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はぐれ魔女と平凡無才の魔剣使い  作者: 阿木津 秋水
はぐれ魔女としがない使用人
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契約と対価

「ジュリアン……お前……」

「あれだけ大きな怒鳴り声が聴こえればねぇ……どんな阿呆でも気付くさ……ククク……」


 ジュリアンの後ろには先程と同じように使用人が立っていた。

 案の定全員虚ろな目でフラフラとした様子で立っており、そこに彼らの意思があるようには見えなかった。


「……行け、この屋敷に忍び込んだコソ泥とその共犯を殺せ」


 呻き声にも似た声を上げながら、傀儡はこちらへ迫ってきた。


「……何だこれは……⁉︎」

「……俺にもよく分からないです、でもあいつらがもう人じゃないって事だけは確かです……このっ‼︎」


 向かってくる傀儡達に対し応戦しつつも、退路を確保する為に辺りを見回す。


「……ちくしょう、こんな事してる場合じゃないのに……‼︎」

「私が時間を稼ぐ、その間にお前はあの娘を連れてこの村を出ろ。」

「執事長……」

「執事長ではない、アルフレート……アルトでいい、今の私はただの使用人だ……!」


 執事長は、アルトはそう叫んだ後、ジュリアン目掛けて凄まじい速さで詰め寄った。


「貴様がこの屋敷に来てからこの屋敷は狂い始めた! 貴様が執事長になってから使用人が減った! ならば私は先代の執事長として貴様を裁かねばならない‼︎」

「……この老いぼれがぁ‼︎」


 ジュリアンがそう叫ぶと辺りの茂みから更に傀儡が飛び出し、ジュリアンに詰め寄ろうとする彼の足を止めた。


「……っ‼︎」

「……どうした? 僕が狩人供を傀儡にしていないとでも思ったのかい?」


 最悪の状況だった。先程ジュリアンを助けに来た狩人達までもが傀儡にされていた。

 この屋敷のが専属の衛兵を雇わなくてもよかった理由、それはこの村に住む狩人達の存在があったからだ。

 彼らがいるからこそ、この村には獣や賊が寄り付く事ができなかった。それ故に屋敷の警備も使用人程度のレベルで済ませることができていた。

 傭兵や騎士のそれとは違えども、彼らもまた、戦いのプロであった。

 そんな輩が敵に回る事がどのような事かくらい、阿呆でも分かる事だった。


「アルトさん!」

「行け! この有様だ、急がねば娘も殺される、護るべきものがあるのだろう? ならば行け‼︎」

「逃すか! 殺せ!」


 ジュリアンの怒鳴り声を背後で聞きながら駆け出そうとした瞬間、背中に鋭い痛みが走り、駆け出した勢いでそのままうつ伏せに倒れこんだ。


「なっ……‼︎」

「ライル‼︎」


 痛む身体を無理やり起こし、立ち上がると、脇腹を貫くように矢が刺さっていた。

 喉の奥から液体が込み上げ、思わず咳き込むと、口の中に鉄の味が広がり、足元には血が飛び散っていた。


「……あぁ……うっ……痛えじゃねえかよ……」


 背に刺さる矢に手を掛け、ありったけの力で引き抜く。

 矢が抜けた瞬間にキリキリと焼けるような痛みの後に、ゆっくりと血が流れていく感覚が伝わってくる。

 あまりの痛みに思わず膝をつき、蹲る。


「討つな、あいつは僕が殺す、お前らはそこの老いぼれを足止めしてろ」


 首を捻り、後ろを向くと、アルトが狩人達に囲まれていた。

 ジュリアンは辺りに転がっていたサーベルを拾い、こちらへ向かって来た。


「……くそっ……」

「どんな気分だい? 何も出来ずに恩師も共に逃げようとしていた女も殺される気分は?」

「……どうゆう事だよ……」

「勘付いていた癖に何をとぼけているのさ? 魔女狩り、魔女狩りだよ! お前が無能なばかりにあの女もこの老いぼれもここで死ぬんだよ‼︎」


 ふと横を見ると、狩人に囲まれているアルト目が合った。

 彼の目には諦めの色が現れ、遣る瀬無いような表情をしていた。


 狩人に囲まれ、身動きが取れなくなっているアルトを一瞥した後、ジュリアンは嘲笑し、言い放つ。


「まずはあの老いぼれからだな……やれ」

「よせ! やめろ! お前が殺したいのは俺だろう⁉︎」

「いつ、僕があの老いぼれを殺さないと言ったのかい?」


 勝ち誇った顔で腕を上げ、下に振り下ろす。


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎‼︎」

「……ぐっ……むぅ……」

「ククッ……ふっ……アハハハハハ‼︎ 無様だなぁ? どんな気分だい? なぁ‼︎」


 目の前でアルトは、執事長は狩人達の手で、そのサーベルで体を貫かれた。


「ジュリアンお前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎」

「ゴミは這い蹲ってろ! 目障りなんだよ!」


 結局何もできなかった。何も出来ずに、ただ執事長が殺されるのを見ている事しかできなかった。

 きっとユリアもーーー


 何もできないのか、何も出来ずにここで死ぬのか。

 ははっ、馬鹿らしい、一体こんな人生に何の意味があったのだろうか。

何も出来ない、あまりに無力だった。散々偉そうに護るなんて言いながら結局何も、何一つ護れやしない。

 自身の弱さに失望し、悲嘆し、絶望した。


 魔剣は依然語る事も、反応を示す事も無かった。

 終わった。

 そう全てを諦めたその時、世界は静止した。


『力が欲しいか? お前は俺に何の力を求める?』


 あの日聞いた、見えざる声だった。


「……遅えじゃねえかよ……」

『あの男が倒れたのはオレのせいじゃねえ、お前が弱えからだ』

「……そんな事、言われなくたって……」

『ならばどうする? お前は何も出来ずにみすみす死ぬのを待つか?』

「…………」

『お前が力を求めるなら、対価を払え、お前の魂をオレに捧げろ……それで契約は成立する……それとも逃げるか? 全て投げ捨てて逃げればお前一人くらいなら助かるかもしれんぞ?』

「…………」


 待つ訳が無い、待てる訳がなかった。このまま死ぬくらいなら、犬死にするくらいならばーーー


「何も出来ずに死ぬくらいなら、こんな命……お前にくれてやる‼︎」

『ならば誓え、お前が望む目的の為だけに……さらば俺はお前に力を与えよう……そしてお前が誓いを破れば、それがお前の最期だ……』

「……俺が護ると決めたものを……護るだけの力を……それを俺に寄越せ……」

『いいだろう……契約成立だ……これよりお前に力を与えよう……』


 魔剣のその声を聞き、その柄と鞘に手を掛け、抜き放つ。


「……応えよ……魔剣……グルヴニス……‼︎‼︎」

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