4−3 不審者(1)
試験前勉強の方は進んでいた。過去試験の内容を中心に進めているから、進んでいると思えるし、それ以外も網羅する様に進めている。12月の試験前には準備が出来るだろう。きちんと記憶しているかは個人差がある筈だが。そんな時、第三王子エドウィンの呼び出しがあった。
「魔法練習場から裏の森にかけて、何らかの不審者の気配を感じている者が複数いる。少し調べてみないか?」
クライブとしてはクリスティンとクロちゃんも気付いたと聞いているから、放置も出来ないとは思う。
「そろそろ試験の準備をしております。それに影響が無い範囲ならやりますが。殿下の知人が悪い成績を取るのも体面が悪いと考えます」
「まあ、学業優先なのは認めるよ。だが、出来れば相手を掣肘出来るくらいのパフォーマンスを見せてくれると嬉しいね」
「出来る範囲でやらせて頂きます」
クリスティンとしては王子がこうも誰かと我々をぶつけたがるのは、各自の能力を見る為ではないか、と思ってしまう。そうして能力を示した相手も取り込む、そうしてこのグループの総合力を高めて行くつもりではないか、とも思うが、何を目的としてそれをやっているのかが分からない。第三王子が実戦力を持つのは親兄弟から目を付けられて破滅に突き進む道ではないか。
「そう言う訳だから、帰り道は少し遠回りをしてパトロールの代わりとしてくれ。無理する必要はないから、危ないと思ったらすぐ逃げてくれ」
「今のところ実害は無いのですよね?」
クリスティンは噂があるなら知りたかった。
「視線を感じる、と危機感を抱く女生徒がいる様だ。詳しくは聞いていないが」
ジャッキーが気になる点を指摘した。
「男子生徒からの目撃証言は無いの?」
「男で視線を気にしている奴の話は聞かないな。己惚れんな、と周りに叱られるだろうから言わないのかもしれないが」
「ちなみに兄さんは誰かの視線を感じた事は?」
「ないよ。悪かったなもてなくて」
「正当な評価だと思うよ~」
女生徒対象の魔法練習場付近での視線となると、気になるのは魔女の可能性のある者が調べられている可能性だが。今までの王子の言い草からすれば、魔女案件なら魔女と言うだろう。
魔法練習もいくらか前進した。
「ほらほら、右を抑えてもすぐ左がいくぞ~」
ジャッキーは楽し気にデボラを水玉で殴りつけようとする。
デボラも殴られたくはないし、水浸しにもなりたくないから自分の水玉を素早く作ってその水玉で防御しようとする。
まだデボラの方が先に崩れるが、防御には間に合う様になった。
「くそーっ!魔女がゴリラにいつまでも負け続ける訳には行かないのにーっ!」
「ははははっ、エテ公以下ゆーことやな」
「ちくしょーっ」
デボラが明確に上達しているのは良い事だが…
「何か敗北感を感じるわ…」
クリスティンとしては悔しい気がない訳ではなかった。
「まあそれぞれ向き不向きがあるから、あいつにはあれが合ってると言う事だろ」
「そうは言っても…人はやっぱり理屈では動かないで、感情や危機感などで動くものなのね…人間なんて知性で生きる生き物ではなくてケダモノだと思い知らされるわ」
「そこまで大げさに思わなくても良いさ。大体、あいつはこういう感情的に動くのを直すのが求められてるんじゃないのか?だから、これはこれで、後日もっと理性的に動く様に指導する必要はあるだろ」
「言って治らないから困ってるのよね…」
「普通は嘘やら言い訳やらで自己正当化をするのは10才くらいまでに止めるものだがな」
「それは周囲次第でしょ。子供は大人達の鏡だから、周囲の大人が言葉で言い繕う人達だと子供もそうなると思うの」
「水籠りの魔女の里は言葉で勝負するのか?」
「学術的な話をしていても感情的になる人はいるから。大体、どこでも行政の上の方には嘘つきが集まっているわ」
「断定なのか…」
「行政は集団で一番お金を使うからね。どうしても賄賂やら買収やらで意見調整をする事はあるし、一度それをやるとバラされるのが怖くて後継者以外に権力を渡せなくなるわ」
「まあ、なんとなく集団の主流派はずっと権力を持ち続けるよな」
「…そうね」
クリスティンはどうやら地元で何かあったらしい。可愛がっていた飼い犬が亡くなった事だけが家を出た理由ではないらしい。
そうしてその日の練習が終わる頃、ハワード家の侍従がジャッキーを迎えに来た。だが、ジャッキー、クリスティン、クロちゃんの三人はじっとその侍従を見つめた。
「お嬢様、お迎えに参りました」
眉間に皺を寄せてジャッキーは言った。
「あんた誰?」
侍従はステップインしてジャッキーを殴ろうとした。
ジャッキーは左袖に右手を入れて木の棒を引き出した。不審者の目撃証言があったから護身用に持っていたんだ。だが侍従のフリをした不審者のパンチは速く、ジャッキーでもバックステップして体を回転させて、棒を寝かせてパンチを反らす以外出来なかった。クロちゃんは不審者の斜め後ろから踏み込んでフックでボディブローを叩き込もうとしたが、不審者はサイドステップで避けた。
避けられる、と思ったクロちゃんはスイングを止めて裏拳で殴ろうとしたが、これもサイドステップで避けられた。
クリスティンは右手を伸ばして小声で詠唱した。
「水、集、氷、打」
拳大のアイスボールが飛んで行った。短縮詠唱だ。不審者は屈みこんでアイスボールを避けた。その顔の下からジャッキーが棒を振り上げようとしたが、不審者はバックステップで避けた。クロちゃんが今度は隙の少ないジャブで顔を殴ろうとしたが、不審者は上半身を揺らすだけで避けた。クリスティンが再び短縮詠唱を行った。
「水、集、錐、打」
ウォーターランスが飛んでいくが、不審者はサイドステップしてそのまま森に消えて行った。
タイミング悪くアレとこれが掠ってますが、偶然です。




