要らぬ犠牲
「……応えろ……」
『仕方ねえな』
サーベルを放し、魔剣の柄に手を掛け、その刀身を引き抜くと、眼前に迫るサーベルの動きはゆっくりとしたものになり、眼に映るもの全ての動きが減速した。
正確にはこちらの反射能力が通常の何倍にも跳ね上がった事による影響なのだろうが、それでもやはり、目の前に広がっているこの状況は他人にうまく説明できそうになかった。
「……できるなら殺す人数なんて少ない方がいいんだ、まずは一人……」
目の前まで迫ったサーベルを躱し、手始めにその一人の手首を斬り落とし、壁と反対側、傭兵達の少し後ろまで移動する。
「……は?」
「お、おい! お前腕が……‼︎」
どちゃりという音を立てて手首はサーベルごと地面に落ち、その切り口からは血が溢れ、傭兵の足元に血の池を作り出した。
「あ……あぁ……俺の、俺の腕がぁ……」
「おい! 慌てるな! 落ち着ーーー」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎ 痛い‼︎ 俺の腕がァァァァ‼︎」
腕を斬り落とされた傭兵は取り乱し、青ざめた顔で斬り落とされ、そこに手首が付いていたはずの空間を見つめ、震えていた。
「おいテメェェェェェェ‼︎ なんて事しやがったこの野郎‼︎」
「何人か殺しといて何言ってんだ? 命までは取ってないんだ、そんなに騒ぐなよ」
「ふざけんじゃねぇぞ‼︎」
「そりゃあこっちのセリフだ‼︎ 好き放題暴れて何のお咎めも無いと思ってたのか⁉︎ ふざけてるのはお前らだろ?」
「うるせェェェェェ‼︎ 死ねやァァァァ‼︎」
手首をなくした傭兵の隣にいた傭兵は叫びながらこちらへ向かって走ってくる。
「……最後まで話は聞けよな」
身を屈め、縮地を繰り出し、向かって来た傭兵の懐にもぐりこみ、掌底をその鳩尾に叩き込む。
「ガッ……ガフッ……」
傭兵の体はゆっくりと宙を舞い、背中から地面に落ち、鳩尾にモロに入ったらしく、呼吸できず、ヒューヒューと虚ろな音を立てて蹲っていた。
これで残りは三人、加えてこちらには魔剣がある。いざという時には全てひっくり返せる状況になった。
だが肝心なのは相手を倒す事じゃない。主導権を握った以上、要らぬ犠牲を出す必要はない。
ここから先は、如何に相手を殺さずにこの場を収めるかだ。
「これで二人。 なあ、俺の話最後まで聞いてくれないかな?」
「あぁ⁉︎ 仲間三人やられてこっちが黙ってるとでも思ってるのか⁉︎ あぁ⁉︎」
「俺としてはこれ以上戦いたくはないんだけどなぁ……」
「仕掛けておきながら今更何言ってんだ‼︎」
「……先に村を荒らしたのはお前らだよなぁ?」
魔剣を向け、少し睨むようにそう放つも、傭兵達が怯む事はなかった。
「この野郎こいつでも食らいやがれ‼︎」
傭兵は腰に提げていた予備のピストルを引き抜き、こちらへ向けた。
「ちょっ! 待て待て待て待て‼︎ そんなもんこんなところで撃つんじゃねぇ‼︎」
「うるせぇ! 死ねェ‼︎」
制止するも間に合わず、乾いた銃声が響き渡る。
躱すだけなら魔剣の効果もあって容易いものだった。だが俺の後ろには今、多くの農民達やユリアがいる。
もし躱せば、確実に誰かがその鉛の銃弾を受けることになる。
考えている余裕などなかった。
魔剣を構え、銃弾に備えた。向かって来る弾丸は三つ、どれも微妙に角度が付いて撃ち出されており、三発ともその進路は少しずれており、一直線に切り払えそうになかった。
ゆっくりとした速度で向かって来ているとはいえ、それぞれ個別に対処する必要があった。
「……さぁて、やってやりますかねぇ!」
地を蹴り、銃弾目掛けて飛び出した。




