中継都市1
「それはそうと、どうやって街まで移動するんだよ?荷車引いてた馬はあんたのお仲間さんのおかげで死んじまってんだぞ?」
「そこに駿馬がいるだろ?」
「いや、確かにいるだろうけどよ……」
困惑している俺を尻目に、クルトは馬を荷車に繋ぎ、荷車に乗り込んだ。
「ほら、青年。 馭者を務めてくれよ」
「……はいはい」
溜息をつきながら荷車に乗り込み、手綱を握り、馬を走らせる。
「走らせたのはいいけどよ、残りの馬どうするつもりなんだよ? 置いてきちまったぞ?」
「あー、気にすんな、勝手についてくるから」
「そうなの?」
「いや、まあ確かに帰って来られるかもしれないけどさ……」
確かに、馬には帰巣本能というものがあり、放置されていてもある程度は自分が元いた場所まで帰ってくることができる。
「戦場じゃよくある事だぜ? 馬が乗り手を失って帰ってくる事なんてさ」
「そうは言われても、俺たちは戦場を知らないし、いまいち実感が湧かねえよ」
「じゃあ聞くか? ここにいるのは幾つも戦場駆け抜けたエキスパートだぜ?」
「別にいいよ、無理に知るようなことでもないし」
「私はちょっと気になるかな、知らない事ばっかりだもの」
俺とは違い、ユリアは興味ありげにそう言うと、俺の服の裾を引っ張った。
「……別に構わないけどよ、あまり変な話はやめてくれよ?」
「安心しろ、俺はあった事しか話さねえからな」
そう言ってクルトはまるでお伽話でも話すかのように自身の武勇伝や戦場で起こった様々な事を語り出した。
「ーーーでな、そいつが斧を振りかぶって俺の目の前まで来たんだわ」
「うんうん」
「で、引き金引いたんだけど弾切れてて俺絶体絶命だ」
「どうやって勝ったの?」
「そこで、俺の早撃ちの腕が輝くのさ」
そう言ってクルトは腰のホルスターからピストルを引き抜き、蓮根型の弾倉を弾くように回した。
「盛り上がってるところ悪いんだが、もうすぐ到着だぜ」
やれ戦場で何度も窮地を潜り抜けてきただの、強敵を倒しただの、そんな話を彼がしている間に、目の前には石造りの大きな門が見えて来た。
「お、お勤めご苦労、やーっと着いたなぁ」
「村と違って建物多いんだね」
「街は村と違って住む人の数も、住む人間も大分違うからな。 お前さん方外の世界は初めてか?」
「初めてじゃないように見えるか?」
振り返り、嫌味らしくそう答えると、彼は肩を竦めて両手の手のひらを上に向けた。
「いやぁ〜とてもそうには」
「じゃあそんな野暮ったい事わざわざ聞くなよ」
「おっふ、お嬢さんお抱えの馭者さんは随分気が荒いねぇ……」
「気が荒い訳じゃねえよ、あんた達はどうせいつもこんなやり取りしてるんだろ? それに合わせてるだけだっての」
気怠げにそう返し、溜息をつくと、クルトはニタニタと笑みを浮かべ、口角を吊り上げた。
「へぇ、上等じゃねえの。 たっぷり煽ってやるから覚悟しときな、青年」
『よかったな、仲間が増えるぞ』
「……二人もそんな奴いなくていいよ……」
新しく俺を煽る存在が増えた事に肩を落とし、項垂れながら門番に見送られ、街へと入っていった。
「さぁて、ここが中継都市ファルデンだ。 んで、俺の浮遊船はあれだ」
そう言ってクルトが指差した遥か先には、燻銀の船体に横から突き出た鰭のようにも見える翼、浮遊船のその形状は、どこか魚のようにも見え、今まで船を見たことがある人間にとっては、恐らく異様なものに見えることだろう。
「あれが船なのか?」
「なんか、少し魚っぽいね」
「よく言われるよ、それもバカにしたみたいに笑いながらそんな風に言ってくるんだ」
そうぼやくように呟くと、クルトは溜息をついた。
「まあ、戦場であんなでかい魚みたいなのが空飛んでたらなぁ……」
「でもそれを言ってきた奴ら全員の頭に風穴開けてきたからな」
「おっと、こんな所で額に風穴開けられるのは勘弁だぜ?」
「安心しろよ、俺がそうして来たのは俺を敵に回した奴らだけだから」
おどけた様子で両手を挙げる俺を見て、クルトは得意げな顔をした後、指で銃の形を作り、それを俺に向けた。
「俺に殺されたくなかったら、金を積みな、傭兵ってのは金で動く。 依頼人が出す金が多けりゃ多いほどやる気出すし、多く金を出す方に俺達は味方する」
「まるで金の亡者じゃねえか」
「金は絶対に裏切らねえからな」
「昔、何かあったの?」
「おっとお嬢さんそれ以上はいけないなぁ……」
クルトはそれ以上の詮索を避けるようにユリアに手の平を向け、彼女が問おうとするのを制止した。
探られたくない過去でもあるのだろう。ユリアは時々こうゆう所で勘がいい。
人が伏せておきたい事に気付き、それについて問おうとする時がある。
俺が昔彼女に伏せておきたい事があっても、気づかれる事がよくあったが、彼女の勘は俺以外の相手にも働くらしい。
そんな事を思いながら、軽く頭を掻き、再び馬を走らせた。
「それはそうと青年」
「なんだよ」
「その魔剣、何とかならないのか?」
「その文句はあんたのその銃に言ってくれないか? どうせそれと言い争ってるお陰でさっきからこんなになってるんだろうし」
気付いてはいたが、特に気に留めることでもなかったから放置していたが、魔剣が先程からずっとガタガタと音を立てていた。
「俺にそんな事言われてもなぁ……」
「じゃあ俺にもそんな事言わないでくれよ」
「みんなもっと仲良くしようよ……」
ユリアのそんな呟きには共感せざるを得なかったが、この場にいる者達はそう簡単に分かり合えるような輩ではなかった。
ここにいる輩の大半が、相手を煽る事を好む輩なのだ、分かり合えるはずもなかった。
そんな事を考えるのにうんざりし、街並みを眺めると、活気付く人々の姿が目に映った。
市場は人で賑わい、幾つもの屋台が並び、様々な品物が並んでいた。




