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はぐれ魔女と平凡無才の魔剣使い  作者: 阿木津 秋水
はぐれ魔女としがない使用人
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やること

 宿に戻り、足早に部屋へ向かい、半ば押し込むようにユリアを部屋に入れ、扉を閉めた。


「……あー……なんだ、無駄に疲れた……」

「うう……」


 部屋に戻っても尚、ユリアは顔を隠したままで、ベッドに座り込んでいた。


「おーい、ユリアさーん、そろそろ宿出たいんだけど……」

「うう……」

「頭抱えるのは結構なんだけどさ、村を出てからにしような?」


 座り込んだままのユリアに宿を出る支度をするよう促し、自分の荷物をまとめる作業に戻った。


 それからしばらくすると、唐突にユリアが口を開いた。


「……ねえ、ライル」

「ん? どうした?」

「さっき会った男の子に何を言ったの?」

「あー、アッシュの事か。 アレだよ、上手な世間の渡り方」

「……本当は?」

「自分を守る為の嘘のつき方。 あと俺達は悪い奴らだから次会った時はちゃんと俺達を悪者呼ばわりしろよ? って教え込んでた」


 すると彼女は顔を曇らせ、不満げな声を漏らした。


「別にライルは悪者じゃないのに、どうしてそんな事言う必要があったの?」

「いや、世間の風潮だよ。 やってる事が、じゃないさ。 世間体じゃ魔女も魔剣使いも所謂悪者扱いされてるんだ。 そんな奴らを悪者じゃない、なんて言えば言った奴まで叩かれちまうだろ?」

「それは確かにそうかもしれないけれど……」

「だからだよ、あいつは多分聡い奴だから、周りの言う事がおかしいって思ったんだろうさ、だから本心を伏せて、表を誤魔化すための嘘のつき方を教えたんだ」


 そう説明するも、彼女は依然として不服そうな顔のままだった。


「いくら今の風潮がそうだとしても、嘘をつくのが正しいとは思えないよ」

「もちろん正しいなんて思っちゃいないさ。 人間真っ直ぐに生きていられるならそれに越した事は無いに決まってる。 俺だってできるんだったらそうあるべきだと思ってるさ」

「だったらどうして……」

「だから言っただろ? それが今の風潮にそぐわないものだったらどうなる?」

「それは……」


 ようやく理解したのか、彼女は口を噤んだ。


「でも、やっぱりおかしいよ。 悪くない人が悪く言われるのに、それが正しいなんて」

「仕方ないだろ、大勢が正しいって言ったらそれは正しーーー」

「じゃあ変えようよ! 魔女もライル達みたいな人達も、みんながみんな悪者じゃないんだって、みんなに分かってもらえるように!」


 そう言い放つ彼女の姿は、どこか眩しくさえ思え、いつの間にか、何処かに置いてきてしまった何かを思い出したような気がした。


「……そうだな。 聖都に着いた後、やること決まったな」

「うん! 大変かもしれないけれど、一緒に頑張ろ?」

「……全く、気が遠くなりそうだけど……仕方ねえな……お前がやるんだったら、付き合ってやるよ」


 そう言い切ると同時に鞄を閉じ、立ち上がる。


「で、準備できた?」

「えっ?」

「えっ?」


 彼女は思い出したように足元に目を落とし、わたわたと鞄に荷物を詰め始めた。


「……今度は手を動かしながら話そうな……」

「うう……うえええ〜ん‼︎」


 そんな声を上げながら、ユリアは手当たり次第に荷物を鞄に詰め込んでいた。


『……あれが世界を変えるって言った奴の姿か……』

「言ってやるな、可哀想だろ」


 そんな事を呟きながら、彼女の支度が終わるのを待った。


「よーし! 準備終わり!」

「おー、お疲れ様。 それじゃ出るか」


 荷物を両手に持ち、部屋を開け、カウンターへ向かった。


「やっぱり今日で出発したいんだけど、精算お願いしてもいいかな?」

「お代なんていらないよ、早く出て行きな!」

「あ、あぁ……悪いな……」


 宿の主は、最初宿を借りた時とはまるで別人のようにそう怒鳴ってきた。

 恐らくこうなる事も予想はできていた。だからこそ、物悲しくもあったし、ユリアの願いが叶うべきなのだろうとも思った。

 一度床に置いた荷物を持ち直し、足早に宿を後にした。


「……なんか、嫌だね……」

「それを変えるために、これから旅に出るんだろう?」

「……うん……うん、そうだね……頑張ろう!」


 彼女は自分に言い聞かせるようにそう呟き、荷車に荷物を積み込んだ。


「……さてと、早いとこ出発させてもらうかな」


 そう呟き、手綱を取り、馬を走らせ、村の出口へ向かった。

 途中すれ違った農民たちは皆、俺達を見て口々に何かを呟いていた。悪い内容なのは言うまでもないのだろう。

 こんな事をいちいち気にしても仕方ない。


「まあしばらくは、こんな扱いなんだろうな」

『オレを手にしたのはお前の意志だろ?』

「別に俺は気にしちゃいねえよ、あーだこーだ言われるのは慣れてるからな」

『んじゃあ何だよ?』

「気掛かりなのはあいつの事だよ」


 そう言って荷車の後ろに座り、もの悲しげに流れていく風景を眺めるユリアの方を見た。


『嬢ちゃんか?』

「……あいつはあまり人目に、人の悪意に慣れてねえ……だから少し心配何だよ……」

『そうか? お前が思ってるよりあの嬢ちゃんは強かだぜ?』

「そうか?」

『少し過保護なんじゃねえのか?』


 魔剣のその言葉に思わず返す言葉に詰まった。


『過保護なあまりオレを引き抜いたしなぁ?』

「使わなきゃ俺も死んでたんだから仕方ねえだろ……」


 申し訳程度に言い返すも、心の中で過保護という言葉が渦巻いていた。

 確かに、屋敷にいた頃から彼女の世話は除け者の俺が任されてきた事もあり、彼女といた時間が長かったからこそ、彼女の身を案じるばかりに、過保護な言動も多かったかもしれない。

 だがこの旅に於いて、いや、これから先も、俺が彼女を守る事に変わりはないだろう。

 それこそ、俺の存在が不要になる時が来るならば、それは例外になるのだろうが。


「過保護だろうが何だろうが好きに言え、そうだろうがそうじゃなかろうが俺のやる事なんて変わらねえんだからよ」

『そうかい、まあせいぜい頑張りな。 頑張らないと死んじまうけどな?』


 魔剣の挑発を聞き流し、村の門の前で止まり、門番に話しかける。


「あー、もう村を出たいんだけど、通してもらってもいいかな?」

「お前達は……」


 そう言いかけた門番の顔には見覚えがあった。


「あんた……確か傭兵にのされてた……自警団……?」

「のされてて悪かったな、傭兵を退けた事には感謝しているが、礼は言わん」

「結構結構。 別にそんなもん聞きたくてやった訳じゃないしな」

「なら早く行け、俺達は拒絶はできても受容はできん」

「それがお互いの為ってやつだしな。 世話になったぜ」

「もう来るなよ。 異端供」


 直接助けられた事もあったからなのか、宿の主の時とは違い、門番のその声音に棘はなかった。


「これから先、またしばらく野営しないとかなぁ……早く聖都に着くといいんだけど……」

「折角旅するんだし、少しくらい楽しもうよ!」

「そうだな、願わくば、この口やかましい魔剣を使う回数が少なく済むことを願うか……」


 そう言いながら息を吐き、馬に鞭を打ち、荷車の速度を上げた。


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