2−8 氷の女は火のように感情的
クライブは言うべき言葉があった。
「ジャッキー、スカートでその技は止めなさい。はしたない。」
「何言ってんの、この中に私の色気に誘惑される男がいると思う?」
応える者はいなかった。ただ、エグバードはさっきから視線を逸らしていた。
とりあえず王子が何か言い出す前にこの子を説得する必要があった。だからクリスティンは話しかけた。
「それで、1年3組のデボラ・パーマー嬢で合ってる?泉と上水道の小川を凍らせるのはそういう趣味なの?」
「そんな趣味があるかーっ!ただの練習よ!」
「ただの練習なら魔法実技の授業の無い日にやればいいでしょ?」
「魔法実技の授業だけじゃ練習時間が足りないからやってんのよ!魔女の魔法持続力舐めてんの!?」
「舐めても美味しくないから舐めないよ。あなたの場合は数をこなすより一つ一つを丁寧にこなす練習が必要だと思うの。全てが雑だから時間がかかりすぎるのよ」
「魔女相手に分かった様な事言ってんじゃねーっ!」
「だって、魔女なら4人くらい軽くあしらって見せるものでしょ?たった4人に抑えられる醜態、里に知られたら何て言われると思う?」
「ぐっ、それは…今日は調子が悪かっただけだーっ!」
「いつも調子が悪いんでしょ?」
今度はデボラもぐうの音も出なかった。
「あなたが他の魔女並みに魔法が使えないのは、魔法のそれぞれの工程が粗すぎる、と言われてきたのじゃない?」
デボラの顔にだらだら冷や汗が流れた。図星なんだ…
「魔法の各工程を学ぶなら、呪文を唱えて各工程がどう発動しているか確認した方が良いわ。そう言われて学院に行く様に言われたんじゃないの?」
「だって、魔女は呪文なんて使わないし!」
「呪文を使えと言ってるんじゃない。呪文から学べ、と言われたんじゃないの?」
「分かんないよ…母さん達は細かく言ってくれないもの…」
「魔女は感覚的に魔法を使うからねぇ…」
「だから練習あるのみなんだよ…」
「脳筋だね、気が合いそうだ」
「イヤ、ゴリラと気が合いたくない」
ジャッキーはデボラの腕を引っ張った。
「痛い、痛い!やめろ脳筋!」
「あんただって理屈抜きの脳筋じゃん?」
デボラは口から魂が抜けかけた。痛くて気を失いかかっているのだ。
「ジャッキー、説得中だからほどほどにしてくれる?」
「脳筋ならこのくらいで死なないでしょ?」
「しばらく、腕が使い物にならなくなるから手加減してあげて?」
「じゃあ、もうちょっと捻るか」
「痛ーい、本当に痛いんだからー」
デボラは泣き出した。
「ジャッキー…」
全員に睨まれてジャッキーも力を緩めた。
「そういう訳で、学院には厄介な人も脳筋な人もいるから、そういう人に絡まれない様にしばらく大人しく練習場での練習だけに専念しましょう。痛い目に合いたくないでしょ?」
デボラはべそをかきながら頷いた。
クライブもほっと息をついてエドウィン王子に話かけた。
「そういう訳で、彼女の事はしばらくクリスティンに付けて呪文詠唱しながら魔法工程を確認する練習に専念させます。これなら問題ないのでは?」
「そうだね。一件落着になって良かったよ」
王子と護衛が去った後、クライブ達は話しあった。
「私は2年2組のクライブ・ハワード。まあ悪い様にはしないから、殿下に目を付けられない様に大人しくしてくれ。あまり暴れられるとフォローが出来ない」
「別に暴れてないじゃない…」
「いや、もう難癖付けられる一歩手前だから」
ジャッキーから見れば迂闊に見える。
「その格闘全般は領地屈指の実力があるのが妹のジャッキー・ハワード。逃げ足も追い足も領地一だから、追われる様な事はしない様に」
「とりあえず女子相手に痛い目に合わせるのは止めて…」
「良い子にしてたらね」
「そっちの両手剣はハワード家の領地騎士の息子、エグバート・ゴールディング。そいつは普通だからケンカを売るなよ」
「私の事を何だと思ってるの!」
「怒りっぽくて喧嘩っ早い奴」
「偏見が過ぎる!差別だ!」
「特定の民族・団体を差別している訳ではないし、客観的に評価しているから問題ない筈だよ」
デボラ以外は全員が頷いた。
「酷い…いじめだ…」
クライブがクリスティンの方を見た。
「私は1年2組のクリスティン・クロフォード。ただの呪文好きな生徒よ」
「カエル好きでターコイズ好きか。ただじゃなくて変わりもんだよ」
「うん、あなたはまず憎まれ口を控えた方が敵が少なくなると思うわ」
「客観的な評価だ!」
デボラ以外は首を傾げた。
「酷い、いじめだー!」
「まあ、初対面の人への憎まれ口はもうちょっと控えた方が良いと思うぞ」
クライブが宥めた。そしてクロちゃんの方を見た。
「あー、俺は狼の皮を被った一市民だ。これは着ぐるみだから人狼とか人前で言うなよ」
「じゃ、私の事も魔女の里出身とは言わないでよ?」
「まあ人前で言いたくない事はあるからな。分かった」
クライブには確認すべき事があった。
「ちなみに、魔女の里を出たのはクリスティンの指摘の通りなのか?」
「…だから分かんないんだ。学院に行けとは言われたけど、細かい事は説明してくれないから」
「このままパーマー男爵家に入るのか?それとも里に戻るのか?」
「それも何も言ってくれないんだ…」
「まあ、とりあえずクリスティンの言う通り、呪文の工程での魔法現象をしっかり確認して無詠唱に取り入れる様にしてみてくれ」
「泉を凍らせても上手くならないらしい事は気づいていたんだ…とりあえず手がかりがないか検討するよ」
「そうしてくれ」
こうしてクライブ達の集団にちびっ子魔女が加わった。
明日から3章です。水曜までは投稿出来る筈…




