年生がいるらしい。もしかするとライカンスロープの可能性もあるから、隠れて調べてくれないか?」

クライブが今回も忠告役になった。

「彼はもう血判付き誓約書などという物で自分に手を出す者達に警告しております。こちらから近づけば問題になるでしょう。彼に対して迂闊に接近するのはお止め下さい」

「だから君達に頼んでいるんじゃないか。上手くやって欲しい」

厄介事を丸投げかよ、とクライブ達は全員、苦い顔をした。

クライブはだから拒絶する事にした。

「妹や下級生達に迷惑をかけられません。本件はお断りいたします」

「分かった。じゃあ、私と彼が対峙する席に君達を招待するよ。週末の裏の森だ」

クライブは流石に顔を歪めた。

「何でそんなに事を荒げたがるんですか!彼にとってもあなたにとっても良い事だとは思えない!」

「危機の芽は早めに摘み取るものだろう?君達がやってくれないから私がやるんだ」

「我々に11人を片手間に倒す男とやりあう戦力はありません!」

「そうとも思えないが?やってみないと分からないだろう?」

キレそうになる心をクライブは何とか抑えた。

こいつ糞だな、とジャッキーは思った。

人の英知というのは仮説を立てて検証をし、結果を予測する、そういう手順を踏んでから行動するものだが、この鳥頭にはそういう事を教える人がいなかったらしい、とクリスティンは思った。

 これでストックゼロですので、木・金はお休み致します。土曜はビースト対鳥頭だ!

…もうちょっと盛り上がる字面が欲しいですね…

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