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はぐれ魔女と平凡無才の魔剣使い  作者: 阿木津 秋水
はぐれ魔女としがない使用人
32/67

報復


「……あれは……」

「嘘……どうして……」

「……ククク……アハハハハハハハ‼︎ 魔女、お前は呪詛のせいでもう葬送は使えないもんなぁ⁉︎ 残っているのは無能だけ‼︎……僕を本気で怒らせた事を後悔するがいい‼︎ アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ‼︎」


 瘴気が晴れ、そこに姿を現したのは、あの日戦った大狼だった。

 

「……へぇ……ご丁寧にまた戦わせてくれるってか、クソッタレが」

「魔剣を手にしたくらいで調子に乗るなよ⁉︎ 素がゴミ同然の貴様ごときが魔剣を手にしたところでたかが知れてるのさ‼︎」


 大狼を挟んで睨み合っていると、思いもよらない声が聞こえてきた。


「おぉ〜い! ジュリアン〜! いつになったら魔女狩りが終わるんだい?」

「あぁ、地主様、魔女狩りにちょっと手間取ってしまいましてね……なに、すぐに終わらせますよ……」

「……指示したのはあんたか?」

「へ?」

「……ユリアを殺すように指示したのはあんたかって聞いてるんだよ‼︎」


 魔剣を強く握り、飛び上がり、群衆を飛び越した時と同じように身を捻り、地主に狙いを定め、斬りかかる。


「このクソ地主がぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

「なっ……ま、待てっ‼︎ やめろぉ‼︎」


 地主が頭を抱え、うずくまるのが見えた。


「ひぃぃぃぃぃぃぃ‼︎ ジュリアン‼︎助けてくれぇぇぇぇ‼︎」


 人を屋敷から追い出し、人を殺すように指示した癖に、それでいて、それでいて自分は助かろうというのか。

 その根性が気に食わなかった。許せなかった。

 地主を叩き斬らんと狙いを定めるも、その刃は皮肉にも地主を守る事になった。

 

