駄々っ子ユリア
『ハッ、カッコつけやがって。 あんなもんただの嘘つきの戯言じゃねえか』
「そうだよ、戯言さ。 でも事実だ」
『小さいうちからそんな汚ねえ大人の現実突きつけてんじゃねえよ。 鬼かお前は』
「それ、お前が言う?」
魔剣にもっともなツッコミを入れ、そんなやり取りをしているが、農民達は自分の仕事が忙しいらしく、側から見れば独り言をぼやく頭のおかしな奴同然の俺の様子を気にも留めてすらいなかった。
「つーか魔剣よ、お前ユリアの魔力辿ったりって出来ないのか?」
『出来なくもないが……お前に魔術の適性があったらなぁ〜? クハハハハハハハハハ‼︎』
人の気にしている事をいちいち気に触る言い方で煽る魔剣に正直うんざりしていたが、ぐっと堪え、聞き流した。
「はいはい、俺は魔術なんて使えませんよーだ。 で? 他に何か使えそうな手段ないのかよ?」
『お前さぁ、自分の力で探そうとかそうゆう風には思わない訳?』
「もし俺個人の力でダメだった時の事を言ってんだよ。 あれもこれもダメだった時に何も打つ手なしって状況は作りたくねえんだよ」
『へぇ、お前口は生意気なくせにやる事は慎重だよな』
「慎重で何が悪い? 俺は不用意に死ぬのが嫌なんだよ」
そう言い返し、道なりに歩き続けると、村のはずれにある川に辿り着いた。
「川だ」
『川だな』
川縁まで近付き、川の先を眺めていると、ユリアが川縁に座り込み、石を投げ込んでいるのが見えた。
「……普通に見つかったな、おい……」
そんな事をぼやきながらユリアの元まで歩いていくと、ユリアは何かをぶつぶつと呟きながら石を投げ込んでいた。
「……にぶちん……とーへんぼく……ばーか……」
頰を膨れさせ、不満げに石を投げ込む姿に何とも言えない気分になりつつも、声を掛けた。
「あー……えっとー……ユリアさん?」
「わ、ライルいつの間に……」
投げかけた石を置き、ユリアはムスッとした顔をしてそっぽを向いた。
ユリアは昔から、時たまこうして理由もよく分からずに拗ねる事があった。
そんな時の彼女を宥める為にやっていた事は、今も昔も変わらなかった。
「……えっと、お前が何に怒ってんのか俺にはよく分からないけどさ、とりあえず俺がお前を怒らせちまったみたいだし、謝るよ。 ごめん」
「……何に怒ってるのか分かってないくせに謝られても……そんな事されても嬉しくないもん……」
片膝をついて彼女の頭をそっと撫でると、彼女は涙目になって膝を抱え、不満げにそう答えるも、その声音に棘はなかった。
『やれやれ……唐変木なんだかたらしなんだか……』
「何の事だよ?」
『いや……分かってねえなら俺は何も言わねえよ……』
魔剣はまるで愛想を尽かした、と言わんばかりの様子でそう呟き、ガチャガチャと揺れた後、大人しくなった。
「ちょっと先を急がなきゃならなくなってさ、今日のうちにでも村を出たいんだ。 来てくれるな?」
「やだ、ライル一人で行けばいいでしょ」
「……駄々こねないでくれよ……」
ユリアは依然として不機嫌なままで、こちらの顔を一度見た後、再びそっぽを向いてしまった。
こうなると俺にはもう手のつけようがなかった。
「分かった、じゃあ俺一人で此処を出るから、帰って来るまで待っててくれな」
「……え? 待って、待ってってば‼︎ 置いてかないでよ〜‼︎」
立ち上がり、彼女を置いて川を後にしようとするとすぐ、ユリアは俺の服の裾を掴み、涙目でこちらを見上げた。
「行きたくないんだろ? だから俺一人で用を済ませに行くんだよ」
「それは……えっと、違うから……違うから‼︎」
「まいいや、とりあえず行って来るからこの村で大人しくしててな」
「待って! 待ってよ!」
服の裾を掴むユリアの手を払い、そのまま歩き出すと、彼女はすぐに俺の後を追い、再び俺の服の裾を掴んで引き留めようとした。
「お前が行きたくないって言うんだから無理には連れて行けないし、ここで大人しく待っててくれよ」
「やだ! 行くから! ついて行くから……」
俺の服の裾を掴んだままそう言いかけ、彼女は口を噤んだ。
「ついて行くから……?」
「……いじわるしないで……」
涙目に上目遣いでそんな顔をされて、服の裾を掴まれて足を止めない男がいるのだろうか。
そんな事を思いながら、彼女の頭に手を乗せ、小さく笑みを浮かべた。
「冗談だよ、そんな顔すんなって」
「…………ルの…………バカ……」
「……え?」
「ライルのバカー‼︎ ほんとに置いてかれると思ったじゃん‼︎」
「いや、急に不機嫌になられてどっか行ったと思って探しに来れば行きたくないって言われて駄々こねられた俺は一体……」
「う……それは……」
ユリアは俯き、指と指を合わせて口籠もった。
『……お前嬢ちゃん相手でも容赦ねえな……』
「……何が?」
『……いや、何でもねえや……』
魔剣のその声音には、どこか引いているような含みがあった。
何に引いているのかは知らないが、彼女が駄々をこね、中々機嫌を直してくれない時、俺はいつもこうしていた。
正しくは機嫌を取り直す、というよりも、駄々をこねる子供を無理矢理その場から連れて行くそれに似ているような気がした。
「で、早いうちに村を出たいんだけど、いいかな?」
「……うっ……ぐすっ……分かったよ……うぅ……」
泣きそうな、というか半分泣いている彼女を見ていると、少しばかりやり過ぎたような気分になり、どこか申し訳ない気持ちが込み上げてきた。
「悪かったよ、流石にやり過ぎた」
「……いいよ、別に……私も悪かったし……ずずっ……」
涙を拭い、鼻をすすった後、顔を横にふるふると振った後、ようやくいつもの調子なユリアが戻って来た。
「うん、もう大丈夫! ごめんね、駄々こねちゃって」
「気にすんな、もう慣れてるから」
「もう! 私だってそんな年中駄々こねてなんかないもん!」
「はははは‼︎ そりゃいいな、そしたら俺も少しは気が楽になるぜ」
そんな談笑をしながら、川を後にし、宿までの帰り道を歩いた。




