魔女の現実
屋敷を出てすぐ脇の細い道へ向かうと、木々の木漏れ日が小道を照らしていた。微かに聴こえる小鳥の囀りが心地良い。
少し視点を足元へ移すと、獣のものではない、人の、それも子供のものであろう小さな足跡がいくつもあった。
「……うーん?これは……あーのガキ共あそこには行くなって言ったってのによぉ……。」
嫌な予感を胸に感じながら、目的の場所まで向かう。
「……勘弁してくれよな……。」
目的の場所の近くまで来ると、子供達の声が聴こえてきた。それは子供達がはしゃいでいる、というよりも、罵声や罵りのそれであった。
そして彼らの向いているその先に、白い髪の少女が困った顔をして立ち尽くしていた。
「やーい‼︎魔女なんかどっか言っちまえ‼︎」
「……違うの、私は……。」
「この人でなし‼︎」
「お願い、やめて……。」
「化け物‼︎」
「危ないから、やめて……。」
彼らはそこまで深い意味をもって言っているのではないだろう。どうせ村の大人達を見てそうしているだけなのだろう、だからこそ、見過ごせるものではなかった。
「これでもくらえ‼︎」
「きゃっ!」
子供達の投げつけた石が少女の頭にぶつかった。少女は頭を押さえ、その場に膝をついて座り込んだ。
「やーい!ざまあみろ!」
「ざまあみろじゃねえよ馬鹿野郎‼︎お前ら何やってんだ‼︎」
「うぇっ⁉︎ライル兄⁉︎」
これ以上は見過ごせなかった。沸き上がる怒りを鎮め、いつものように続ける。
「あのなぁ?石投げつけられたら怖いだろ?ついでに当たったら超痛いだろ?」
「……うん。」
「それを自分がされたら嫌だろ?悲しいだろ?」
「……でも、あれは魔女だから……。」
「バーカ魔女だろうが人だろうがんなもん関係ねーよ。それにあいつが本当に魔女だったらお前ら今頃でかい釜に放り込まれてとっくに食われちまってるぞ?」
そう言うと、子供達はしゅんとした表情になり、先程のような反発感は感じられなかった。
「わかったか? 俺があいつの面倒見る仕事してるんだ、お前らは関わる必要ないんだからな? ここには近寄るなよ?」
「……うん。」
「わかったなら早く行った行った、バレたらおっさん達に怒られるぞ?」
「はーい……」
子供達は弱々しく返事をすると、蜘蛛の子を散らすように駆け足で去って行った。
子供達が去るのを見届けた後、再び前を向くと、相変わらず少女が頭を押さえて座り込んでいた。
「……。」
「あはは……嫌だなぁ……かっこ悪いところ見られちゃった……。」
「かっこ悪いも何もあるかよ、何で怒らないんだよ。」
「……だって、あの子達は悪くないもの。」
「……。」
少女の元へ駆け寄り、頭を押さえるその手をそっとどけると、額から血が流れていた。
「……血も出てるじゃねえかよ。」
「あはは……当たりどころが悪かったかな……?」
「あのなぁ……。」
呆れて溜息をつき、鞄から取り出した布を少女の額に当て、彼女の後頭部辺りで結び、出血を抑える。
「……平気か? 他に痛むところとかないか?」
「大丈夫だよ、これくらいもう慣れちゃったから。」
額から流れる血を布で抑えながら、彼女は苦笑いをした。
「こんなことに慣れたなんて言わないでくれよ。」
「だって本当のことだもの。」
今の額の傷だけではない、彼女の体の至る所にこれまで村の人間達から虐げられ、できた傷があった。その傷を見る度に、何もしてやれない虚しさや不甲斐なさ、悔しさがこみ上げて来る。
「…ごめんな、大した事してやれなくて」
「どうしてライルが謝るの?」
彼女は不思議そうな顔をして続ける
「ライルは私なんかの事を気にして声掛けてくれたり、他にも色々私によくしてくれるのに、どうしてライルが謝るの?」
「…いや、何ていうか、どうしてもあいつら側からって接し方になっちゃうからさ…こう、申し訳なくなるんだよ。」
そう言い、少し物憂げに俯きかけたところを、彼女の手が阻んだ。
「……ユリア?」
「……そんな顔しないで? 私は平気だから、ライルがいてくれるから、私は一人じゃないから、だから、私は平気だよ。」
俺の頰にそっと触れ、ユリアは柔らかくはにかんだ。
「……わかったよ、これ以上はとやかく言わねえよ。」
そう答え、ユリアの頬に触れる。掌に彼女の柔らかな肌の感触と、ほんのりと紅く染まった頬の温もりが伝わってきた。
「……なぁ、ユリア。」
「なぁに?」
息を吸い、意を決して、俺は次の言葉を放った。
「……なあ、腹減ってないか?」




