ささやかなひととき
長い長い沈黙がこの場を包み込み、心なしか、彼女の頰から伝わる体温も少し下がっているように感じた。
「……ぷっ……くくっ……あははは‼︎ もーライルってばいつもそうやって茶化すんだから〜!」
「……あぶねー……マジで言葉誤ったと思ったわ。」
「でも期待させておいてそれはないよね。」
彼女の目は笑っていなかった。時折彼女の見せるこういった面は彼女が本当に魔女のような人とはかけ離れた存在なのではないかと錯覚させる。
「ごめん、悪かった。本当に悪かった」
「いいよ、もう……別に期待してないから。それに私はーー」
「おっと、そこから先を言うのはタブーだぜ?」
物憂げな顔で彼女が言おうとした言葉を遮るように、俺は言葉を重ねた。
「……でも……。」
「仮に、仮にお前が魔女だったとしても、お前が村に何か悪さしたか?」
「それは……してない……けど……。」
「だったらわざわざそんな事で気に病む必要ないだろ?」
「……それはまぁ、そうかもしれないけど……。」
俯く彼女の視線の先に、持って来たベーコンエッグのサンドを差し出す。
「まあとりあえずこれでも食べろよ。昼まだ食べてないだろ?」
「え? あぁ、うん。ありがとう」
ユリアは差し出したサンドを受け取るとそれを両手で持ち、その小さな口でモソモソと食べ始めた。
その様はまるで栗鼠などの小動物のそれと似ていた。
「……私の顔に何か付いてた?」
「ん? あー、なんか栗鼠みたいで可愛いなーって」
「もう、からかわないでよ〜」
ユリアは顔を赤くして不満そうに頬を膨らませた。彼女のそういった仕草を眺めていると、境遇や時代さえ違えば貴族達の目にも留まっただろう。
そうある事が彼女にとって幸せなのかは俺の口からは断言できないが、少なくとも今よりはずっと裕福で辛い思いをしない暮らしが出来たはずだ。
バッグからサンドを一つ摘まみ取り、齧りながらそんな事を考えていると、不意にまた頬を触られた。
「……ライル、また怖い顔してるよ」
「え? あぁ、悪い悪い、らしくもなかったな、ははっ」
取り繕うように笑みを浮かべるも、苦笑いのようにしかならず、ユリアの顔は不安げなままだった。
「気にすんなって、ほらよ、もう一個食っとけ」
「……⁉︎」
苦し紛れにバッグに入っていたサンドをユリアの口元に押し付ける。
ユリアはきょとんとした顔でサンドを咥えていたが、俺の頬から手を離し、サンドを摘んだ。
「もう、子供扱いしないでよ」
「怒るなって、いつも通りだろ? 妙な心配するなって」
「いつもそうやって適当にはぐらかすんだから」
ようやくいつものペースを取り戻し、息をついていると、ユリアは何かを思い出したように声を上げた。
「あ、そうだ、今日の夜っていつもより長めにここに居てくれる?」
「別に構わないけど、どうした? 夜一人が寂しくなったか?」
「別にそんなのじゃないよ、ちょっと見せたいものがあるの」
そう答えたユリアの顔にはどこか自信に満ち溢れていた。
いつもはにかんでいるかきょとんとした表情の多いユリアがここまで自信ありげな顔をしているのだから、少しは期待してもいいのかもしれない。
「わかった、今日の夜だな? 少しは美味そうなもの持ってきてやるよ」
「ありがと、楽しみにしてるね」
広げてあった荷物をまとめ、立ち上がり、服の裾に付いた砂を払う。
その後ユリアが立ち上がれるように手を差し伸べ、引き上げる。
「それじゃ、そろそろ戻るわ」
「うん、屋敷のお仕事頑張ってね」
「ほいほい」
そう返して踵を返し、ユリアとの時間の余韻に浸りながら屋敷への道を歩いた。




