支度
倉庫とは別に用意された保管庫、そこには主に服や絵画、倉庫に置かれたものよりも値打ちのある部類のものがそこに保管されている。
『はぁー、なんでオレが此処じゃなくてあんな埃まみれな倉庫に入れられてたんだか』
「お前が誰彼構わず箱に触った奴らに声掛けるからだろ?」
『何だよ、何か文句あるのか?』
「普通剣は喋らない」
『オレは魔剣だぞ? 魔剣‼︎』
「どのみち剣だろうが」
「えーっと、二人ともちょっと落ち着こう?」
高まりつつあった俺と魔剣の言い合いにユリアが割って入る。
「俺は最初から落ち着いてるけど?」
『オレもだ』
「二人とも……ね?」
普段のユリアなら絶対に見せない影のある笑みに思わず気圧された。
どうやらそれは魔剣も同じらしく、それ以上は何も言わなかった。
「それにしても、いっぱい服置いてあるね」
「……なんで女物の服までこんなにあるんだよ……」
ラックに掛けられた服には女物の服も多くあった。
誰が着る訳でもないというのに、一体何故こうも多いのだろうか。まさか地主が女装をする訳でもないだろう、そもそも地主の体格ではどう足掻いても着る事など不可能なものばかりだった。
そんな事を考えていると、ユリアが掛けられていた服の一つに手を掛け、それを自分の体にあてがった。
「どうかな? 似合うかな?」
「気に入ったんだったら試しに着てみればいいんじゃないか?」
「じゃ、じゃあちょっと後ろ向いててくれる?」
「あー、着替え終わるまで外にいるから終わったら呼んでくれよ」
彼女の返事を待たずに保管庫から出て、廊下で彼女が着替え終わるのを待つ事にした。
『何だよ、下心無しかよつまらねえな』
「あるから外に出たんだろうがこの変態魔剣」
『誰が変態だって? この若造が』
「お前だよ、お・ま・え‼︎」
『上等だお前ちょっと相手になってやろうじゃねえか‼︎』
「手も足も無いってのに一体何するってぇ? えぇ⁉︎」
下心剥き出しの魔剣とそんな言い争いをしていると、扉の向こうからユリアに呼ばれた。
「着替え終わったよ」
「あー、うん……今行くわ」
『運が良かったな、小僧』
少しばかりユリアの着る服に期待を抱きながら扉を開き、中へ入った。
中に入ると、部屋の中央で彼女は待っていた。
「どうかな?……似合ってる……かな?」
「おお、似合ってるじゃんか」
『ほう……悪かないねぇ……』
肩出しの白いシャツに革のコルセット、赤のスカート、腕周りには白の腕抜きを着けており、袖元が広くゆったりとしており、腕を広げて回れば袖が翻り華やかなものになるのだろう。
足元は茶色の革でできたブーツを履いていた。
それらの組み合わせは意外にも見映えのあるものになっており、魔女と気付かれなければ男共は寄ってくるだろう。
「あとはこれを持って行きたいの」
「良いんじゃないか? どうせ何持って行ったってあいつは文句言えないんだし」
そう言って彼女は赤いニスデールを持ってきた。
「これ、どうかな?」
「とりあえず着てみたらどうなんだ?」
そうして彼女は手に持ったそれを羽織り、フードを被った。
「どう?」
フードから覗かせる少し幼さの残る顔は何処か奥ゆかしさがあり、惹かれるものがあった。
そんなユリアを眺めていると、不意に彼女は口を開いた。
「私はとりあえずこれで準備できたから外で待ってるね」
「俺は別にこのまま……って訳にもいかないよなぁ」
あまりに色々と信じられないような事が続き過ぎて忘れていたが、俺が着ていたスーツは所々が破れていたり、擦り切れてボロボロになっていた。
『これからはオレを提げて出歩くんだからな? ダセェ服なんかお断りだぜ?』
「俺が着る服くらい好きに選ばせろよな」
魔剣の茶化しに付き合いながらラックに掛けられた服を品定めし、旅をする事、この先戦う事や魔剣の小言や諸々を考慮した結果出来上がったのは
膝下辺りまであるコートに革のブーツ、革のガントレットの組み合わせだった。一般的な剣士と呼ばれる類の者が着るにしては比較的軽装なものになった。
「こんなもんかな?」
『まあ良いんじゃないか? バカみたいに派手なのばっかりだったら今すぐにでもお前の魂取らせてもらったがな』
「お前派手なの嫌いなのか」
『嫌いだよ。 そんなくだらねえ話はもう良いだろ、いつまでこんな所にいるつもりだ? 早く外の世界を拝ませてくれないかねぇ?』
「はいはい、わかったわかった急げばいんだろ? 急げば」
魔剣不満げな声を適当に流しながら扉を開き、保管庫を後にした。




