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はぐれ魔女と平凡無才の魔剣使い  作者: 阿木津 秋水
はぐれ魔女としがない使用人
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村までの道

「ユリア、怪我はないか?」

「私は平気だけど……ライル、また怪我しちゃってるよ」

「ん? あぁ、こんなの怪我のうちに入らないだろ」


 ユリアに指摘されるまで気づかなかったが、最初の一人目を吹き飛ばした時に受けたのだろうか、頬に切り傷ができていた。


「いいって、これくらい」

「ちゃんと治さないとダメだよ!」


 掌に魔法陣を展開し、淡い緑色の光を手に纏い、頬に触れようとするユリアの腕をそれとなく手で払い、馬の手綱を木から解き、馬を荷車に繋ぎ、乗り込む。


「ほら、手ぇ貸して、引き上げるから」

「え? あ、うん……」


 少し困った顔をしながらユリアは手を伸ばしてくる。

 伸ばされたその白く細い手を掴み、引き上げる。


「もう行くの?」

「あぁ、こんな所で野宿してたらいつまで経っても寝られないしな……近くの村か町で宿屋を探そう」


 鞭を打ち、馬を走らせる。


「ねえ、行くのはいいんだけど、ライル……顔色悪いよ」

「気にすんなって、宿に着けばあとはしばらく休めるんだから……お前だってゆっくり休める方がいいだろ?」

「それはそうだけど……」

「あまり休めないだろうけど、今も休んでろよ、俺の心配はいいからさ」


 馬の進路を見なければいけない為に振り返れないが、多分困った顔をしてこちらを見つめているのだろう。

 

 進路の先は茜色と闇色が混ざり合い、夜が明けつつあった。

 体の節々が痛み、瞼は重く、体に纏わり付くような体の重さが襲ってくる。恐らく今鏡を見ればひどい顔をしているだろう。

 馬は順調に走っており、この様子ならば日が昇る頃には近くの町か村に到着できるだろう。


『ん、なんだ、もう移動してるのか』

「遅えよ馬鹿野郎」

『フン、人の力を借りなければ追い払えもしなかったくせに随分偉そうに』

「途中で寝たじゃねえか」

『でも賊は払えただろうに』

「なんとかならなかったらどうするつもりだったんだよ?」

『そん時は自分を呪え』

「こいつ……」


 魔剣は目を覚ましたらしく、いちいち感に触る言い方で煽り立ててきた。


『なんだ、休まないのか?』

「こんな所で休んでたおかげでこうなったんだろ」

『それもそうだな、ま、せいぜい街に着くまで粘るこったな』

「せいぜい粘らせてもらうよ、何分取り柄がなくってねぇ……」

『そりゃご苦労』

「疲れてるんだよ、お前の相手なんかしてられるか。 少し黙っててくれ」

『起きろって言ったり黙れって言ったり忙しい奴だなぁ……』


 これ以上魔剣の煽りに付き合う気もなかった。それ以前にそんな事に付き合うだけの体力ももうなかった。

 気を抜けばそのまま荷車から落ちるくらいに疲弊していた。


「ライル、ちょっとだけ肩の力抜いて」

「え? 何を……痛っ⁉︎」

癒しの光(ハイロゥン・リヒト)‼︎」


 突然肩に衝撃が走ると、押し込まれるような痛みの後に、肩に乗っていた重苦しい感覚が和らいでいった。


「……疲れにも効くのか、これ」

「疲れも怪我に似たようなものでしょ?」

「いや、まあ確かに……違くないか?」

「効いてるんだからいいんだよ」


 そう言ってユリアは背中に寄りかかり、俺の肩に親指を押し込んだ。


「痛い、痛いから! あと……あ、いいや、何でもない」


 肩に押し付けるような圧迫感と同時に、背中に柔らかい感触があった。

 みなまで言うまい、年頃の男子ならばあって然るべきそれだろう。

 下心ではない、断じてない。そう心の中で念じながら背から伝わるそれを堪能しつつ馬を走らせていると、ユリアが耳元で囁いてきた。


「どう? 少しは体が軽くなったかな?」

「そうだな……まぁ、色々軽くなったな」

「……だけど、あんまり無理しないでね?」


 どこか落ち着いたような声音と、その息遣い、耳元を撫でる吐息にぞわぞわとした感覚が押し寄せた。


「ねぇ、聖都に着いたらその後ってどうなるの?」

「確か……執事長の旧い知り合いがいるらしいからその人を頼れって。 そこから先は俺もまだ分からないな」


 執事長は旧い知り合いを頼れと言った。そしてこのサーベルがその証明になるとも言った。しかし、旧い知り合いだとしても、何処の馬の骨とも分からない、俺達のような者の面倒を見てくれるような寛大な措置をしてくれるのだろうか。

 下手をすれば門前払いを食らう事さえ有り得なくもない。


 正直不安だ。彼女は世間知らずで俺も所詮文献に記された程度の知識しかなく、加えて俺は余りにも非力だ。

 魔剣も使える条件が限られていて、ユリアも呪詛の影響で強い魔法は使えない。

 こんな状況で、彼女を守っていけるのか、口先だけでならなんとでも言える。だがそれを実践できるかと言われればそれはまた違う話だ。


 先行きの分からない不安に、気付けば少し軽くなった肩の重みが蘇っていた。

 

「ねぇ、ライル」

「どうした?」

「ライルってさ、色々考え過ぎじゃないかな?」

「別に考え過ぎなんて訳じゃねえよ、少し慎重なだけだって……お前もいるんだし、少しは色々考え込むさ」

「私の事大事にしてくれるんだ? ちょっと嬉しいな」


 少しからかうようにそう言った後、ユリアは小さく笑い俺の背にひたいを押し付けた。


「……大丈夫、大丈夫だよ。 ライルなら何だってできるよ……だからあまり考え込み過ぎないでね?」

「ま、ほどほどに気をつけますよー」


 些細な一言だったが、少しだけ、少しだけ肩の荷が軽くなったような気がした。


「ねえライル、あれって」

「あれは……やっとだ……やっと休める」


 ユリアが指差した先には、丸太で組まれた門と柵があった。


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