興味本位
「死ぬまで退かないなら、あんたを殺す」
「お、やーっと本気出してくれたみたいだな? 俺を楽しませてくれよ」
縮地で距離を詰められ、懐に飛び込まれたのに、男は余裕げな笑みを浮かべた。
「……何がおかしいんだよ?」
「いやね? 久々に少し楽しめそうだからさぁ……」
「は? 何言ってんだよ?」
『小僧、下がれ、今すぐ下がれ、串刺しになるぞ』
魔剣がそう告げるのが早いか、俺の足元から蔦が飛び出すのが見えた。
「ッ! 危ねぇ!」
この世の物理法則を無視するように急停止し、後方へ飛び退るとすぐ、目の前を蔦が突き抜け、鼻先を掠めた。
「色んな所から蔦生やしやがって! 何なんだよ全くよぉ‼︎」
「魔弾、魔弾ミストルティン。 撃ち出された弾丸を、めり込んだ場所に蔦を生やす弾に変える拳銃。 仕組みは俺にもよく分からないんだけどな」
そう言って魔弾使いは再び銃口をこちらに向け、連続して発砲すると、連続して蔦が地面から飛び出し、こちらへ迫ってきた。
「へぇ、魔剣ってのは身体能力も上げられるのか、たまげたねぇ……」
「この野郎……スカしやがって……」
魔弾使いは悠々とした様子で、蓮根型の筒を押し出し、銃口を上に向けると、金色の小さな筒が幾つも零れ落ちるのが見えた。
「どうした? 俺に呑気に弾込めさせちまっていいのか?」
「言われなくても攻めさせてもらうよ‼︎」
魔弾使いが零れ落ちた筒と同じくらいのそれを、蓮根型の筒に詰め終わるのを待たず、地を蹴り、駆け出し、再び魔弾使いとの距離を詰めた。
「ほーう、速いねぇ……でも荒削りだ。 動きに無駄が多いし、何より単調だぜ?」
「言いたい放題言ってくれやがって‼︎」
魔弾使いが弾を込め終わる前に一撃を加え、主導権を握る。その筈だった。
しかし、そんな俺の目の前には弾丸が五つ、迫って来ていた。
「嘘だろ……このっ……‼︎」
弾丸が当たる寸前の所で体を反りながら足を滑らせ、そのまま滑り込み、弾丸を躱す。
「これで……‼︎……は……?」
滑り込み、そのまま斬り上げようと顔を上げると、魔弾使いが笑みを浮かべ、こちらに銃口を向けていた。
撃鉄は降り始め、銃口は俺の目と鼻の先にあり、避けようがなかった。
「……畜生‼︎」
撃鉄は降り、撃たれると目を瞑るも、弾丸は放たれず、カチンと軽い音を立てたそれは轟音を立てることはなかった。
「あらら、残念。 弾切れちゃった」
鼻で笑うように息を漏らし、魔弾使いは笑みを浮かべた。
「……バカにしやがって‼︎」
「そうカリカリすんなって、血気盛んなのは結構だが、それじゃすぐに死ぬぜ?」
魔剣を振るおうと腕を動かした瞬間、俺の動きを阻むように辺りから蔦が飛び出した。
「魔弾の能力の補足でな? 蔦を生やすのは、使用者の任意のタイミングで好きな時に蔦を出せる。 便利だろ?」
「……ハッ、勝ちが決まったから種明かしってか?」
「悪い悪い、そんなつもりじゃないって。 しょーもない嘘ついた上にあのお嬢さんに向かって弾撃った事は悪いと思ってるよ」
「……じゃあ何のためにわざわざそんな事を……」
「面白そうだったから」
「は?」
「だから、面白そうだったから。 だって魔剣使いがいるんだぜ? どんな奴なのかちょっと手合わせしてみたくなるだろ?」
魔弾使いのその言葉に俺は言葉を失い、全身から力が抜けていくようだった。
「……何だよ……ムキになったのがバカみたいじゃねえかよ……」
『だから言っただろ? あまりムキになるなって』
へなへなと脱力し、肩を落として項垂れる俺の元へ、ユリアが駆け寄って来た。
「ライル! 大丈夫⁉︎」
「あー……ほっといてくれ……しばらくほっといてくれ……」
「いやーお嬢さんさっきは脅すみたいに弾撃っちゃって悪かったね、ごめんごめん」
「えっと……それは別にいいんだけど……これは一体どうゆう事なの……?」
ユリアは困惑しながら首を傾げた。
