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気を取り直して…
俺たちは快晴の東京の街をぶらぶらと…
とりあえず…
「りっか。あんた、東京には来てから一年ちょっとか?」
へっ?っとこれまた話聞いてんのか?
「あー、はい。住まいもこっちに移してるんですけど、大体二年ちょいぐらい住んでるんで…美味しいラーメン屋さんなら任してください!」
…それはそそる話だが、まずは…
「ダンジョン探索者支援団体に行くぞ。あんたをダンジョン探索者にする。」
「いやいやいや、あたしノーズなんですけど。」
…知ってるよ。
「俺が手品を見せてやる。」
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こちらがダンジョン探索者のタグです。
タネも仕掛けもあります。
「なんで?…あたし、なれちゃった…えっ?あれ?なんで?」
ダンジョン探索者支援団体。渋谷支部にて、りっかはダンジョン探索者Gクラス…俺と一緒。になった。
「講習やら実技やらなんやらうざったかったよなぁ。よく耐えた!えらいぞ!」
「いや、神藤さん…あたし全然納得できてないんですが…」
「おい!やめろ、神藤さんとかマジでやめろ。りゅういちでいい。」
「いや、そっちではないんですが…龍一さん。あたしなんで探索者になれたんでしょうか?」
「そりゃぁこれから東京観光に行くからだな?」
「ちょっと待ってください。追いつきません…あたしこの人の許嫁だったんですね…絶対手綱握れてませんよ。」
…まぁまぁ。
「だーかーらー。りっか!俺は東京初めてなんだ!だーかーらー。東京タワー!行こうぜ!はやく!」
…なぜか、りっかの顔から血の気が引いていく…
「あの、龍一さん?東京タワーって。あの東京タワーですよね?」
…おおよ!他に東京タワーがあるなら教えてくれよ?ラーメン屋の名前じゃぁねぇぞ?
「あの…難度7ダンジョンの東京タワーで合ってますか?」
「ザッツライト!流石に名家のお嬢様は頭の作りから違うな!」
…深い深い溜息の後。
「何言ってるんですかーーー!!!あたしまだ死にたくありませんーーーーー!!」
絶叫が木霊する渋谷で俺はニヤニヤが止まらない。
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「いいか?俺の後ろをついて来い。目をつぶってようが足が震えてようが構わない。俺が全部請け負ってやる…つーか手ぇだすな。全部俺のもんだ。」
…手足が自分のものじゃないくらい震えてる…
凄まじい悪寒で背筋が凍る。本当にどうかしてる。
あたし、【ノーズ】なのに…
彼は、迷う事なく進んでく…二つ年上の。あたしの許嫁だった人。
あの後聞いたけど、あたしがやろうとしてたお仕事はなかなかやばかった…みたい。
身体を張る仕事とは聞いてた…おもちゃみたいにあつかわれるけど、お給料はとってもよかった。
けど、あたしの思ってた身体を張る意味が違ってて、間違っても出来なかった…龍一さんのとこに迷い込んで、命拾いした。
そして、今も…
「ヒャッホーイ!はじめましてぇ!さよぉならぁ!」
ほとんど反射に近い反応速度で魔物を狩っていく。
それも楽しそうに。
あたしじゃぁ絶対に生きて帰れない異界の地。
魔物犇めく混沌なるダンジョン内部。
それを朝の散歩で出くわした蟻を踏むように…道端の石ころを蹴飛ばすように…
簡単に、無造作に、無秩序に、なんともなしに、退けていく…
はてさて、楽しい時間はあっという間とは彼の言。
「やってまいりました。メインディッシュ!りっか!とりあえずお前は一発だけな?あとは…俺が全部もらう!」
…いやいや、ダンジョンの最奥。最深部。ダンジョンのボスが座すところのフロアであたしは唖然と立ち尽くす…
「なんだぁ?びびんなびびんな!?俺がいる。お前にもこの楽しさをちょびっとだけ。ほんの少しだけ、お裾分けだよ!」
この人が何を言っているかわからない…けど、あたしにも。
「あたしにも、で…できるかな?」
…あぁ?と、さも当たり前だと言わんばかり。
「できるさ。出来なけりゃ出来るまでやるだけだ!大丈夫。お前には俺がついてるし、全部やれってわけじゃねぇ。つーか、残りは全部俺のだっつったろ?」
ははっ…笑いしか出てこない。
出鱈目で、破天荒で、人の話を1ミリも聞かないこの人は…まったく。
「やってやりますよ!見ててくださいよ!今までの鬱憤全部!発散してやるんだから!」
なんだろ。馬鹿らしくなっちゃった…振り回されてるんだけど、なんだか心地いい。
明け透けなく。全部でぶつかってくる彼の事…なんだかもっと、知りたいかなぁ…
「はてさて、お待ちかねのメインディッシュ!ダンジョンボスはだぁれだ?」
彼の嬉しそうな声を後押しに。あたしは駆ける…
そして全力の右ストレートを振りかぶって…
…盛大に転んで。よろけて、躓いて、唖然とする龍一さんとダンジョンボスをよそに…
あたしの握りしめた右拳が左頬に突き刺さる…
ダンジョンボスの左頬…こんなのでダメージなんか…と思った矢先。
きりもみ回転しながら相手が、ダンジョンフロアの壁に突き刺さる。
なんの変哲もない。ただの右ストレートとも言えないテレフォンパンチが、光の粒子になって消えゆくダンジョンボスの末路が、あたしの力の一端を見せつけた…
「ははっ…あのーなんかやっつけちゃいまし…た?」
のおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
と龍一さんの絶叫にあたしの声はかき消された。
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いやはや…これほどとはな…
俺は彼女の異常性を改めて見る。
百聞は一見にしかずとはまさにこのこと。
ホテルのチェックアウトまでの暇つぶしに俺は彼女に腕相撲を申し出た。
それは彼女の吐露した発言の確認。
「力持ち過ぎて男の子達からハブられた」
これはいったいどういう事か。仮にもノーズは身体能力に関して言えば、能力値は高いはず。
にもかかわらず、そんな事。…と考えるよりもまずは確認。
そして、結果は。
「ありえねぇ…」
異能解放。五割で勝てた。いや…俺が使ったの指三本だけだったけども。…いやいやおかしいって。
…だっておれ指三本で難度5のダンジョンボス倒せるんだもん。同じく解放五割で…
こいつもしかして、化け物なんじゃねぇか…って事で今に至る。
…なんか泣きそうな顔でこっち見てるし…まぁ絶叫したのは俺も大人げなかったが、…しかし、おれの獲物が。




