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はぐれ魔女と平凡無才の魔剣使い  作者: 阿木津 秋水
はぐれ魔女としがない使用人
8/67

進歩

 屋敷に戻ると扉の前で執事長が待っていた。


「……遅かったじゃないか」

「いやー、あの子がなかなか帰らせてくれなくて……」


 苦笑いをしながら言い訳がましく答えると、執事長は溜息をついた。


「お前はあの娘と親しいようだが、それをよく思わない輩も多い。忘れるな」

「分かってますよ、でもどのみち俺が世話係しなきゃいけないんですし、険悪な雰囲気でいるよりか親しい方がよくないですかね?」


 そう返すと執事長はまた渋い顔をして、眉間に皺を寄せる。


「……ならばその時にあの娘を守れるように備えておけ。構えろ」

「みんなくだらないまやかしを信じ過ぎなんですよ、魔女なんてそんな大仰なもの、いるわけないじゃないですか。」

「……お前ほど気楽に生きられたなら……いや、それはないか……」


 執事長の意味深な呟きに首を傾げていると、その僅かな隙を見逃さず、執事長は踏み込み、一気にこちらとの距離を詰めて来た。


「っつぅ‼︎……危ねぇ……ふぅ……」

「ボサッとしている暇はないぞ?」


 休む間も無く追撃は続く。繰り出される一撃一つ一つを受け流すので手一杯だった。

 執事長の立ち回りや剣術の一挙一動は洗練されており、過去にそういった集団に属していたのではないかと囁かれるものだった。


「受け流すばかりでは相手を倒せんぞ? それとも年寄り相手に怖気付いたか?」

「執事長ってぇ‼︎……稽古の時はっ‼︎……いつもよりよく喋りますよねぇ⁉︎」


 三連続で繰り出された斬撃の三段目を剣の腹で受け、そのまま横へ受け流しながら前へ踏み出し、剣を振り上げる。


「何回も見て来たんだ……突破口くらい考えてまーー嘘だろ……」

「今までのが基礎中の基礎の可能性は思いつかなかったか?」


 振り上げた剣は空を切るどころか、振り上げられてすらいなかった。

 振り上げようとした右腕の肘を空いた方の手で抑え込まれていた。


「教えているのは確かに剣術だ、だが剣振り回す事に囚われるな」

「……いやー……そうは言ってもこれはずるくないですかね?」

「実際の戦いで同じ事が言えるのか?」

「いや……それは流石に無理があるんじゃ……」


 苦笑いしながらそう返すと、執事長は僅かに口元を緩ませ、笑みをこぼした。


「……随分時間が掛かったが、昔よりは強くなったな」

「そりゃあ、俺は取り立てて目立つ取り柄も特に無い、平凡無才な使用人ですけど、やる時はやりますよ」

「一丁前な口を叩くのは私を負かしてからにしろ、お前はまだひよっこなんだ、その事を忘れるな」


 へいへい、と渋々答えるも、執事長が俺に対して笑みをこぼす事は珍しかった。

 俺自身が出来の悪い事もあって執事長に渋い顔をさせる事が多かった。だからこそ、執事長が笑みを浮かべるのを見る事は喜ばしい事であった。


「……何がおかしい?」

「いや、執事長がそんな風に笑うのが珍しいな〜って、ただそれだけですよ」

「主にお前の事で頭を抱えさせられてるんだがな……」

「善処します、出来が悪くてすいません」


 執事長は俺の返答が不服だったのか、違う、と置いてから再び口を開いた。


「お前のその行き過ぎた謙遜の事だ」

「俺そんなに酷いですかね?」

「行き過ぎた謙遜は敵を作る。お前はお前自身が思っているほど無能ではない、あまり自分を卑下するな」

「勿体なきお言葉です、執事長」


 そう茶化すように答え、小さく笑う。執事長が珍しく俺の事を評価していたのだ。今は素直にその評価を受け取ろうと思った。

 

「続きは明日にしよう。明日からは今までとは違う立ち回りを教えよう」

「ここに来るまでがやたら長かったですねぇ……」

「それはこっちの台詞だ、仕事に戻るぞ」

「あっ、はーい」


 少し間の抜けた返事を返し、屋敷の扉を開いた。

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