1−1 ハワード兄妹
アッシュ、あなたのいない世界はどうしてこんなに彩がないのかしら
王都の喧噪もただのガラクタの集まりに見えて
だから最初に王都の魔法学院の寮に入ってから
一歩も学院から出たいと思えない
この王国では王都の魔法学院に魔法の素養のある者を集めて教育を行っている。1組から上位の貴族子女、9組には魔法の素養の少ない平民主体という風に、
クラスは魔法の素養と身分で分けられているが、自薦・他選・試験選抜などで素養のある者を選び集めている。1年2組に集まる生徒達は上位貴族で魔法の素養の弱い者か、下位貴族で魔法の素養の強い者になる。
入学式の後に生徒達は各組に戻ったが、無言で適当な席に座ったクリスティンは前の席の明るい金髪の少女に話しかけられた。
「ねぇ、あなたはどこから来たの?」
「え、ソールズベリーの西だけど…」
「そう、私は北のザッチャムの方から来たんだ。ジャッキー・ハワードって言うの。よろしくね」
「あ、私はクリスティン・クロフォードです…」
「そう、クリスティンは寮生?」
寮生は使用人を使えないからみだしなみを自分でしないといけない。そもそもクリスティンは魔法の素養を買われて男爵の養女になった口だから、みだしなみは自分で出来るが平民並みだ。
「うん、寮生です…」
「寮生だとすぐ学校に来れていいね。私なんか兄と一緒に来るからいちいち小言を言われてきついよ」
「まあ、確かに朝はゆっくり出来るけど…」
寮生用の食堂は平民・貴族が一緒だから平民や平民あがりのクリスティンは居場所に気を遣うのだ。ここで教師が入室して来た為、ジャッキーも話を中断して前を向いた。
初日は説明と書類の配布だけだった。教師の話が終わるとジャッキーは再度クリスティンに話かけた。
「ねぇ、クリスティンは校内は詳しい?」
「え、図書館くらいしか分からないけど…」
「じゃあさ、これから少し校内を歩かない?私もよく分からないから少し歩いてみたいんだ」
昼食までは少し時間があるし、校内には案内板がいくつかあるから迷うという事もない。
「うん、良いです…」
「じゃあさ、ですます禁止でお願い!」
「え?」
「同級生なんだから堅苦しいのなしにしよ?」
クリスティンは養女になる前は周囲には年上が多かったから、丁寧語で喋る癖がある。
「ああ、ごめんなさい。段々直して行くから…」
「うん、よろしくね」
そうして二人で校内を歩こうと教室を出ようとしたところ、上級生らしき男性が教室に入ってくる。
「おい、ジャッキー、ちょっと来い」
「嫌だよ、これから可愛い娘とデートなんだから」
そう聞いた上級生がクリスティンに向かって言う。
「あ、それは済まない。私はジャッキーの兄のクライブだ。良ければ君も来てくれないかな?」
クリスティンとしては貴族の養女になる前から知らない人に付いて行ってはいけないと言いつけられている。
「すみません、知らない方に付いて行くのはいけないと言いつけられていますので…」
「そうよ、兄さん。そういう訳でお断りだから」
「悪いな、エドウィン王子の招集で、一人でも多く連れてこいという命令なんだ」
「うん、聞こえなかった。だから今日はここでさよなら」
クライブは妹の右腕にしがみついて離さない。
「待て、埋め合わせはいつかするから、今日だけは来てくれ。誰も王子には関わりたがらないんだ」
「私達だって関わりたくないって!」
第三王子エドウィンは変わり者で愚か者と国中で評判の男だ。その名を出せば誰でも逃げる。逃げ損ねて側近扱いされているクライブの様には皆なりたくないのだ。
「そこを何とか。親父にはジャッキーのおかげで助かったと言っておくから!」
「絶対にイヤ!」
「そこの君もジャッキーを説得してくれ!」
クリスティンに振られても困るところだろう。今日知り合ったばかりの二人の間を取り持てるほどクリスティンは人付き合いが上手ではない。
「申し訳ありませんが、私は友人に従います」
「じゃあ、昼飯おごるから来て!」
ジャッキーの瞳がキラリと光った。
「じゃあ、デザート込みで帰りにスイーツ買ってくれるんだったら付いて行く!」
「…それで頼む」
どうやらジャッキーはスイーツで買えるタイプらしい。
三人は上位貴族用応接室に向かった。
学園生活を会話中心に書いてみる、という習作になります。とりあえずクリスティン以外の人は元気なので楽しく書けると良いな。




