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3−1 幕間のひととき

 月曜の昼、食堂で昼食を取った後、裏の森に皆が集まった。

間引かれた木の切り株に座るメンバーにクリスティンは紙に包んだサンドウィッチを渡した。

「悪くならない様に辛目の味付けだから、お気に召さないかもしれないけど」

「具材が痛んでたらどうしようもないからな。それが一番だ」

クロちゃんは傷んでなければどうせ全肯定だろう。クリスティンは続けて木の器にお茶を入れて配っていく。全員田舎者だから、地面に茶の器を置いても文句は言わない。

「ナスの酢漬けで味付けなんだな…」

クライブが食べながら確認する。

「朝作って昼に傷まない為にはやはり酢漬けをソース代わりにするのが良いと思うんです」

「そうだね。肉は何?」

「ウサギですよ。日曜に牛肉は既に傷んでいる事も多いので」

「市場だとそうだね。土曜の午後の売れ残りを売っているところもあるからね」

保存施設の無い時代には大型の獣の肉は危ないことも多い。解体した日にそうそう売り切る事が出来ないからだ。クロちゃんは黙って固まっていた。ジャッキーは小声で話しかける事にした。この駄犬、本当に世話が焼ける…

「クロちゃんや、半分残して持って帰るとか止せよ」

「何でだよ。持って帰って永久保存したい」

「氷結系の魔法師でもない癖に馬鹿言うな。ちゃんと食べきったところを見せて笑って感想を言うのが今のあんたに課せられた使命だ」

「イヤだ。初めて彼女に貰ったものなんだ…」

「ガキじゃないんだから、彼女の喜ぶ事をしろよ。まず彼女を喜ばす、それが最優先だ」

「分かってるんだが…」

「お礼に何か贈って、そうすれば誕生日プレゼントくらい貰えるだろ。そっちを永久保存しろ」

「誕生日プレゼントなんて貰った日には俺、もう死ぬぞ」

「死ぬよりともかく尻尾振って喜ぶのが先だろ。ともかく今は全部飲み込め」

「イヤだ、あと1時間は噛み続ける」

「大概にしろよ…10分待ってやる」

クロちゃんは瞳に涙を浮かべて、この至高のプレゼントを持ち帰れない苦行に耐えた。とりあえずよく噛んで味わっていた。エグバードは(おまけとは言え)せっかく作ってもらったのだから感想を言った。

「肉は良く焼けてるけど、酢漬けの水分があるからちょうど良い食感だよね。料理が上手なんだね」

「家では料理は私の担当だったから。時々山に入る時の昼食も自分で作っていたし」

微妙な話題だったが、ハワード家関係者もクリスティンが養女である事は知っていた。ジャッキーの友人として問題が無いかを親が調べたんだ。木の器に注がれた、ぬるま湯と化したお茶もサンドウィッチの後では美味しく頂けた。


 そんな頃、こげ茶の髪の女生徒がやって来た。

デボラ・パーマー男爵令嬢、氷結の魔女だ。

「何やってんの?」

まだ食べていたクロちゃんとジャッキーは後ろを向いた。仕方がなくクリスティンが応えた。

「試しに料理を作ってね、味見をしてもらっているの」

「へぇ、私も味見したい」

…この女、遠慮が無かった。そういう性格だ。クリスティンも皆の手前、毒見代わりに最初に一口付けたが、サンドウィッチは半切れにして、残りはクロちゃんにあげようと思っていたのだが、それを差し出せば問題なかった。心の中で溜息を吐いたが表情には出さずにデボラに半切れのサンドウィッチを差し出した。

「もぐもぐ、うん、程よい湿り具合で美味しく頂けるじゃない。また作ってよ」

「人数が増えると狩りの時間が長くなるのよ?」

全員が驚いたし、ジャッキーが尋ねた。

「え、自分で狩ってきたの?」

「田舎ではウサギなんて自分で狩るのが普通でしょう?」

クロちゃんが悲鳴を上げた。

「言ってくれれば俺もつきあったのに!」

「クロちゃんと私は一緒に行けないよ。狩り方が違い過ぎる」

「え、どうして!?」

「私は遠目にウサギの足跡を見つけたら風下でじっと待つ猟なの。現れたら山なりの矢で仕留めるの。流石にクロちゃんがいたら小動物は現れないよ」

クロちゃんは項垂れた。そう、人狼達は人間の姿でも追い込み猟だから、存在感は示す方だ。ジャッキーの興味は別にあった。

「それで気配を消すのが上手いんだ?」

「まあ、それだけじゃないけどね」

「地味子だから気配を消すのが上手いんでしょ」

デボラは思った事を口にしがちである。

「アイスちゃん、とりあえず口数を半分にした方が良いと思うよ」

「アイスちゃんって誰よ!?」

「あなた以外にいないでしょ。人見知りしないのは美点だけど、配慮しないのは欠点だよ」

「とりあえずアイスちゃんは止せ!もっと良さげな愛称が良い!」

「氷の女、アイスちゃん。十分恰好良いじゃない?」

「絶対違う意味で言ってるだろ!?」

「偏見よ。差別だわ」

「偏見でも何でもない!地味子はさりげなく腹黒だ!」

この子は…ちょっと周囲には扱い切れない難しさがあった。仕方なくクライブが宥める事にした。

「クリスティンは人影に隠れたがる点があるけど、話すべき時には話す子だよ。地味子と言うのは止めようよ」

「その人影に隠れたがる点が怪しいんじゃない」

「偏見だわ」

もちろん、クリスティンにも自覚がある。人影に隠れたがるのは理由があった。

 木曜までは投稿出来そうです。3章は割と平和な予定です。

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