4−1 試験に向けて
午後の授業が無い日、クライブが予約した応接室に皆が集まっていた。
クロちゃんは耳も尻尾も垂れ下がっていそうな表情で、クリスティンに話しかけた。
「その、やっぱり俺に何か出来ないだろうか…」
んー、クリスティンは顎に人差し指を当てて考えた。
「もう11月になってしまったら試験まで1カ月ないのだから、勉強と魔法の練習のペースを上げた方が良いと思うよ」
…俺の事じゃなくて、と項垂れたクロちゃんの横顔が語っていたが、クリスティンは心を鬼にした。今必要なのは厳しさだ。
「計画を立てて勉強と練習を進めて行きましょう。冬休みに気楽に過ごせる様に」
クライブが解説してくれた。
「試験結果が悪い者は追試を12月中旬に受ける事もあるけど、それでも成績が悪い場合は冬休みに課題を課されるんだ。しかも成績不良者は下期の始めに試験があって、この成績が悪いとまた課題を課されるんだ」
それを聞いたデボラが慌てて聞いた。
「えええ、でも貴族とかだと領地に帰る人もいるんじゃない?課題はそれでも出来るくらい少ないの?」
「もちろん、移動している暇が無くなるくらい多くの課題が出るらしいよ。今の内に頑張った方が良いんじゃないかな」
「酷ーい。休みには休ませろ!」
「試験結果が良ければ大丈夫だよ」
「そんなー…」
試験勉強を始める前から諦めている人間も珍しい。勉強する気がないのか。
「勉強をする気が無いんだな?」
「あるけどさー。そういう地道な努力は私には合わないんだよ」
言い換えれば努力する気が無い、と堂々と言える人間も中々凄い。
「まあ、過去4年分の試験内容は調べてある。それを基に勉強するんだな」
「げー…」
デボラの話だけ聞いてクロちゃんがやる気を失うと困る。クリスティンは前向きな提案をする事にした。
「クロちゃん、次から試験勉強を始めましょう。計画的に進めれば、十分ではなくても時間が残っているから」
「ああ、少しずつでも進めよう」
そういう訳で、やる気のないデボラはともかく、クリスティンとクロちゃんはそれなりのやる気を出した。
クロードが過去問題一覧を持って来たので、割り振りを決めた。
「魔法理論の方は私が十分教えられる範囲なので、外国語と王国史についてはお兄さんが少し見てもらえますか?」
「ああ、私も試験勉強を進めるが、家で家庭教師に教えられているから、この場ではある程度教師役に回れるだろう」
つまり田舎者のクリスティンは外国語やらこの国の歴史やらに関してはクロちゃん同様、心細い状況だったのだ。また、本は写本が中心で高価だから、平民や平民上がりには疎遠なものだったんだ。侍従達が用意していた書籍を捲って、過去試験の確認をする事になった。ところが魔法理論についてはクリスティンはもう2年の内容の多くを読み終わっていた為、基本の書物に書かれていない事まで解説しだした。
「つまり水魔法における水抽出工程というのは、周囲の水分を集めて飽和水蒸気圧以上にする事で水を生じさせるから、近場で大きい水魔法を使われると魔力に劣る者は水魔法に失敗する可能性が出ます」
「ちょっと地味子、そんなの本に載ってないじゃない!」
「図書室の本には載っているわ。魔女ならそのくらい覚えなさい」
「いや待て、魔女はもっと感覚的に魔法を使うから…」
デボラの言い訳に被せてクリスティンは続けた。
「あなたはそういう理論的な裏付けなしに闇雲に練習するから上達しないんでしょ?せっかく試験があるのだからしっかり覚えなさい」
「いや、だから本に載ってない…」
再びクリスティンが被せた。
「素人で一生を終えるならそういう言い訳が通用するけど、あなたは魔女なんでしょ?他人より理論を身に付けて魔法実技に活かさないとみっともないでしょ?」
「いや、みっともないとまで言わなくても」
ジャッキーは容赦無かった。
「魔女なのに魔法が苦手な種族のわんこと同じレベルの練習してたらみっともないだろ」
クロちゃんも容赦無かった。
「それでクリスティンに迷惑かけてるんだからみっともないだろ」
クライブが追い打ちをかけた。
「あんまり上達しないと殿下が何かペナルティを課すとか言い出すぞ」
「ちょっと待って!みんなで虐める事ないじゃん!」
みんなでは無かった。デボラに口で勝てないと思っているエグバートは黙っていたから。気持ちは皆と一緒だが。
「魔女としてのプライドが足りないのよ。いいから気合を入れなさい」
「その軍隊式止めて!」
そういう訳でクロちゃんならクリスティンに一回言われれば死ぬ気で覚えるところを、デボラは4倍時間をかけても覚えてくれない事が続いた。ああ言えばこう言うで時間がかかり過ぎるのだ。仕方がないからクリスティンは質問カードと回答カードを作って、クリスティンが手にしたカードに対する回答をデボラに選ばせた。選ぶだけでは身に付かないので、その選択したカードを書き写す様にさせた。
「選べたんだから良いじゃん…」
「こんな選択式の質問は試験では出ないからね。ちゃんと覚える様に書いて貰う必要があるの」
「もう覚えたよ…」
「じゃあ、次は直接回答を書いてね。回答カードは捨てるから」
「待て!捨てるな!それで覚えているんだから!」
「あなたは本当に…その場しのぎの発言で生き抜いてきたのね…」
「臨機応変に生きてるんだ!」
舌先三寸で生きようとしているが、何しろ行動が駄目なので上手くいっていない事だけは全員分かっていた。
そういう事でデボラもクリスティンも寮に帰る時はふらふらになっているのだが…
「クロちゃん…」
「ああ、気付いてる」
応接室から寮へ戻る道のりで、普段は感じない気配を二人は感じた。もちろんデボラに気配を感じる繊細さは無かった。
11/1からシリアスものを始めるつもりで書き始めたのですが、1話がこれは駄目だ!読者が半分以上逃げ出すという設定もりもりになっています。第2稿でましになるといいのですが…それよりこっちを木曜分まで書けるかな…シリアスものが始まったらこちらは週2更新にする予定です。シリアスものがクリスマス前に終わる予定なので、年末にはまたこちらの投稿を多くする予定です。




