野宿
「馬と荷車も使わせてもらうぜ」
「あ、あぁ…構わない、構わないとも」
おどおどした様子で立ち尽くす地主を横目で見ながら、荷物を積み、ユリアを荷馬車に乗せ、馬の手綱を握る。
「それじゃ、あいつの見張りは任せるから、死にたくなかったらちゃんと見張っておいてくれよ?」
「も、勿論だとも! ししし、しっかり見張っておくさ!」
「そりゃどうも、じゃ、世話になったな、ヨハン・シュトラッセ辺境伯殿」
こちらを見上げる地主を見下ろし、手綱を引いて馬を走らせる。
前脚を上げ、高々と鳴き声を上げた後、軽快な音を立てて馬が走り出し、荷車はガラガラと音を立てて動き出した。
「もう戻れないんだね」
「今更あんな所に戻ったって仕方ないだろ、これから俺達が探さなきゃいけないのは二人で静かに暮らせる場所を探す事なんだから」
「……そうだね」
「何か名残惜しいのか?」
「まあ、ね……確かに嫌な思い出も多かったかもしれないけれど、ライルと小屋で話したりした事とかそうゆう思い出もあるからさ……」
「俺はここに居るんだ、そんなもんいつだってできるだろ?」
振り返り、ユリアの頭をそっと撫でた後、手綱を握り直した。
「出発したはいいけど……今日はあんまり移動できそうにないなぁ……」
「もう日が沈みそうだね」
辺りは薄暗く、視線の先では夕陽が沈もうとしていた。
進む先には申し訳程度に整えられ、轍のできた道があり、その両脇には木々が生い茂っていた。
「明日の朝まで待ってからでもよかったんじゃないかな?」
「いや、あの場所にいる奴らはいつ襲ってきても不思議じゃない。 不本意とはいえ何人か殺しちまったしな……俺達を恨んでいない訳が無いだろ?」
「それはそうだけど……」
『本当は何も考えてなかったのさ、さっさと嬢ちゃん連れてあの村出たかったんだよ。 察してやんな、嬢ちゃん』
彼女が口籠るとすぐに魔剣が喋り出し、ありもしない事を言い始めた。
「ありもしない事言ってんじゃねえよ……」
『どうした、さっきまでとは勢いがねえじゃねえかよ』
「……煩いな、疲れてるんだよ……あまりにも色々あり過ぎて」
「それじゃあ今日はこの辺りで野宿した方がいいんじゃないかな?」
出発してからもうしばらく時間が経っていた。できるならばもう少し進んでおきたかったが、先を見つめる瞼は重く、彼女の提案を受け入れざるを得なかった。
手綱を引き、馬の歩調を落とし、道の脇に荷車を止めた。
「とりあえずこの辺りで今日は休んで行くか……」
疲労で重い体を動かし、根元に草が多く生えている木の幹にその手綱を結び付けた。
次いで獣除けの為の火を起こし木の幹に凭れ掛かった。
「とりあえずこのまま野宿か……」
「たまにはこうゆうのもいいかもね」
「……そうだなーーー」
体中に疲れがどっと押し寄せ、あまりの疲れから死ぬかのように目を閉じた。
『……おいおい、随分無防備じゃねえかよ……』
魔剣のそんな声を聞く者はおらず、辺りには静寂が広がるだけだった。
『ま、ただの人間にゃ体力的に持たないわな』
辺りは暗くなり、焚き火の灯り以外に光を放つものはなかった。




