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4−7 不審者(4)

アッシュ、あなたが元気ならあんな女相手にならないのでしょうけど

私の可愛い子はまだ幼くて

本当は毎日抱きしめて温めてあげたいのだけれど

人の姿のあの子を抱きしめるのは恥ずかしいし

せめて守ってあげられればいいのだけれど


 クリスティンから見れば、あの不審者が誘いに乗るとしたら、前回果たせなかった目的の達成の為だろう。その行動から目的が明らかになる訳だが。

(狙いが私なら後ろから襲えば早いのよね…)

とりあえず魔法練習場の入口付近の雑木林に布陣する。前列がクロちゃん、エグバード。一列後ろに少し右にずれてデボラ。ジャッキーが私の左前に立ち、クライブが私の右前に立つ。

(ジャッキーが言い出した陣形にクライブが同意したんでしょうね。ジャッキーの狙いは相手の目的である私の保護を優先。クライブの目的は手練れに対して妹を一列下げる事。兄妹の思いは異なるのでしょう。ジャッキー、心配してくれるのは嬉しいけど、これはクロちゃんに負担のかかる陣形だよ)

ジャッキーとクロちゃんで抑えきれない手練れをエグバードとクロちゃんでは当然扱いきれない。クロちゃん主体でエグバートが援護する恰好になる。もちろん、練習場の中からこちらを見ている王子もこの陣形の狙いに気付いている。

(クライブめ、余計な事を)

王子も不審者の狙いを見定めたく、その狙いの可能性の高いクリスティンを最後列に配置するのは不満だった。もちろん王子は感情を表に出したりしないが。


 果たして件の不審者は顔に布を巻いてクロちゃんの前方に現れた。あの手練れがこちらの思惑に気付かない筈が無い。それでも正面から現れた不審者に、一番緊張したのはエグバードだった。人狼化しているクロちゃんが不審者の斜め前に立つ。下手に仕掛けると逆手に取られるから、相手が動くのを待って対応しようと言うのだ。相手の姿がブレるのに対してクロちゃんも踏み込む。残像を残す様な高速移動をする二人が一度距離を取るところで、打合せ通りエグバードが一太刀を入れる。避ける不審者に対してクロちゃんが攻撃を加えて後退するエグバードを援護する。両者は相手の攻撃を腕で防いで有効打を受けない様にしている。二人がかりでも相手が優勢になっている。


 クリスティンが見るところ、その原因の一つは…

(この女、本当に腕が良い。王国騎士がどれほどのレベルか分からないけれど、第三王子の護衛よりはずっとレベルが高いよ)

そしてもう一つの原因が…

(エグバードの後退に合わせてクロちゃんがタイミング良く援護攻撃をしている事。そのタイミングを読まれている)

多分、クロちゃんをあしらって前進する事は可能な筈だ。

(それでも前進しないのは、2列目のアイスちゃんを警戒している、と言うより、狙いがあるのでしょうね)

デボラは不審者とクロちゃんの高速移動にとてもじゃないが攻撃のタイミングが取れない。傍観しているだけだ。一方、クリスティンが遠い距離から攻撃しても、あの女なら簡単に避けて見せるだろう。


 クロちゃんも相手の変則攻撃を警戒して戻しを意識した攻撃になっている。

ジャブなら当てるより引く事を意識して反撃を防ぐ事が肝要だ。でも、いくつかの違うタイミングの攻撃もそろそろネタ切れだろう。

(その時、あの女の狙いは、クロちゃんを投げてその隙に前進する事では無い様な気がする)

一度壊してしまえば暫く使い物にならない。高速移動が武器のケダモノならなおさらだ。クリスティンとしては奥歯を噛みしめる事態だ。


 エグバードが後退するタイミングでクロちゃんが前進しようとした時、右側の木から打撃音が鳴った。手練れの不審者も、耳も反射神経も人間離れしたクロちゃんも相手の不意打ちを避ける為に二歩ずつバックステップした後、音のした方を一瞬見た。人影は無く、小さな飛翔音がするだけだったが、音の正体が分からない為にクロちゃんはバックステップしてデボラの近くまで後退し、不審者も林の奥に消えて行った。


 クロちゃんとしては相手に加勢する者がいないか警戒していたし、不審者側には当然、風塵の魔女が実は参戦する、という可能性を捨てきれなかったんだ。こうして二度目の対戦は終了した。


 クリスティンがクロちゃんに駆け寄る。

「クロちゃん、大丈夫!?」

「ああ、強いのはもらってない。あちらも何か狙っていたから、牽制に専念してたんだ」

「命は一つしかないんだから大事にしないと駄目だよ」

クリスティンはクロちゃんの首に両手を廻して抱きしめた。クロちゃんの顔は真っ赤になった。黒い毛で覆われていたので誰にも気づかれなかったが。とはいえ真上を向いて顔をクリスティンに見せない様にした。

(ぎゅっは駄目!当たるか当たらないかと言えばスリムな彼女だから当たらないけど、そういう事じゃなくて!わんこに見えても中身は年頃の男の子なの!ぎゅっとされるとオオカミになっちゃうの!いや、もう狼だけどそうじゃなくて!)

クロちゃんはテンパっていた。

ジャッキー達は冷ややかな目を向けた。

(駄犬が。抱きしめられただけで昇天しやがって。修業が足りんわ!今度しばいたる!)

(飼い主と飼い犬がじゃれてるだけと分かっていても、ああも駄犬が喜んでるとムカつくな)

(ちぇ、おれの方が良い人なのに…)

一人だけ素直に羨ましがってる奴がいるが、そもそも控え目で舞台の隅に立ってるだけなので良い人か悪い人か分からない奴だった。


 その日の晩、王子は魔法師を投入してその場を調べさせたが、出て来たものは少なかった。

「砂鉄が不自然に纏まっていました」

王子としては一応情報が得られたので満足する事にした。

(土魔法師か、土魔法も使えるか、という事か)

 クロちゃんは次は水曜日に投稿します。明日は蝙蝠です。

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