悪い奴
宿を出ると、太陽は真上に昇っており、今が昼時である事を示していた。
辺りを見回すと、農民達の多くは農作業を行なっており、ここが農業村である事を改めて認識した。
「さてと……ユリアを探さないとな……」
農民達は慌ただしげに働いており、声を掛けるのが憚られた。第一大人達は食い扶持を稼ぐのに忙しくて余所者なんて見かけた所で気にも留めないだろう。
そんな時、人探しをしようという時に頼れる存在は限られていた。
「なあ、君達白い髪したお姉ちゃん見なかったか?」
「あ、おじさん魔剣持ってる危ない人だろ? それにそのお姉ちゃんて魔女のことだろ?」
「いやおじさんじゃないから、お・に・い・さ・んだから!」
「俺達から見たらおじさんだよ」
「いや、それは確かにそうかもしれないけどさ……」
「やっぱりおじさんじゃん!」
俺の問い掛けに生意気にもそう返して来たのは、齢は、十くらいの赤毛の少年だった。
「だからさぁ……いや、もういいや。 で、見かけなかった?」
「この村に髪の白いお姉さんなんていないぞ!」
「いや、この村の人じゃなくて俺の連れの事だよ……」
「そんな人知らないぞ! 昨日母ちゃんが言ってたもん、魔女には関わっちゃダメだって」
少年はユリアの行方を教えてくれそうになかった。
「そうか、そうだな、魔女に近付いたら釜に入れられて食べられちまうしな。 悪かったよ、そんなおっかない人見かけても近づかないよな、悪い悪い、他を当たるよ」
「そ、そんなにおっかない人だったの……?」
「そう見えた?」
「いいや、そんなおっかない人ってより優しそうなお姉ちゃんに見えた。 でも何か怒ってた」
「怒ってたのかぁ……そうだよなぁ……」
『ブッ‼︎ クハハハハハ‼︎』
黙れクソ魔剣、と言いそうなのを堪え、苦笑いをして話を続けた。
「お、さてはどこに行ったか知ってるんだな?」
「し、知らないぞ! 魔女がどこにいるかなんて俺たちは知らないぞ!……でも、優しそうなお姉ちゃんのいる場所なら……知ってる……」
「よーし、それじゃあ教えてもらおうか」
「えっと……村の外れの方に行ったの見たよ、そこから先はわかんない」
「十分十分、ありがとな」
子供達に礼を告げ、ユリアの後を追おうと踵を返した時、俺をおじさん呼ばわりした赤毛の少年に呼び止められた。
「なぁ、みんながおじさん達を悪い奴だって言うけど、ほんとにおじさん達悪い奴なのか?」
悪い奴じゃない、そう言いたい気持ちを抑え、言葉を選び、紡ぎ出す。
「だぁーからおじさんじゃなくてお兄さん! そうだぜ、俺達は悪い奴だ。 だから今度あまり生意気な事言うと斬っちまうぞ?」
「でも、そんな風に見えないよ、なんか、みんなが言ってる事、変だよ」
恐らく、この少年も所謂除け者寄りの立場にいるのだろう。でなければ周りの言う事にそんな疑問など抱く筈がない。
「そうだな、確かに、みんなの言ってる事が変に思う時もあるかもしれない。 でもそんな事、こんな場所で言っちゃダメだぜ? いいか、例え間違ってる事だとしても、嘘だとしても、みんなが信じちまえばそれは本当の事になる、正しい事になっちまうんだよ」
「そんなのおかしいじゃん、だったら正しいって何なのさ?」
「さあな、俺にも分からねえさ。 勿論君にも間違ってると思っても周りが正しいと思ってるんなら正しい事になる、だからこそ、あまり不用意にそうゆう事を言うんじゃねえぞ? 自分の身を守る為に、嘘をつくのも大事な事だからな」
少年は顔を曇らせ、不満げに口を開いた。
「何だよそれ、じゃあみんな嘘つきじゃんか……」
「そうだ、人なんてみーんな嘘つきだ、そうやって嘘ついてでもいないと気が持たないんだよ」
「嘘だ、おじさんはそうやって俺を嘘つきにしようとしてるんだ」
「だから言ったろ? 俺は悪い奴だって、あとお兄さんだって言ってんだろ」
正直、酷な事をしていると思っている。 まだ幼い少年に、こんな事を言っているんだ、どう思われたって仕方がない。だが、いや、そんな風になる事が良い事とも思えないし、思いたくもなかったが、彼の疑問は彼の心の中にしまい込ませるべきなのだ。
そうでなくては、彼の立場はさらになくなるだろう。
周りと違う者に対して、排除しにかかる人の心はいつだって変わらないのだから。
「いいか坊主、人の言う事に疑問を抱く事は悪い事じゃない。 自分で何かを考えられるってのは立派な事だ。 ただ、そこで思った事を言っていい時とダメな時がある。 今はそのダメな時だ、いいな?」
「……うん……」
「よーしそれじゃあ問題だ。 俺達はどんな奴だ?」
「……悪い奴……」
「上出来だ、上手く生きろよ」
少年の頭をわしゃわしゃと撫でた後、踵を返し、俺はユリアの後を追い、歩き出した。




