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はぐれ魔女と平凡無才の魔剣使い  作者: 阿木津 秋水
はぐれ魔女としがない使用人
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待ちに待った休息


『やっと到着かい? 全くもって全時代的な移動手段ってのは不便な事この上ないねぇ』

「何だよ、移動手段なんてこれくらいしかないだろ?」

『魔女がそこに居るのにか?』


 魔剣のそんな呟きに首を少し捻ると、少し横で俺の肩に手を添え、きょとんとした顔でこちらを見つめているユリアと目が合った。


「……もしかして、何か出来たりするのか?」

「えっと……転移魔法の事かな?」

「それ、できるのか?」

「えっと……今の私はできないよ? 転移魔法っていうのはそれ自体がそれなりに高位の魔法だし、何より私がまだ行った事のない場所が多過ぎるからね……あの魔法は旅好きでもないとあまり役には立たないと思うよ」


 ユリアがそう答えると、魔剣は大きく溜息をつき、不満げにぼやき始めた。


『何だよつまんねえな、折角退屈な移動時間がなくなると思ってたのによぉ』

「えっと、なんかごめんね……あははは……」

「別に謝るような事じゃないだろ」


 魔剣の鍔を軽く叩き、鞘を留め具から外し、後ろへ投げる。


『痛えな! ものは大事にしろって親から教えられなかったのかよ?』

「生憎と、親なんていなくってね。 ついでに喋る道具なんて聞いたこともないね」

『この野郎、オレがいなけりゃ今頃ーーー』

「かく言うお前も俺がいなかったら今頃こうやって外には出られなかっただろ?」

『別にお前じゃなくたって他にーーー』

「取り出させようとしたけど不気味がられて誰も近寄らなかったじゃねえかよ」


 命と外に出る事を等価と見るのもどうかとは思うが、反論するだけならそれだけでも十分だろう。

 魔剣は文句を垂れながらも、それ以上何か言い返してくることは無かった。


「村に入ってからはあまり話し掛けてくるなよ? 側から見たら頭がどうかしちまった奴にしか見えねえんだからよ」

『オレを引き抜いておきながら自分がどうかしてないだって? 笑わせるな、普通の人間なら魂賭けてオレと契約なんてしねえよ』

「そりゃどうも、お褒めに預かり光栄だよ」


 鼻で笑いながらそう返すと、魔剣はガタガタと揺れた後、大人しくなってしまった。


「あら、喋らなくなっちゃったよ?」

「村に入る事考えりゃその方が都合がいいから俺は構わないんだけどな」

「そう? 少し賑やかな方が私は好きだよ?」


 子供っぽく笑った後、ユリアは魔剣を持ち上げ、その鍔を耳元に近付けていた。


 気付けば村の門の目の前まで来ており、門番の前で馬を止め、荷馬車から降りた。


「止まれ、要件は?」

「数日の滞在、長旅で疲れてるんだ、宿を借りたい」

「武器は?」

「護身用程度にこれだけ 武器商人じゃないよ」

「いいだろう、通れ」


 門番に小さく会釈をした後、荷車に戻り、馬を走らせ、門を通った。


「村ってこんな風なんだね、アンファングにいた頃は小屋から離れた所まで来た事なかったし、さっきもそれどころじゃなかったから」

「気に入ったか?」

「気に入った、て言うよりはちょっと色々見て回りたいかな。 まだ知らない事ばっかりだしね」


 俺の肩に手を掛け、辺りを見回した後、ユリアはそう答えた。


「とりあえず今日は一日宿にいてもいいか? そろそろヤバい」

「私はそれでも構わないよ、むしろ休んでて、私の事は気にしなくてもいいから」


 それから宿に着くまでの間、ユリアは眼に映るもの全てに目を輝かせながら辺りを見渡していた。

 俺にとっては取るに足らない些細なものですら、外の世界を見てこなかった彼女にとっては興味関心をそそるのだろう。

 そんな彼女が最初に見たものが怒号を上げ、何の罪もない自分を責め立てる村人たちだったと思うと、この世界の理不尽さに歯痒く思えた。


「あ、あれじゃないかな?」

「……やっとだな……やっと眠れる……」


 目の前に迫った憩いの場を眼にした途端、体の重さが再び押し寄せ、今にも倒れてしまいそうな感覚に襲われた。

 まだだ、倒れるのはもう少し先だ、耐えろ。

 今にも閉じそうな瞼を必死になりながら閉じたいとする様子は側から見ればさぞかし滑稽であっただろう。

 馬を馬小屋まで連れて行った後、ユリアを連れて宿に入ると、体の重さが更に増していった。


「ライル、大丈夫? 私が部屋借りてこようか?」

「……大丈夫……ダイジョーブ……部屋借りるだけ……そしたら寝れる……」

「本当に大丈夫……? 顔色悪いよ……?」

「気にするなって、すぐ終わるから……」


 そう答え、重い足を持ち上げ、一歩、また一歩と宿のカウンターへと向かって行く。


 あと少し、あと少しで休める。 その感情だけが、今の俺を突き動かしていた。


「お、お客さん? 大丈夫かい?」

「……大丈夫……うん、大丈夫、ちょっと疲れてるだけだから……」

「は、はぁ……それで、宿にはどれくらい滞在する予定で?」

「……とりあえず一週間……部屋は……?」

「ここの通路真っ直ぐ行った先の部屋だよ、それとこれが鍵ね」

「……ありがとう」


 少しばかり震える手で鍵を受け取り、部屋へと向かった。


「……やっと……寝られる……」

「お疲れ様、ゆっくり休んでね」


 ユリアのそんな声も殆ど聞こえておらず、部屋に入ってすぐに、ベッドに倒れこみ、そのまま意識が途切れ、目の前が真っ暗になった。

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