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はぐれ魔女と平凡無才の魔剣使い  作者: 阿木津 秋水
はぐれ魔女としがない使用人
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託されたもの


 抜き放たれた魔剣からは、黒く、どこか禍々しささえ感じさせる瘴気のようなものが溢れ出し、その投信は赤黒い光を放っていた。

 柄を握る手から全身へと力が広がっていき、体中に力が溢れるような感覚に包まれた。

 その力は力強くも底が無く、気を抜くとそのまま呑み込まれてしまいそうなものだった。

 

 前を向き直り、アルトを囲んでいた狩人達に詰め寄ろうと地を蹴り駆け出す。ほんの一歩を踏み出した筈が、その一歩で狩人達の目の前まで来ていた。


「……これが……魔剣の……」

『何をボサッとしてる? 相手は待ってくれねえぞ?』


 手にした強大な力に困惑していると、狩人達は今まさに此方を叩き斬らんとサーベルを振りかぶっていた。

 しかしその動きは、というよりも時間そのものの流れが遅くなっているようだった。


「……すごいな……こんなゆっくりだったら避けるのも攻撃するのも簡単かもな」


 振り下ろされる腕を躱しながら斬り払い、サーベルを払い上げ、勢いに身を任せ、さらに追撃を繰り出し、首を刎ねる。振り切った腕の勢いを受け流し、手首を返し、そのまま振り下ろす。

 振り下ろされた一撃は別の狩人の胴を捉え、その身体を上下に切り分けた。

 分断された胴体からは鮮血が噴き出し、血の華を咲かせた。


 少し前まで抵抗があった筈の、人を殺す、という行動に対して、自分でも驚く程に冷静だった。


「……これで最後……」


 気付けば執事長を取り囲んでいた狩人は目も当てられない姿になっていた。

 そして目の前には横たわる執事長の姿があった。

 彼の胸元は血でぐっしょりと濡れ、顔も青くなりつつあった。


「……執……アルトさん……」

「……行け、見てわかるだろう? 拾えないものまで拾おうとするな、お前が拾い切れるものを見定めろ……何かを護るというのはそうゆう事だ……」


 俺の腕を掴む彼の腕は弱々しく震えていた。

 助からないのは目に見えていた。しかしそれでもーーー


「見失うな、お前が護るものは私ではない筈だ……娘を連れ出し村を出たら聖都を目指せ……そこに私の古い知人がいる……そこで彼に助けを求めろ……私の名を出せば快く引き受けてくれる筈だ……」

「……はい……」

「……ついでにこれも持って行け……餞というわけではないが……少しは役に立つだろう……」


 そう言って彼は震える腕で自らが持っていたサーベルを差し出した。


「……これって……」

「……私にはもう不要なものだ……ここでこのまま錆び付くよりはお前が持っていてくれた方がいいだろう……」


 差し出されたそれを受け取ると、今まで持ち慣れていたサーベルのそれよりもずっしりとした重さがあった。その重みは彼から託された意思もあったからかもしれない。

 サーベルの鍔と鞘には精巧な彫刻が彫り込まれており、血に塗れて尚もその高潔さを失っていなかった。


「……あの男の不手際をお前に拭わせる事になってしまったな……」

「気にしないで下さいよ、俺がなんとかしますから」

「……お前には……まだ話さねば……」


 最後に何かを言い残す前に、執事長は力尽きた。

 

「……人ってあっさり死ぬんだな……」

『既に数人屠っておいて何を言う』

「黙れ、他に手がなかっただろうが」

『それは構わんが、呑まれるなよ? 俺の力に……それと、先を急いだ方がいいぞ?』


 魔剣に言われ、辺りを見回すと、ジュリアンの姿はなくなっていた。


「……あいつ……」

『村の広場だ、あの小僧、まだ何か持っているぞ? 小物だからと気を抜くなよ?』

「あいつはセコい手しか使わないからそれくらい分かってるよ」

『だったら無駄口叩いてないで急ぐんだな』

「……いちいち一言多い魔剣だな……」


 やたら口煩い魔剣を鞘に納めた後、アルトから託されたサーベルを腰に提げ、村の広場へ向かった。


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