世の中理不尽
焼かれるような痛みに気を失ってから、気がつくと数時間前に見覚えのある木目が目に映った。
「……あれ……ここ、宿か……?」
ふと体を起こし、辺りを見回すと、魔剣とサーベルは壁に立て掛けられ、コートや革のガントレットは壁に吊るされていた。
「……ここまで運ばれたのか……? にしても一体誰が……」
部屋には俺以外誰もおらず、誰かが来る様子もなかった。
ベッドを降り、壁に立て掛けられた魔剣を掴み、ベッドに向かって放り投げた。
「おい起きろ、俺が倒れてる間に何があったか説明しやがれこのクソ魔剣」
『お前な〜? 起き上がって初めに俺に言うのがそれか? 他にもっとあるだろ』
「他? 他だって? 人がぶっ倒れる元凶が何言ってやがるふざけやがって」
『おいおい、オレは元凶じゃねえ、あの嬢ちゃんだ。 もっと言えばあの嬢ちゃんの体に刻まれてるあの呪詛だぞ? オレに八つ当たりするんじゃねえよ』
正直魔剣に向かって八つ当たりしたい気分だったが、言われてみれば魔剣の言い分ももっともで、煮え切らない気分が晴れる事はなく、むしろかえってむしゃくしゃしてきた。
「あー……クソッ、まあいいや……で? 何で俺が宿に戻って来てるんだ?」
『お前もう少し口の利き方何とかならねえのか?……まあいい教えてやる。 運ばれて来たんだよ、ここまで、他に何もねえよ』
「誰が運んだのかって聞いてんだよ」
『主語を飛ばして話すんじゃねえよお前はよぉ……ったく、あの村長と嬢ちゃんだよ』
村長、傭兵達に頭を下げ、立ち去るように乞うていたあの男の事だろうか、わざわざここまで運んでもらったならば、礼に行くのが道理だろうが、倒れる前に見た、俺達を畏怖の目で見る農民達の事を思うと、不用意に外に出る事が憚られるような気分になった。
「……てか呪詛の影響ってのは結局何だったんだ?」
『あー、あれか? あれは嬢ちゃんの魔力に呪詛が反応した結果だ』
「いや、よく分からねえから」
『ったくお前もう少し物分かり良くならねえのか?』
「はいはい俺は物分かりの悪い馬鹿ですよーだ。 分からねえから続けろよ」
『こいつ素直なんだかそうじゃねえんだか……いいか、あの呪詛は言うなれば枷だ、あの呪詛によって嬢ちゃんの魔力は抑え込まれてる訳だ、ここまでは分かるな?』
「まあ、何となくは」
『ハッキリしねえ返事だなぁオイ……』
溜息をついた後、魔剣は説明を続けた。
『もし手枷を無理矢理外そうと腕を広げようとするとどうなる?』
「そりゃあ、腕が痛くなるだろ」
『それと同じだ。 あの呪詛は嬢ちゃんが無理矢理魔力を大量に放出する、つまりはそれだけ魔力を消費する魔法を使おうとした時に、その魔力に反応して抑え込もうとするんだ。 その結果として呪詛が全身に広がって焼けるような痛みになった。 これで分かるな?』
「ユリアが何か消費のでかい魔法を使ってああなったって事は分かった。 で、何で俺に魔力移したんだよ、お前の中で処理すればよかったじゃねえか」
魔剣はゆらりと大きく揺れた後、呆れたように答えた。
『は〜? 何だってオレがわざわざそんな面倒事引き受けなきゃならないんだ? オレはあくまでもお前に力を貸すだけだ、諸々実行するのは小僧の役目だろう?』
「お前血も涙もないんだな……」
『そりゃ魔剣だからな、血もなけりゃ涙なんて流れねえよ。 当たり前だろ?』
言われてみれば魔剣はそもそも人ですらなかった。当たり前な事のはずなのに、何故だか腑に落ちず、納得することができなかった。
それこそ元は人だったような、そんな風にも思えた。
そんな事があるはずは無いのだろうが、魔剣はそうであるように振舞ってくる。
あまり気にするべきではないのだろう。魔剣の過去がどうであったとしても、魔剣が魔剣である事に変わりはない。
「で、ユリアはどこに行ったんだよ?」
『さぁな、そろそろ戻ってくるんじゃないのか?』
魔剣のそんな返答そのままに、扉が開き、ユリアが部屋に入ってきた。
「あ、ライル……もう目が覚めたんだね、調子はどう? どこか痛かったりしない?」
「いや、俺は別に平気だけど……それよりお前こそ平気なのか?」
「うん、私は平気だよ。 ライルも元気そうでよかった……」
『お前が起きる少し前までずっと不安げにしてたからな、後で埋め合わせでもしてやるんだな』
「もう! そうゆう事言わないでよ!……その……恥ずかしいから……」
ユリアは少し頰を赤らめて明後日の方を向いていた。
「顔赤いけど、ほんとに平気なのか? やっぱり体調悪いんじゃないのか?」
「…………ルの…………バカ……」
「え?」
「ライルのバカ‼︎ 鈍感‼︎ にぶちん‼︎」
ユリアは少し涙目になりながらそう怒鳴った後、再び部屋を飛び出してしまった。
「……えぇ〜……?」
『小僧、お前……』
「俺何か変な事言ったか……?」
『……いや、お前が本気でそう思ってるんだったらオレはこれ以上何も言わねぇぞ……それこそ嬢ちゃんが浮かばれねぇぜ……』
魔剣は心底呆れた、といった様子で溜息を吐き、黙ってしまった。
「……世の中やっぱり理不尽だ……」
恨み言のようにそう呟き、俺は壁に吊るされたコートに袖を通し、ベルトに魔剣を差し、革のガントレットをベルトに吊るし、部屋を出た。




