4−6 不審者(3)
暫く不審な気配は感じなかったから、デボラとクロちゃんの魔法練習は進んだ。実際にはデボラは試験と関係ない技術を磨いていたのだが。
「地味子ーっ!曲がんないぞっ!この棒駄目じゃないかっ!」
「だからさ、各工程を理解しないで棒だけ振っても楽団は演奏をしてくれないのよ」
「音楽家になるつもりはないっ!」
溜息をついてクリスティンはデボラに指導を始めた。
「じゃあ、ゆっくり短縮詠唱してみましょう。水、集、打、って魔法を込めて言ってみて」
「水っ!集まれっ!打てっ!」
大き目のウォーターボールが的に飛んで行った。
「分かった?」
「何がっ!?」
「敢えて短縮で単語だけ詠唱をさせたんだから、水を生じる工程、水を纏める工程、水を相手に打ち付ける工程が分かるでしょ?」
デボラは頭に『?』を浮かべていた。
「単語を言うと水が生じる工程、水を纏める工程、水を動かす工程が明らかでしょ?その時の魔法の動きを感じるの」
「水っ!集まれっ!打てっ!」
デボラも初級魔法を延々と練習してきただけあり、呪文に対して魔力を与えながらその効果を感じる余裕は出来ていた。
「あ、何となく効果の違いが分かった!」
「呪文は魔女と違い、未熟な人間が魔法を使いやすいように作ってあるのよ。その工程毎の効果を真似てみて、上手くなったら好きにアレンジすれば良いのよ」
「でもさ、途中で水玉を曲げる工程なんてないじゃん?」
「水を纏める工程を参考にしながら動かす工程を行うの。そうしないと新たな魔力で水玉が壊れてしまうでしょ」
試しにクリスティンがやってみた。魔法棒を振る際に移動する水玉に別運動をさせる、その際に水を纏めながら動かすんだ。
「何だ、棒の真似をする様に水玉を動かしてるだけじゃん」
魔法棒を使う事で、本来手の先から放出される魔力が魔法棒の先の宝石から出力されるという違いはあるが、呪文に依らない魔法行使は使い手自体がコントロールしていた。
「最初にやった時に気づいて欲しかったわ」
「今気付いたから良いじゃん」
そうして棒を振るのは気分で、魔力で動かすというコツをデボラは掴んだ様だった。しかし、この娘はこういうポーズが好きならしく、鮒ルビー魔法棒を振りながらウォーターウォールやウォーターランスをぐにゃぐにゃ動かす遊びに夢中になった。
「まあ、あれはあれで練習になってるんじゃないか?」
クロちゃんは言うが…
「何かもうあの魔法棒を返してくれそうにないわね。一応、ルビーが付いているから子供のおもちゃよりは高価なんだけど」
「何か駄々をこねた時に返せって脅しに使えるんじゃないか?」
「もう自分の物だ、って言い張ると思うよ」
そういう頃にまた第三王子エドウィンから呼び出しがあった。
「せっかくあちらから来てくれたのでね、少し挑発してみた」
不審者がまた来てくれる様に偽情報を流したと言うのだ。クライブは頭を抱えるしかなかった。
「一体、どんな情報を流したんですか…」
「我々に風塵の魔女を加えて、学院の平和を守る治安行動を始めると噂を流したんだよ」
「それだと王都に潜伏しているらしい風塵の魔女を刺激するじゃないですか!どうするおつもりですか!」
ハワード家も風塵の魔女の里出身者が王都に来ているらしいという噂は把握している様だ。もちろん王子も。
「何、魔女のパトロンには治安を守る為の偽情報だと伝えてある。我々で処理するから心配しない様にとね」
「不審者の技量からすると我々では手に余ると思いますが、どうしろと言うのです!?」
「何、水籠りの魔女も大分上達したと聞いている。十分だろう?」
「実戦経験が足りません。そういう訓練もしていません。火遊びのつもりが大火傷になるかもしれません」
「クライブは最近、火遊びで隠し子でも作ったのかい?」
「そんな噂も実話も全く縁が無いですよ!」
隠し子騒ぎなど貴族の男達なら多少の噂話はあるものだ。正に隠し子騒ぎで実害を受けているクリスティンとしては、それなりに辛いのだから、そういう噂も実話も勘弁して欲しいのだが、男の本能というのはそういうものなのかもしれない。
「まあ、そういう事で、明日の魔法練習では場外で迎撃をする事になるだろう。対策を考えておいてくれ」
丸投げかよ、相変わらず。クライブは項垂れるしか無かった。
クライブとしてはジャッキーを上回る格闘能力を持つ多分何かの団体の工作員との戦闘などお手上げだった。頭を抱える兄が頼りにならないと感じたジャッキーは、聞くべき相手に対策を聞いた。
「クリスティン、対策はどうしよう?」
「私としては高速詠唱の短縮詠唱で対応する以外にないと思う。相手は多分高速の打撃と例えば足技や投げ技の変則攻撃の複合攻撃をしてくると思う」
「魔法師にとっては一番危険な相手という訳ね」
「一列目が格闘で負けると、もう逃げの一手になると思う」
「ふむふむ、分かった。クロちゃんや、あんたの意見はどう?」
「避けるのが上手かったからな。躱して関節技や投げ技に移るのはあり得るだろう」
「問題は、あれで仲間と連携されるとどうしようもないと言う事だけどね、クリスティンはどう思う?」
「それはそれこそ氷結の魔女様の出番でしょ?」
クリスティンとジャッキーはデボラを見た。
「え、あたし?」
「盛んにウォーターウォールを変形させてたじゃない。あの調子で上手くアイスウォールで障害を作って連携を取らせなければ良いのよ」
「ああ、なるほど。でもあんな動きの速い奴には間に合わないかもしれないよ」
「上手く作る事より素早く作る事を優先する事ね。そういう訓練をジャッキーとやっていたんじゃないの?」
「あれはウォーターシールドだったし…」
自分は何も出来ない内に終わった前回の事態に臆病風に吹かれているんだな、とジャッキーは判断した。
「まあ、いつも通りに気楽にどんどん作って凍らせれば良いんだよ。一応、二・三人いた場合にあんたの氷が頼りだ。一瞬でも避けたり乗り越えたりするのに手間をかけさせれば良いだけだから、じゃんじゃんやりなさい!」
「うん…」
もうちょっと鍛えないと使い物にならないな、とジャッキーもクリスティンも思った。
ここで2日間が開くのも申し訳ないんですが。明日は「(仮)蝙蝠の翼」みたいな題名の新作を投稿します。むっちゃ地味。




