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6−8 東公園にて(1)

 寮生達は東公園まで第三王子エドウィンの手配した馬車に乗って行った。人狼化したクロちゃんを第三者に見せない為だ。クロちゃんは人狼化した上で外套を羽織っていた。フードを被れば一応正体は分からない。とは言え日の光の下でフードの中身が見えないとも限らない。そういう事は気付く王子なのだが、人間関係を円滑にする気遣いはない。他人と仲良くする気がないからだろう。その辺りを心配するからクライブも中々王子と縁を切れない。そういうクライブの人間性を上手く利用してクリスティン達を纏めさせているのだが。


 王子の用意した馬車は兵員輸送用の幌馬車だった。兵隊なら荷台に体育座りをするのだろうが、一応気を使って木箱を椅子代わりに固定してあった。寮生であるクリスティン、クロちゃん、カーラ、デボラは皆、生まれは平民だったから、木箱の椅子に文句を言う者はいなかった。


 クロちゃんの左に座ったクリスティンは、飽きずにクロちゃんの人狼化した左手の甲を撫で続けた。

(ああ、クロちゃん、あなたはどうして人狼なの?ずっと狼だったら良かったのに)

…クロちゃんが聞いたら泣き崩れるのは確かな事をクリスティンは考えていたが、幸いクリスティンは欲望を口にするタイプでなかったのでクロちゃんは撫でられる事を喜んでいた。


 向かいの木箱に座っていた風塵の魔女カーラは隣で小さくなっている水籠りの魔女デボラに小声で聞いた。

「なあ、人狼は可愛いというのは王都固有の価値観なのか?」

「え、分かんない」

少なくとも風塵の魔女の里でも水籠りの魔女の里でも、人狼はむしろ人類の敵と認識していた。そういう訳で二人はクリスティンの事を『趣味の悪い奴』と認識していた。


 そうして幌馬車が貴族街の東公園に着いた時、王子達とハワード兄妹、エグバードは既に着いていた。カーラもデボラもクロちゃんも王子に礼儀を払うほどの教育を受けていなかったから、クリスティンが一応詫びる事にした。

「王子様をお待たせして申し訳ありません」

「いや、こちらで用意した馬車で来た訳だから、到着時間を問題にする事はないよ」

お互い分かり切ったやり取りをした。要するにクリスティンも王子様ありがとうと言う気はなかったから、こういうやり取りで貸し借りなしという形にしたんだ。


 ここでクリスティンはもう一つ貸しを返させる事にした。

「木箱の椅子で疲れたので、すこしベンチで休んでもいいですか?」

「ああ、すまなかったね。少し休んでくれ」

そうして一堂はベンチに座った。クリスティンとしてはまだ相手が来ていない事が分かっていたから、時間調整をしたかったんだ。王子もそういうクリスティンの意図を分かっていた。特に気にしていないフリでクリスティンの能力を図り続けていたんだ。


 そうして東公園の西入口から、相手が入って来た。やって来た者はフードを被って素顔を隠していた。クリスティンは見ていた訳ではないのでそこまでは分からなかったが。相手がこちらを探知した事を確認して、クリスティンは口を開いた。

「そろそろ大丈夫です。進みましょうか?」

「ああ、頼むよ」

そうして一堂は公園の中央広場に向けて歩き始めた。ジャッキー、クロちゃんを先頭に、カーラとデボラが続き、クライブとエグバード、そのすぐ後ろにクリスティンが続いた。王子と護衛は少し距離を開けてついてきた。


 ジャッキーもクロちゃんもそろそろ相手に気付いた。二人は振り向いてクリスティンやクライブに行動を確認する事はしなかった。クリスティンが時間調整をしたのは明らかだったから、タイミングは任せられているのに気付いていたんだ。だから、気付いた事を全員に示すためにほんの少し歩くペースを落とした。クリスティンは途中で相手のペースが変わる様な事を言っていたが、前衛の二人は最初から空気の違いを感じた。カーラも眉を顰めてクリスティンを見たが、クリスティンは軽く両手を広げて知らないフリをした。…デボラとクライブとエグバードは気付かなかった。彼等には気配を読む能力も、魔法感受性も人並なものしかなかったから。デボラはそれで良いのか、という話題だが。


 相手は中央広場での対決を嫌った。公園内の通路の間にある林の中に入った。もうジャッキーとクロちゃんも気配が読める距離だったから、二人とも林の中に入った。もちろん後続も続いた。相手は木の陰に隠れながら少しづつ近づいてきた。ジャッキーとクロちゃんとカーラは相手の発する気配を感じて、緊張感を高めていた。


 そんなメンバーを後ろで眺めていた王子は、それでも緊張感を感じさせないクリスティンに注目していた。

(ふふん、あの魔女も君の敵ではないという事か)

そういう訳で王子はこの勝負もクリスティンのコントロールの下で終わるだろうと判断した。


 ジャッキーとクロちゃんのほぼ正面、北西方向の木の陰からファイアーボールが飛んできた。ジャッキーもクロちゃんも即座にウォーターウォールを出した。カーラもウィンドウォールを二重に発生させた。デボラはそういう訳で警戒心が薄かったから、「え?」と声を発してから炎に気付いてウォーターシールドを発生させた。クリスティンとしては悲しい事に、デボラの頭に『ウォーターウォールで防御』というクリスティンが提案した基本作戦はひとかけらも残っていなかった。


 クロちゃんのウォーターウォールにファイアーボールは着弾した。斜めのファイアーウォールにぶつかって炎を半減させながら弾け飛んだ。ウォーターウォールを解除した前衛二人は、木陰に隠れる相手に一歩進んだところで、今度はジャッキーにファイアーボールが飛んできた。着弾したクロちゃんよりジャッキーの方が早く動き始めたから、ジャッキーの方が相手に近かったんだ。全員が防御態勢をとり、実際に着弾したのはジャッキーのウォーターウォールだったが、皆が防御態勢を取る間に、相手は後ろの木まで後退した。

(攻め重視ではなく、後退重視?)

ジャッキーからすると、炎熱の魔女にしては弱気なその戦法に違和感を抱いた。

 来年元日に続く!

…元日に時間が取れずに書けない可能性もあるので、続きにしておきました。

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