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1−2 王子の用件

 上位貴族用応接室には第三王子と護衛の騎士二人、下座に大柄の1年生が一人座っていた。クライブは連れてきた二人を紹介した。

「エドウィン殿下、こちらは私の妹ジャッキーとその友人です」

第三王子は評判の悪い王子とは思えない柔らかい微笑みを浮かべながら話した。

「やあ、私の事は知っているかと思うが、第三王子エドウィンだ。良ければ自己紹介を聞かせて貰えないかな?」

王族にこう言われて自己紹介をしない訳にはいかない。

「クライブ・ハワードの妹、ジャッキーです。1年2組におります」

「クリスティン・クロフォードです。1年2組におります」

王子は愛想良く二人に座る様に言った。

そうして昼食が運ばれてきた。つまり、最初からこの集まりは昼食で釣る会合だったのだ。

食べた後が怖い訳だが…王族が愛想良く世間話を続けるのに席を立つ訳にはいかない。

「この学院では10月末に学院祭が行われてね、クラスの催し物以外にクラブ活動などの発表が行われたりするんだが、女子二人は何か考えているかな?」

ジャッキーは学院祭の事を知っていた。昨年の学園祭を見に来ていたからである。

「クラスの催し物が何かによりますが、今のところ何も考えていません」

クリスティンとしては、王子が何か発表するのを手伝えとでも言いたいのだろうか、と警戒したが、逃げ口上を考えていなかった。

「学院祭がある事を今知ったばかりですので、何も考えていません」

「まあ、入学したばかりだからまだ何も予定が無いのが普通だろうね」

王子は微笑みを絶やさず応えた。邪心が混じっている様には見えないが、なにしろ噂の男である。ジャッキーもクリスティンも額面通りには受け取らなかった。クリスティンは人間関係について考えずにはいられなかった。

(自分は火の粉を被らない様にひたすら気配を消して生きているけど、噂という背景を真っ黒に塗られてしまえば印象なんていくらでも悪くされてしまうんだね。何か考えないといけないのかな…3年間に面倒事がないと良いけど…)


 王子は食事が終わる頃に皆に尋ねた。

「食後のデザートはいかがかな?」

クライブはビスケットを頼んだ。

「私はフルーツケーキをお願いします」

ジャッキーはまだお腹に入る様だが、小食のクリスティンはもうお腹が一杯だった。

「私はもう、いいです」

「せっかくだから少しでも食べてみたら?半分、私が食べてあげるから」

クリスティンは田舎者だからスイーツに慣れていない事もあるが、今まではアッシュが食べられないものは自分も食べなかった。たまには良いか、と思って半分だけ食べることにした。

「じゃあ、あまりお行儀が良くないかもしれないけど、フルーツケーキで」

下座にいた男子生徒がここで口を開いた。

「自分はビスケットをお願いします」

全員が頼んだ物が給仕された後に王子が口を開いた。

「じゃあ、食事が終わったから世間話でもしようか。平民街でこんな噂が流れていてね。

『森の魔女の里から恐怖の魔女と呼ばれる女がやってきて、王都を恐怖のどん底に陥れる』」

クライブは少し頼りなく見えるが、知的な男らしく、その発言を批評した。

「いくつかある魔女の里は時に恐怖の対象となりますが、こちらから敵対しなければ王国や領主に敵対する事は無いです。彼女達の価値観として研究・研鑽が優先されるからです。徒に民心を惑わす扇動が行われるのは不適切と思います」

「調査もせずに扇動と決めつけられないだろう?王家も騎士団も動かないで何かあったら、王国に対する民衆の不信が増してしまう」

クライブは軽率な男ではないらしい。情報の正確性の確保を求めた。

「貴族界隈ではそういう噂は出ておりません。平民街ではその情報の発信源はどこだったのですか?」

「発信源などもう分からないさ。ふらりと歩いている者の耳に入るほど広まっているんだからね」

(ふらりと平民街を歩いたのか、王子が)

一応側近と見られているクライブとしては気になる情報だが、意図的に王子の耳に入れたのか、そうではないのかを確認する必要がある。

(下男に確かめさせないといけないな)

「そういう訳で、せめて学院内での噂の展開状況を確認したくてね、それで人を集めているんだよ」

ジャッキーもクリスティンもこの王子の為人が分からないのでこれを本気で受け入れていいのか分からなかった。

王子が立ち上がり、ジャッキーの方に歩いてきた。仕方なく全員が立ち上がった。

「ジャッキー嬢、協力して頂けるね?噂をそれとなく聞き取るだけだから」

「まだ知人も少ない状態ですが、微力を尽くさせて頂きます」

ジャッキーと握手した王子は、次いでクリスティンに向かった。もうクリスティンの名前を覚えたらしい。そういうところは王族らしい。

「クリスティン嬢、協力を頼むよ」

「人脈がない為、あまりお役に立てないと思いますが、出来る範囲で確認してみます」

「それで良いよ」

クリスティンと握手した王子は、そして下座の男子生徒に向かった。

「エグバート君も頼むよ」

「微力を尽くします」

そうしてこの場はお開きになった。


 屋外に出たところでクライブが3人を集めた。

「クリスティン嬢はエグバートを知らないだろうから、紹介するよ。ハワード領内の騎士の息子で、エグバート・ゴールディングだ」

「よろしく」

「クリスティン・クロフォードです。よろしくお願いします」

ジャッキーはエグバートが硬い表情なのが気になった様だ。

「どうしたの?昔はなよっとしてたけどもっと人懐っこかったじゃない?」

「いや、オレにも色々あって…」

「何それ?」

二人が要領を得ないやりとりをしているのを横目にクライブがクリスティンに小声で教えてくれた。

「あれだよ、二人は幼馴染なんだが、久しぶりに会ったらガキ大将が女になってたってアレなんだ」

「ああ、そういう事ですか…妹さんはかなり男らしかったんですか?」

「今でも男らしいよ」

クリスティンとしては十分想像出来たので、苦笑いを返すしかなかった。クライブは大分苦労しているのだろう。

「その、王子様の件、迂闊に広めると問題があると思うんですが…」

「うん、裏は取ってみるから、暫くはそれとなく噂全体について聞き取る様な恰好でお願いするよ」

「それが良いでしょうね…本当に少しずつですが、聞いてみます」

「悪いね。いずれ何かで埋め合わせをするよ」

クリスティンから見るとこの兄妹は随分人懐っこく見える。良いご家庭なのだろう、と思った。

 本命の設定を考える合間に適当に書く予定だったのですが、書くとなると設定が必要で…本命の設定なんてまるで進んでいません。本作の次の更新は水曜くらいになると思います。

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