6−10 東公園にて(3)
「さすがだね」
後ろから攻防を見ていた第三王子エドウィンが近づいてきた。クライブはジェシカ・フィールディングを抱きしめてその顔を隠しながら、王子を睨んだ。そもそも王子がジェシカを呼び出している以上、魔女の正体は分かっているのだが、正体を隠したがっていたジェシカとしては多くの人に顔を見られたくないと思ったんだ。
今、クライブに王子と話をさせると不味い発言をしそうだな、と思ったクリスティンが話す事にした。
「あなたがしている事は、こういう事なんですが、続けるおつもりで?」
正体を明かしたくない女性を暴いて、泣かせている。そう咎めているのだった。
「必要がなければやらないさ。当然だろう?」
「それで死にかかったんだが?」
カーラが怒っていた。うん、まあこの人が咎められてもいいか、とクリスティンは止めなかった。魔女だし、いきすぎた干渉をすると魔女の里と国との戦争になるし。
「魔女だから何とかするだろう?」
カーラは切れそうだった。だからクリスティンは仲介を頼んだ。
「アイスちゃん、心酔する先輩を宥めて頂戴」
え、私?と自分の顔を指さすデボラに、クリスティンは頷いた。心酔なんてしてない事は分かっていたが。
「えーと、魔女さん、落ち着いて」
「お前だって魔女だろ」
カーラの怒りがデボラに向かった。クリスティンの狙いはそれだった。まあ必要な生贄よね。
そういう事でクリスティンが話を引き継いだ。
「こういう事を続けると、魔女の里を敵に回すし、人望を失いますよ」
「人望なんて必要ないさ。人を使う仕事に就く気はないしね」
最初からいらなかったんだ。それで人望ゼロなんだね、とクリスティンのみならず皆が思った。
「いずれにせよ、人命に係わりますので、このくらいにして欲しいですね」
「これも君の計算通りだろ?」
(私のせいにしないで欲しいわ。あなたの計算通りなのでしょ?)
クリスティンは思ったが、言っても聞く気が無い人に何か言っても徒労なのは最近実感している。
「私が分かっていた事は王子様と同じ。ジェシカが次の標的だろうという事だけ」
「まあ狙っていた事は否定しないよ」
「何をお考えだか存じませんが、ジェシカは傷ついています。当面、クライブお兄さんを通す以外の接触は避けて頂きます」
「まあ、そのくらいは仕方がないね」
つくづく権力者という生き物は下々の者に気など使わないものだな、とクリスティンは思った。国民とは心の無い蟻で、命じるままに動くものとでも思っているのか。
「とりあえずお疲れ様だ。また近いうちに会おう」
そういって王子は去った。会いたくねぇよ!と全員が思っていた。
クリスティンとしては兎も角ジェシカに言うべき言葉があった。
「ジェシカ、ごめんなさい。私にはクライブお兄さんの様に王子様を止める力は無いの」
クリスティンもジャッキー同様、クライブに王子を止める能力がないのは知っているが、ここでクライブの名を出す事で責任軽減を図ったのだ。ジェシカは半目でクリスティンを見た。
「ええ。一番は殿下のせい。二番はクライブのせい。あなたは三番目なのは分かっているわ」
「仕方がないわね。いずれこの借りは現物支給で返してあげる」
「ろくでもないものを押し付けないでね」
「センスの無さは自覚しているわ」
ジェシカとしては、自覚があるなら直して欲しいところだが、殿下やこの女の様な人間に何を言っても仕方がないと思っていたので口からは出さなかった。
その頃、フィールディング侯爵家の応接室では、昨日申し入れのあった客人達を迎え入れていた。パーマー男爵、フランクランド男爵そしてクロフォード男爵という、水籠りの魔女デボラ、風塵の魔女カーラそしてクリスティンの養父達である。
「エドウィン殿下が魔女ほか力ある者を集めております。陛下におかれましてはご存じの事と思われますが、臣としては念のためご忠言が必要と存じます。閣下のご意見を伺いたく、参上仕りました次第です」
クロフォード男爵からの申し出を聞いたフィールディング侯爵は答えた。
「卿らの養女に加えて、私の養女もお声がかかったという事か。耳の早い事だな。しかし、その心配ももっともな事だ。本日中に陛下に進言の為の謁見の申し入れを私の方から出そう」
「お手数をおかけしますが、よろしくお願い致します」
約束通り、フィールディング侯爵は王に謁見の申し入れを出した。翌朝に届いた返事には、非公式の謁見を明日の午後に行うとの返答が書いてあった。侯爵はパーマー、フランクランド、クロフォード男爵達に同行するよう依頼の手紙を書いた。
ちょっと短くてすみません。次の更新は日曜に。クライブ関連は一応完了なので、7章になります。




