6−9 東公園にて(2)
相手は魔女にしては弱気である、とジャッキーもクロちゃんも感じていた。何より、練習でクリスティンが息を切らした連続攻撃より攻撃間隔が長い。風塵の魔女カーラもそう感じた。
(ちょっと攻めてみるか)
相手の木陰からの攻撃がクロちゃんに向かうのを見たカーラは、防御をせずに鎌鼬を相手の隠れる木にぶつけた。斜めに切り裂かれた木は、音を立てて折れていった。
(北風さんは配慮が足りないのよね)
まあ倒した木は第三王子エドウィンの責任で植え直すだろうから自分の知った事ではない、とクリスティンは思っていたが。心配なのは相手のメンタルが崩壊した場合、致死攻撃が後列にまで及ぶ可能性と、攻撃的なカーラの防御が間に合わない事だった。案の定、次の攻撃はカーラに向かい、その間に相手は後ろの木に後退した。攻撃はファイアーボールだった。
(この辺りが彼女が炎熱の魔女の里を出た理由なのでしょうね)
デボラは人格と能力、カーラは人間性、そしてこの炎熱の魔女は…肝心の火魔法が不得手という事なのだ。代わりの能力がある訳だが。
(まあ、炎熱の魔女の里では指導しきれない能力なのでしょうね。それでその能力も扱いきれないから、不得手な火魔法を出すしかない)
もう限界が近づいているのではないか、せめて怪我人が出なければ良いが。クリスティンの心配はそこだった。
(せめてファイアランスくらい放ってみろよ!)
カーラは調子に乗った。元々攻撃性が強い魔女だ。ブローの魔法でファイアーボールを吹き飛ばし、次に相手が隠れた木に再び遠慮のない鎌鼬をぶつけた。倒れる木を離れながら相手はカーラにファイアーボールを放ってきた。カーラもそれをブローで流しながら、次に相手が目指した木を鎌鼬で切り倒した。
そこで、空気が変わった。髪の毛が逆立つのを感じたジャッキーもクロちゃんも、過たずにクリスティンの指示に従いウォーターウォールを最短時間で発生させた。一方、カーラは攻め気でいた為、防御が遅れた。
後列で見ていたクライブは、光を見ただけだった。空気を切り裂く音はそれほど大きくなかったが、気圧が変わる様な衝撃を感じた。光は間の木が切り倒された相手の魔女とカーラの間にに伸びていた。
(紫電!?)
クライブもエグバードも盾を構えていた為、見えたものは光だけだった。けれど耳に響く空気を引き裂く音が、これが雷撃である事を伝えた。
(全く、防御重視の練習をした意味を考えなさいよ)
クリスティンは心の中でカーラを罵ったが、デボラ同様、言って聞く相手ではない。何とか間に合ったカーラのウィンドウォールにぶつかった雷撃は、地面に流れていった。
(だから、ウォーターウォールを地面に付けろ、と言ったんだ!)
ジャッキーもクロちゃんもクリスティンの指示の意味をこの光景から悟った。二人はウォーターウォールを解除して相手に迫った。後列に雷撃を続けられたら、クリスティンはともかくクライブとエグバードが被雷する可能性がある。攻撃を水魔法の防御が使える二人に集中させる必要があった。…デボラ?もちろん、口をぽかんと開けて、初めて見る雷撃に固まっていた。
接近する二人に、雷撃使いの魔女はパニックになっていた。フードの下の顔には涙まで光っていた。再びの空気の変化に二人は急停止してウォーターウォールで防御した。この時、攻撃はクロちゃんに向かった。実はクライブを心配したジャッキーの方が半歩相手に近かったのに。
(そういう事か!)
ジャッキーも全てを悟った。ウォーターウォールを解除して全力でステップしたジャッキーに、今度こそ雷撃使いの魔女はその魔法の杖を向けたが、ウォーターウォールをその前に形成したジャッキーは、サイドステップしてウォーターウォールを避けて、相手の杖を持つ右手を掴んだ。既に相手の右足に自分の左足を引っかけていたジャッキーは、相手の右手を思いっきり引っ張ることで内またの様な技で相手を引き倒した。うつぶせに倒れた相手の右手を捻って背中に固定して動きを封じながら言った。
「あなたを害するつもりはないわ!だから攻撃を止めて!」
「見ないでっ!!!」
フードを左手で隠しながら、魔女は地面に顔を付けて固まった。その声には聞き覚えがあったから、クライブは走って近寄った。
「君なのか、ジェシカ…」
起きようとする雷撃の魔女の右手をlジャッキーは離した。唇を噛みしめながらぽろぽろと涙を流す魔女は、確かにジェシカ・フィールディングだった。
「…あなたがいて、何で殿下を止めてくれないの!?」
両手でぱんぱんとクライブの胸を叩くジェシカに、クライブも謝るしかなかった。
「ごめん。まさか君だとは思わなかったんだ」
ジェシカはそのままクライブに縋りついて泣き続けた。
ゆっくり近づいてきたクリスティンに、ジャッキーは両手を広げた。近くに本人達がいるから、口で言えない言葉をジェスチャーで示したんだ。兄さんに王子を止める力なんてあるわけないじゃない、と。
それに対してクリスティンは、ジグザグに両手を振り下ろした。雨降って地固まるで良かったじゃない、と。どちらも相手に伝わったかどうかは神のみぞ知る事だった。ちなみに一番近くで二人のジェスチャーを見ていたクロちゃんは、口と目をぽかんと開けて、両耳の間にクエスチョンマークを浮かべていた。
「この人も蝙蝠に噛まれたんだね!?」
違います。続きは3日に。
あけましておめでとうございます。今年はまた100話越えのお話を書ければいいな、と思っております。




