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はぐれ魔女と平凡無才の魔剣使い  作者: 阿木津 秋水
はぐれ魔女としがない使用人
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略奪


「では、お気を付けて」


 宿の主人にそう見送られ、宿を出た俺達の目に映ったのは、見渡す限りの農村の風景だった。

 農業村スーグ。ここはアンファングから一番近い村であり、アンファングの村で不足した分の農作物や家畜はもちろん、辺境伯ヨハン・シュトラッセ公の屋敷、かつて俺が使用人としていたあの屋敷の食糧の大半は、このスーグから仕入れているものだ。


「村ってどこもこんな感じなのかな?」

「俺はここくらいしか来てなかったけど、別にそんな事もないんじゃないか? 他の所も同じとは限らないだろうし」

「そっか、それじゃあ色んな所観に行くのが楽しみだね!」

『……好奇心旺盛なのは結構だが、ありゃ少しばかり痛い目に遭うぞ……?』

「……その為に俺とお前がいるんだろうが、条件満たしている間は黙って手を貸せよな……」

「ねぇ! 早く行こう!」


 こちらを向き、手を振るユリアの元へ向かい、彼女の気の赴くままに村を見て回った。


 村からも離れた小屋で過ごして来た事もあってか、俺より歳が下とはいえ、下手をすれば子供よりも世間を知らないのだ。

 彼女の好奇心旺盛な性格は、狭い場所に抑え込まれ続けた事にも要因があるのだろう。

 彼女がその好奇心を満たして行く過程で、恐らく彼女にとって、心が痛むような出来事に遭遇する事にもなるだろう。


 そしてそんな心の痛む出来事が、今目の前で起ころうとしていた。


「ヒャッハァァァァ‼︎ 傭兵様のお通りだァ‼︎ 農民供は道を開けろォ‼︎」


 そう叫びながら村の広場に馬で乗り込んで来たのは五、六人の傭兵達だった。


「ねぇ、ライル……あれって……」

「傭兵の略奪だな、最近遠征があったらしいし、多分そのせいだろうな。 こんな所にまで略奪しに来るとは思ってなかったけど……」


 不安げにその様子を眺めるユリアを自分の後ろにいるように立ち、俺は傭兵達の様子を見ていた。


「オラァ‼︎ 俺達は遠征帰りで腹減ってるんだよ‼︎ 食い物寄越せや‼︎」

「やめろ! この村を荒らすな!」


 手当たり次第に農民達を襲い、農作物を貪り喰らおうとする傭兵達の前にそう言って十人ほどの男達が四つ又のピッチフォークを手に持ち、立ち塞がった。


「アァ? 何だァお前らァ⁉︎」

「我々はこの村の自警団だ‼︎ これ以上村を荒らすのは許さん‼︎」

「……面白ェ、遠征で暴れ切れなかった分こっちは欲求不満でさあァ‼︎」


 そう叫びながら傭兵はピストルを引き抜き、真上に向かって発砲した。

 フリントロック式のピストルは一度弾を撃ち出すと、次の弾を撃つ為に弾を込め、火薬の詰め直しと、手間がかかる。

 そんな中でピストルを真上に向かって発砲する事の意味。それは主に威嚇か開戦の合図か、あるいは単に騒ぎたいだけか。俺自身がそもそも戦いの中にいた訳ではない以上全て推測でしかないが、騒ぎたいだけか開戦の合図のどちらかだろう。


「さぁて……ひと暴れさせてもらうぜェ‼︎」


 そう叫ぶや否や、傭兵はピストルを投げ捨て、腰に提げたサーベルを引き抜き、馬から飛び降りた。


「ひ、怯むなぁ‼︎ 我々がこの村を守らなければならないんだ‼︎」


 自警団達はピッチフォークを構え、傭兵達の接近に備えていた。

 農具でありながらも、ピッチフォークは武器としてもそれなりに使えるのだろう。少なくともサーベル相手ならばそのリーチはピッチフォークの方に分がある。

 しかしそれは互いに同程度の技量がある事が前提だ。

 自警団とはいえ所詮は農民、申し訳程度に剣術を叩き込まれた俺よりもその技量は低いだろう。それに加えて相手は傭兵。所謂戦闘のプロフェッショナルの部類だ。

 それだけ実力に差のある相手が戦えばどうなるか、そんなものは火を見るよりも明らかだった。


「おいおい何だァ? 偉そうに突っかかって来たくせに弱過ぎじゃねぇかァ?」

「見ろよ、こっちなんかみーんなおっ死んじまったぜェ? ケヒャヒャヒャヒャヒャヒャ‼︎」


 言うまでもなく、自警団達は傭兵達に圧倒され、まともに戦う事すら出来ずに倒された。

 自警団達は倒れ伏し、呻き声を上げて蹲っており、そのうちの何人かはおそらく死んでしまったのだろう。


「ね、ねぇ……ライル……あの人たちまだ生きてるよ……助けなきゃ……じゃないと死んじゃうよ……」


 ユリアは泣きそうな顔で俺の服の袖を掴んで訴えかけて来た。


「……ダメだ、俺達にそれを出来るだけの力が無いんだ。 それに俺達はあくまでも部外者だ。不用意に干渉するもんじゃないだろ」

「人を助けるのに理由なんて必要なの? 苦しんでる人がいるのに見殺しになんて出来ないよ」


 泣きそうになりながらも、そう答えるユリアの目には確かな意思があった。その目を見ていると、心が揺らいだ。

 やらなければならないのだろう。あの時魔獣と戦った時の様に、勝ち目など無かったとしても。

 だがもしそれでここで死んだら誰がユリアを守るんだ?そんな迷いがサーベルに手を掛けていながらその足を止めていた。


 そんな矢先に一人の男が傭兵の元へ駆け寄った。


「た、食べ物は差し出します!……ですから村を荒らすのはおやめ下さい‼︎」

「あ? 何だお前、俺達に口答えしてんのか?」

「いえ……そうゆう訳では……ただ、どうかお願いです……村を荒らすのだけは……おやめ下さい……」


 そう言って傭兵達に頭を下げている男は、村長なのだろうか、少し若い気もするが、中年くらいの男はひたすら傭兵達に懇願するように頭を下げていた。


「ほーん、ま、いいや、とりあえずお前、死ねよ」


 傭兵はニタリと笑った後、サーベルを高く振り上げた。


「もう見てられないよ‼︎」

「あっ! おい待てユリア! 行くな!」

「殺しちゃダメぇぇぇぇぇぇぇ‼︎」


 ユリアは止めようとした俺の手を振り払い、そう叫びながら走り出してしまった。


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