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はぐれ魔女と平凡無才の魔剣使い  作者: 阿木津 秋水
はぐれ魔女としがない使用人
31/67

悪人


 村に向かうと、広場に多くの人が集まっており、その中央に磔のようなものが立てられていた。

 村人達は怒鳴り声をあげ、松明を掲げている者もいた。

「殺せ! 殺せ! 殺せ!」

「魔女に死を! 我らに安息を!」


 よく見れば、磔にユリアが縛り付けられていた。


「……やめて……私は貴方達を傷付けないから……そんな事したくないから……お願い……離して……」

「黙れ! お前達魔女など皆死ねばいい!」

「……もう嫌だよ……私は何もしてないのに……どうして……」


 体の奥からどす黒い何かが湧き上がってくるようだった。


ーーーコロセ、コロセ、コロセーーー


『……どうした? もう呑まれるか? オレの使い方はもう知っているのだろう? 託せよ……お前の誓いとやらを』

「……黙ってろ……」


 目を閉じ、大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

 落ち着け、目的は殺す事じゃない。護る事だ。それ以外に必要に殺めるべきじゃない。


『手遅れだな……無論お前が殺しを厭わないなら、話は変わるだろうがな……』

「さっき四、五人殺した奴に聞くことか?」

『……愚問だったな』

「だったら黙って力を貸せ、こんな村どうなろうが……」


 それ以上を言おうとは思わなかった。

 確かにこの村は彼女を忌み嫌っていた、だからといって全員が悪人という訳でもなく、悪いのは魔女を忌み嫌う時代の流れだ。

 だがそんな風に完全に割り切れるほど、俺も聖人ではない。


『で、どうするんだ?』

「どうするってーーー」


 言い切らずに駆け出し、魔剣の柄に手を掛け、飛び上がる。

 地を蹴る瞬間に体に捻りを加え、錐揉みに回転しながら抜刀する。


「今こそ! この忌まわしき魔女に死のーーー」

「ーーーこうするんだよ‼︎」


 群衆を飛び越え、松明を高々と掲げる男を斬り伏せる。


「……は?……」

「……悪いな、あんたがこいつを殺そうとしてるから、斬っちまったよ……」


 男の体は袈裟に切り分けられ、その上半身は斜めに滑り落ち、どさりという鈍い音を立てたあと、血の沼を作り出した。


「あ、悪魔だぁぁぁぁぁ‼︎」

「ま、魔女が悪魔を呼び出した!」

『悪魔呼ばわりされてるぞ? 小僧」

「好きに言わせとけ」


 刀身に付いた血を払い、どよめく群衆に向かって切っ先を突き付ける。


「……ひっ……」

「いいか、よく聞け! こいつみたいになりたくなければ、今すぐここから立ち去れ! 文句のある奴は前に来い!」


 群衆は再びざわめいた後、互いの顔を見合せ、蜘蛛の子を散らすように散り散りに逃げ出した。


『まるで悪役だな』

「そうだろうな、今のご時世なら俺は立派な悪人だろうさ」

「……ライル……?」

「悪いな、遅くなっちゃって」


 魔剣を地に突き立て、磔の方を向き、ユリアを縛り上げていた縄を解く。


『痛えな』

「岩より柔らかいだろ」


 縄が緩み、そのまま倒れこみそうになるユリアを受け止めると、彼女はそのまま膝をつき、その場ににへたり込んだ。


「……うっ……ううっ……怖かった……怖かったよぉ……」


 泣きじゃくるユリアの頬には打たれた痕があり、赤くなっていた。それだけでなく、口を切ったのか、口元からも血が流れていた。

 磔にされ、縛り付けられていた手首や足首も、荒縄で擦れ、締め付けられたことによって痕が残っていた。


「……痛いよ……もう嫌だよ……こんなの……」

「……もう平気だ……もうここから出られる、聖都に行こう。 そうすれば何か静かに暮らせる方法が見つかるかもしれないから……」


 傷付き、泣きじゃくる彼女を見ていると、思わず抱き寄せざるを得なかった。彼女は村の連中が忌み嫌い恐れるような魔女である前に、一人の少女なのだ。

 一度として村人達に危害を加える事もなく、干渉することもせず、ただ一人で静かに暮らしていただけの彼女を無理やり引き摺り出し、痛めつけられた挙句、殺されかけたのだ。そんな状況で泣き出さない訳がない。

 たとえ彼女が大きな力を持っていたとしても、誰かが彼女を守らなくてはならない。その為に、その為に俺はこの魔剣をーーー


「全く全く全く全く全く全く全く全く全く全く全く全く全く‼︎ どいつもこいつも役立たずのクズ供め‼︎ こんな能無しと娘一人殺せやしない‼︎」

「……ジュリアン……」


 ユリアの頭を撫でた後、立ち上がり魔剣の柄に手を掛ける。


『おい、お前何するーーー』

「あいつは確かに言っただろう?「俺達を殺す」って。 だからあいつからユリアを護るんだよ」

『都合よくこき使ってくれるな』

「お前を使って斬る訳じゃないさ、ただお前の力を借りるだけ、ただそれだけだよ」

『は? お前何言ってんだ?』


 魔剣の問いかけを無視し、突き立てたままになっていたそれを引き抜き、地を蹴り、ジュリアンに詰め寄る。

 空いた右手を固く握り締め、ジュリアンの頰目掛け、ありったけの力を込めて突き出した。


「このっ……ろくでなしがぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

「あがっ‼︎‼︎」


 魔剣の力も相まって今までのそれとは比にならない一撃を頰にめり込ませ、殴り飛ばす。

 頰を捉えた拳はそのまま突き抜けていくように振り抜かれ、奴を吹き飛ばした。


「……まだだ、まだ終わってねえぞ……お前には死んだ奴らの分殴らなきゃならないんだからよ……」

「あがっ……ライル貴様ぁぁぁぁぁぁ‼︎ へぶっ!」


 奴が起き上がるのを待たずに更に追った一撃を放つ。


「ぐっ……このっ……やめっ……」

「やめねえよ……お前のせいで死んだ奴らの分殴らなきゃなぁ‼︎」

「……殺したのは貴さーーー」

「ーーーそうさせたのはお前だろうが‼︎」


 更に一撃を加えようと振り上げた腕は背後から押さえ込まれた。


「……⁉︎」

「……やめて……こんなのライルらしくないよ……」


 首を捻り、後ろを見るとユリアが振り上げた腕を抑え込んでいた。その目には依然として涙が浮かんでおり、どこか懇願しているようだった。


「……だけどこいつは!」

「……それでも……それでもライルがそんな風になってるのを見たくないよ……」


 涙ながらに訴えかける彼女の目を見つめる事が出来ず、目を逸らし、振り上げた腕に込めた力を抜き、腕を降ろした。


「……命拾いしーーー」

「馬鹿め! 今のを当てていたら共倒れしなかっただろうになぁ‼︎」

「……こいつ……」

「お前のその躊躇が不要な犠牲を生むんだよ‼︎ ククク……アハハハハハハハハ‼︎」


 一頻り笑った後、ジュリアンはブツブツと詠唱を早口に唱え出した。


「……汝この声に応えるのならば、我は其の煉獄の扉を開け放ち、魔なる者を招かんと欲する……開け……魔を招く煉獄の扉(ティアー・フェーゲル・テューア)‼︎‼︎」

 

 ジュリアンの呼び声に応えるようにその足元は禍々しく煌く魔法陣を描き、どす黒い瘴気が噴き出した。

 

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