「えーっと、さっきの傭兵を殺した義理立てだとかどうだのって話が全部嘘で、お嬢さんの方に弾撃ったのもそこの彼に本気出させようと思ってやった訳で、俺の興味本位でまあこうなっちゃったって訳だよ」
「……ちょっとよくわからないなぁ……」
彼女は呆れた、と言った様子で溜息をつき、俺の方を見た。
「……大丈夫? 動ける?」
「……この邪魔臭い蔦がなくなってくれればな……」
「おっと悪い悪い、今解くわ」
魔弾使いが指を鳴らすと、俺の動きを阻んでいた蔦はスルスルとほどけていき、銃弾だけが残った。
「そういえばお前さん方、旅してるみたいだったけど、行き先はどこなんだい?」
「……聖都、知り合いの旧友の所に会いに行くんだよ……」
げんなりとした様子でそう答えると、魔弾使いは手を叩き、何かを思い出したように声を上げた。
「あー! それなら俺も行き先同じだなー。 いやー奇遇だねー、こんな事あるもんなんだねぇ……」
「……何だよ」
「何ならお前さん、俺達雇わないか?」
「は?」
「だから、俺達を護衛にして聖都まで行かないかって言ってるんだよ」
「何だってわざわざそんな事を……」
「そっちにも悪い話じゃないと思うぜ? この先の街に浮遊艇を停めてあるんだけどな? そこなら寝食もそこそこ充実してるし、何より俺達傭兵が護衛をするって言うんだ。 寝れるぞ? ふかふかのベッドで」
ニヤニヤとした顔でそう誘惑する魔弾使いの様子が気に食わなかったが、寝食を保証されている。ここが余りにも魅力的だった。
ふかふかのベッドは癒しだ。疲れ切った体をベッドに放り投げ、数時間眠れば大抵の疲れは取れるし嫌な事も大体忘れられた。
それが保証されている。それがどれほど魅力的なのかはもう言うまでもないだろう。
「マジ?」
「マジマジ」
「……いや、だけど……もちろん報酬が必要なんだろ?」
「まぁ、それ相応にはな?」
「何を出せばいい?」
「うーん、じゃあ今持ってる路銀全部で」
魔弾使いの要求して来た報酬に思わず目を見開き、大声を上げてしまった。
「路銀全部だって⁉︎ 冗談じゃない‼︎ 人の足元見るのも大概にしろよ‼︎ そんな、有り金叩いてそんな……」
「今持ってる有り金全部出せばちゃんと休める環境で旅が出来るんだよね?」
「そうそう、お嬢さん物分かりがいいみたいで助かるよ」
「わかった、じゃあ路銀渡すね」
そう言って荷車から路銀の入った袋を取り出し、魔弾使いに渡そうとするユリアの腕を掴み、それを阻止した。
「……おい、正気かよ? 幾ら何でも路銀全部なんてぼったくりにも程があるだろ」
「だけど……二人だけで旅するよりも人が多い方が安心できるだろうし……ライルにもちゃんと体を休めて欲しいから……」
ユリアのそんな言葉に呆気にとられていると、彼女は魔弾使いに路銀の入った袋を渡してしまった。
「これでいいんだよね?」
「もちろん、それじゃ、この先の街に浮遊艇停めてあるから街まで行こうか」
「ちょっと待て、待てって」
「ん? どうした、青年」
「そもそもあんたは何者なんだよ?」
「あー、自己紹介がまだだったな‼︎ いやーごめんごめん、すっかり忘れてたわ。 俺はジルバ傭兵団団長、クルト・フライシュルツだ。 以後お見知りを」
魔弾使いはそう自己紹介を終え、キザったらしく一礼した。
「で、お前さん方は?」
「ライル・ベルンハルト。 ただのしがない元使用人の魔剣使いだ」
「私はユリア。 ユリア・ホーエンシュタイン。……その、えっと……はぐれ魔女だよ」
「こりゃ驚いた、魔剣使いに魔女なんて随分豪華な面々じゃねえの」
大して驚く様子もなくクルトはそう言って手を叩いた。
「んじゃ、街に戻ろうぜ? こんな所でいつまでも立ち話してるのもアレだしな」
「……おう」
「そうだね!」
揚々とした様子のユリアとは裏腹に、この先に待つであろう事を考えると、暗澹たる気分になった。
旅が始まってものの数日、ものの数日で、俺達は有り金を全て失った。




