6−6 全体練習
クライブが主催する集まりは主に応接室で話をするものではあったが、そろそろ王子が動き出しそうだとはクライブも思っていた。だから、魔法練習場を借りて練習をする事にした。
「練習案はあるかな?」
クライブの質問にクリスティンは答えた。
「攻撃に対する防御、これを行いながら接近といういつものパターンの練習で良いかな、と思っています」
「そうなると攻撃側は魔女さんに頼む事になるかな?」
「私が火魔法で攻撃します。察したら皆ウォーターウォールで防御してもらう、そういう練習でどうでしょうか?」
クライブはカーラを見た。
「私ならウォーターウォールでなくウインドウォールになるが?」
「瞬時に二重層で作れるかしら?」
クリスティンの質問はカーラのプライドを刺激した。
「そのくらい出来るさ。魔女を甘く見るなよ」
「では、それで。お兄さんとエグバードは盾、持ってきてないですよね?」
「エグバード、魔法練習用の盾を借りてきてくれ」
魔法防御用の盾が管理棟の倉庫に置いてあるらしい。魔法の起動が遅い魔法師は盾で防御しながら攻撃の練習をするそうだ。貴族が通う学院の割りに武闘派の教育方針なんだな、とクリスティンは思った。
そういう訳で、クリスティンは蜥蜴がブラッドストーンを抱えた魔法棒を取り出した。
「地味子…もうちょっとまともそうな魔法棒は無いのか…」
デボラが文句を言った。
「まあ、その石には勇敢の意味があるから、攻撃用には向かないとも言えないだろう」
カーラはブラッドストーンと火魔法の親和性を一応評価してくれた。魔女のプライドがあるから理屈に合った事は否定出来ない点がデボラより扱いやすいところだ。そうして、30ft離れた場所からクリスティンに近づく練習を始めた。
「燃、集、火、打」
クリスティンは短縮詠唱でファイアーボールを次々と打ち出した。短縮詠唱の為、通常のファイアーボールより小さいから殺傷能力は無かった。火傷くらいはするが。短縮詠唱とは言え、六人に次々と攻撃をするからその合間に前衛が前進出来る。間もなくジャッキーとクロちゃんは目標の線を越えて走りこんだ。
「こんな感じで練習を進めたいんですが、お兄さんとしては指摘する事はありますか?」
「カーラとデボラに攻撃するタイミングを図って欲しいんだが…」
攻撃側の防御の負担をクライブは心配した。
「防御は水魔法でも良いですか?」
「出来るなら任せるよ。カーラ、デボラ、合間を見てクリスティン側に大きすぎない攻撃を飛ばしてくれ」
「はっはっは、今日が地味子の命日だ!」
「一応コロシは避けろよ」
カーラとしては後輩に一応アドバイスをしたが、残念ながらデボラは聞いていなかった。
クリスティンは先ほどと同じタイミングで前衛二人にファイアーボールを放った。デボラが攻撃の準備をしているところに、クリスティンは簡易詠唱の高速詠唱でファイアーボールを放った。
「げっ」
デボラは魔法を中断して伏せて避けた。
(ウォーターウォールで防御する練習でしょう?この娘に成長を期待するのは間違いなのかしら…)
ふと考える隙にカーラが本気の鎌鼬を放った。
「水、壁」
クリスティンは壁状に水を整形する事に拘らず、ただ全面に水を集めた。カーラが殺傷能力のある魔法を使ったのが分かったから、質量が必要だったんだ。ばしゃん、と鎌鼬が水全体を発散させた。
(こういう人よね)
カーラの攻撃性は分かっていたが、防御の事を考えていたのか?と疑問に思った。もうクリスティンは水飛沫の斜め下からファイアーボールを放っていたから、今度はカーラの防御の時間だ。もちろん、致死性の魔法を受けて黙っているクリスティンではない。
「ちいっ」
カーラもそのファイアーボールの温度が通常より遥かに高い事が分かったから、必死で二重層のウィンドウォールを形成した。その二重層を突破した上でファイアーボールは弾けた。攻撃側の優勢勝ちというところか。カーラは更にブローの魔法で高温の気体を横に流す必要があった。
その間にクリスティンはクライブ、エグバードにもファイアーボールを放った。そうして前衛陣に二度目の攻撃を放ち、デボラにも二度目の攻撃が行った。
デボラはもうウォーターウォールで防御をする事など忘れて逃げまわった。カーラへの二度目の攻撃までは間断なく攻撃が加えられたが…ここで前衛陣に三度目の攻撃を放ったあたりでクリスティンの息が上がった。人間、そんなに高速詠唱を続けられるものではないのだ。目標の線を越えたクロちゃんがふらついたクリスティンを支えた。
「大丈夫か!?無理する必要はないだろう!」
ジャッキーがハンカチを出してクリスティンの汗を拭いてくれた。
「はぁ、はぁ…このくらいしないと魔女との対決の練習にはならないから…」
クライブもやって来て提案した。
「少し休もうよ」
「そもそも、相手が火魔法で攻撃してくると限らないじゃん」
デボラが言い出した。
「次は水でも風でもないでしょ。だから危険な火魔法の防御を練習しておくのよ」
そのクリスティンの言葉にカーラも気付いた。
「なるほど、今学院に水籠りの里の者は他にいないのだろう?風塵の里の者も私以外いない筈だ。そうなると残りは火、土、あとは森の魔女となるか」
「そういう事か…」
クライブも気付いた。
「でもでも、暗黒の魔女もいるかもしれないじゃん?」
デボラはあまり考えずに口にするが。
「暗黒の魔女を使うとその者の評判が落ちるから、王子様が暗黒の魔女は集めないと思うの」
「そうだな。王家の者が暗黒の魔女を使ったとなると、王家全体の評判が悪くなる」
クリスティンもクライブも暗黒の魔女は考えていなかった。しかし、カーラでさえ火魔法の魔女は気になった。
「炎熱の魔女がいるとしたら、随分気性が荒そうだが…」
他人の事が言えるのか、と全員が思ったが、口には出さなかった。
「そこは王子様がスカウトを考えているのだから、そこまで酷くは無いと思いましょう」
クリスティンは口にしたが、いやいやカーラで慣れていればほとんどの人間には耐えられるでしょ?と思っていた。
発声練習で『ういろう売り』という文があるそうですが…早口で言う以前に文章が覚えられそうにありません。
次回更新は土曜日の予定です。




