4−2 魔法練習は続く
魔法実技の練習もある程度成果を上げる必要があるが、デボラは相変わらずだった。
ぼしゃーん。
水玉を長い間保持する集中力が無いんだ。
「アイスちゃん…少しはクロちゃんを見習って…」
そう、クロちゃんは氷の桶に溜まった水を動かすどころか、持ち上げて水玉にするところまで進化していた。
「いや、まだそいつの水玉保持時間の方が長いが」
「大丈夫、これなら試験前には追い越してるよ」
「くそーっ、試験までにはこっちも大進化してやる!」
とはいえ集中力の問題だから、つまり人間性の問題であり、1カ月で改善するとはデボラ以外は誰も思わなかったが…
「クリスティン、ここは担当を変えよう」
「え、どういう事?」
「つまり、クリスティンはクロちゃんを可愛がる、私はアイスちゃんを可愛がるって事」
「どう可愛がるかが怖いけど…」
「まあ、適材適所って奴だと思って」
「うん、結果が出るならそれを優先すべきだけど…」
それを聞いてデボラが慌てた。
「こらーっ、私の意見を聞かずに決めるな!」
「意味のある事を一度として言った事の無いあんたが悪い」
「生まれてこの方、一回くらいは意味ある事を言ってるぞ!」
「ほとんど意味が無い事ばかり言っている自覚はあるんだな…」
「有言不実行な事はよくある!」
「威張れねぇ…」
ともかく、デボラに対する魔法指導が停滞している事は皆が認めるところだった。よってジャッキー先生がデボラに教える事になった。
「なあ、アイスちゃん、あんたが何で駄目なのか分かるか?」
「駄目じゃないっ!ちょっと未熟なだけだ!」
「言い訳は良いから。あんたは何彼につけ緊張感が足りないんや」
「リラックスして事に当たる方が良い結果が出ると思ってるんだ!」
「御託は良いから。そういう訳であんたの緊張感を高める鍛錬をやるで、ええな!」
「練習じゃやないの!?鍛錬なんてやった事ないから止そう!」
「男には引いてはいけない線があるう!ここがその線や!!」
「いや、こう見えて私は可愛い女の子だから!」
「性別の事やないっ!ド根性の事をゆーとるんや!」
「いや、女らしく生きたいとか普通に思わない?」
「女らしく生きたいなんて奴が他人の事を地味とかゴリラとか言うか!」
「いや、実はあんた根に持ってない?」
「今はあんたの根性叩き直す方が大事や!!」
「ごまかすなっ!」
「そういう訳で、手に付けた水玉で殴りあって最後に立ってた方の勝ちや!はよ準備しないとボコボコにしたるでっ!」
「暴力反対っ!」
「何言うとる。1対1で片方が暴力を使ったら、口では止められん!まず暴力で叩きのめしてから口で勝つ必要があるんや!」
「それ口で勝負してないっ!暴力勝負じゃないっ!」
「だから、暴力には暴力以外では対抗でけへんっ!気合入れろやっ!しばいたるでっ!」
ジャッキーはもう両手に水玉をくっつけている。人の頭大のものだ。
「ちょっと待てっ!そんなサイズで殴ったら吹っ飛ぶじゃないかっ!」
「魔女が何言うとんねんっ!食らえっ!」
右スイングがデボラの頭に向かってくるが、デボラはかがんで避けた。
「甘いっ!」
ジャッキーは左手に付けた水玉をデボラの頭に投げつけた。
ばしゃーん。
デボラは水浸しになった。
「酷ーいっ!びしょ濡れじゃないっ!」
「水籠りの魔女が相手の水魔法で水浸しなんてええ恥さらしやなっ!悔しかったら水玉で受けとめんかいっ!」
再度のジャッキーの右水玉攻撃に、デボラも水玉で受け止めようとするが、水玉の強度が違う。
ばしゃーんと壊れた自分の水玉の水を浴びると共に、ジャッキーの水玉で殴られデボラは吹っ飛んだ。
「酷いっ!ひとでなしっ!」
「ガタガタゆーな!魔女なら口やなく魔法でやりかえさんかいっ!」
「ちっくしょー!!」
そういう訳でジャッキーとデボラは水玉を使った殴り合いを始めた。
「さあ、俺の魔法を指導してくれ」
何事も無い様にクロちゃんはクリスティンに話しかけた。クリスティンもあれはあれでお互い性に合っているのかもしれない、と考える事にした。
「うん、後で乾かしてあげよう」
「そうしてやってくれ。それ以外は放置で良いだろ」
「うん」
そうしてクロちゃんの水玉指導を進めた。
「水玉が小さくても良いけど、両手で水玉を保持する様にしてみない?」
「え、両手をつけてみると…崩れるなぁ」
「何度かやってみて」
片手で作ってもう片手をつけてみる。一先ず壊れない様にはなった。
「これで良いか?」
「うん、それで、右手から流した魔力を左手で受ける様にしてみて」
何度かやってみるが、その意識が水の保持から逸れて水玉を壊してしまう。
「上手くいかないな…」
だからクリスティンが自分でやって見せた。
「こうして、右手から左手に水玉を介して魔力を循環するの。これが出来れば今度は右で作って左で保持して、右で打ち出す事が出来ると思うんだ」
「なるほど、最後は打ち出さないといけないから、仕事を右と左で分担する為の練習か」
「うん、今は難しいかもしれないけど」
「そうだな、一カ月後の目標を考えれば段階を踏んで練習した方が良いだろうな」
「うん、頑張って」
そう言ってクリスティンが笑ってくれるなら、クロちゃんとしてはいくらでも頑張ろうと思えるのだった。
恋する男の子の純情と言うべきか、飼い犬の駄犬っぷりと言うべきか。
幸せは歩いてこないが、気付かない幸せが歩いて行ってしまう事はよくあります。だから幸せを大事にしないといけません。