「……えぇ、いいでしょう……では死んでください、邪魔ですからぁ‼︎‼︎」

「……え?」

「おまっ……ぐっ……⁉︎」


 大狼が地主を踏み潰そうとその足を振り上げた。

 このままでは地主ごと踏み潰される、避けるのは間に合わない。


「このっ……おおおお⁉︎」

「……ひっ……あ、あれ?……潰されてない……?」

「……勘違いするなよ……あんたごと潰されるのが嫌だっただけだ……後で知ってる事を全部吐いて貰うからな……‼︎」


 大狼の足を押し返し、地主の襟首を掴み、後方へ投げ飛ばす。


「うわぁぁぁぁぁぁ‼︎」

「ユリア! その馬鹿が逃げ出さないよう見張っててくれ!」

「え、あ……えっと……うん……」


 ユリアが答えるのを確認してから大狼に、ジュリアンに向き直り、柄を握り直す。


『アレは殺さなくてよかったのか?』

「あんなのいつだって殺せる。 それなら使えるだけ使い潰した方が賢いだろ?」

『お前も性格悪いな』

「お前ほどじゃないよ」


 魔剣の茶化しに付き合うくらいの余裕はまだ持てている。これでいい、あくまでも頭は冷静であるべきだ。

 心は熱くても頭は冷静に、目的を見失えばこいつに全て持っていかれる。


 再び魔剣を見つめた後、構え直した。


「……さぁて……化け物退治しますかねぇ……」

「ハッ‼︎ 二度も同じものを出すと思うなよ⁉︎」

「どのみち俺のやる事は変わらねえよ」


 身を屈め、地面を強く蹴り出し、縮地で距離を詰め、突きの構えで大狼の眼前に迫る。


「この間みたいに盛大に外すなんて無いからな‼︎」

「やられる前に潰せ‼︎ 踏み潰せ‼︎」


 俺を踏み潰そうと迫る大狼の足はゆっくりとこちらへ近づいて来ていた。

 実際にはもっと速くこちらに向かって来ているのだろう。だが今は違う。それを十分に処理しきれるだけの反応速度が今の俺にはある。


「尖ったものを思い切り踏みつけると死ぬ程痛いって知ってるかぁ⁉︎」


 迫る足の裏の中央に狙いを定め、その切っ先を突き刺す。

 魔剣の切っ先は大狼の足を捉え、吸い込まれるようにスルスルと刺さっていき、その足を貫いた。


 大狼の悲鳴のような声が辺りに広がり、大狼は刺さった剣を引き抜こうともがく。


「抜きたきゃお望み通り引っこ抜いてやるよ‼︎」


 柄を両手で握り、そのまま真横へ薙ぎ払う。

 足の筋や肉、骨を断ち切り、伝わって来た感触はサーベルを使ったあの時のそれよりも軽く、すんなりと断ち切られていた。


「そのまま吹っ飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎」


 大狼の足を片手で掴み、そのまま投げ飛ばす。

 放り出された巨体は近くの家屋にぶつかり、轟音を立てながら木製のそれを粉砕した。


「……やべっ、力加減が上手くいかないな……」

『それがオレの力で強化されたお前の力だ。 慣れておけよ? お前がこの先使うのはこの力なんだからな……無論オレを使っている間だけだがな?』

「そんな事くらい分かってる、今考えなきゃいけないのはーーー」

『目の前のバケモノを倒す事だろう?』

「被せるなよ」


 魔剣にツッコミを入れた後大狼の方を向くと、壊れた家屋の残骸を払いのけ、血が溢れる足を力強く踏ん張り、雄叫びを上げる大狼の姿があった。

 その雄叫びは今までのそれとは違い、その覇気に体中の筋肉が硬直していくようだった。


「……これは、あれだ……」


 そう呟いた直後に、頰を何かが掠り、背後で轟音を立てて砕け散った。

 少し遅れて頰から生暖かい液体が伝っていくのを感じた。


「あいつ、この間のより強いな?」

「当たり前だ‼︎ 何を今更当たり前な事を言っている⁉︎ 死ね‼︎」

「ツッコミながら死ねって忙しいなオイ……」


 飛び掛かり、此方を喰らおうと大きく開かれた口を滑るように真横へ飛び、回避する。

 ガラ空きになった首目掛け、打ち上げるように魔剣を払い上げる。

 大狼の首を捉えたそれは、まるでバターでも切るかのようにその首を斬り落とし、その切り口から鮮血を噴き出させた。


「俺があの日から変わってないとは言ってないよなぁ⁉︎」

「……嘘だ……あの大狼が……こんなにあっさり……」

「生きてるんだから首を落とせば死ぬに決まってるだろ」

「……ひぃぃぃぃ‼︎」

「……お前覚悟はできてるんだよなぁ?」


 大狼の巨体が地に崩れ、倒れ伏す音を横で聴きながら、魔剣に着いた血を振り払い、ゆっくりと歩きながらジュリアンの前まで向かう。


「く、来るなぁ‼︎」

「散々いろんな奴巻き込んで死なせといて何自分だけは助かろうなんて考えてるんだよ?」

「……やめろ……よせ……」

「俺がそれを言ったのに、お前は執事長を殺したよな?」


 目の前の死に恐怖し、腰を抜かして立ち上がれなくなったジュリアンを見下ろし、魔剣を突き付ける。


「……ただで死なすと思ったか?」

「……へ?」


 剣の腹を使い、その憎たらしい顔を殴り、真横に吹き飛ばそうと振り被るも、そこから先は思いもよらない形で阻まれる事になった。


『おっと悪いがオレがお前に力を貸すのはここまでだ、これ以上はあの嬢ちゃんを守る為のものじゃあないだろう?』

「……命拾いしたな、クソ野郎……」


 魔剣を鞘に収めた後、ジュリアンの肩を蹴り飛ばした後、その肩を踏みつけた。


「……二度と俺達に関わるな……いいな?」

「……ひっ……は、はひっ……」


 情けなくそう返事をした後、ジュリアンは白目を剥いて気を失った。

 踏みつけていた足を上げ、踵を返し、俺はユリアの元へ向かった。


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