屋敷へ
そうして逃走を試みるにあたって、俺達が確実にこの村を抜け出す為に必要なものがあった。
本来ならば使いたくはない、考えたくはなかった代物。もう分かりきっている、俺一人の力じゃあまりにも非力過ぎる。
だからこそ、手段を選ぶ事など、俺にはできなかった。
『なぁお前、力が欲しくはねえか?』
あの時、俺はそんなものいらないと答えた。だが現実は非情だ。あまりにも非情だった。
そうだ、今がその時なのだろう。俺にはあの魔剣が必要なんだ。
認めたくない。認めたくはなかった。だけれども、認めるしかなかった。
「なぁユリア、ちょっと屋敷寄ってもいいか?」
「私は別に構わないけれど……どうかしたの?」
「ちょっと忘れ物っていうか、取りに行きたいものがあるからさ」
「分かった。 でも気をつけてね?」
「もちろん」
彼女の手をしっかりと握り、屋敷に続く道を進む。
「……ねぇ、ライル……さっきの傷って……」
「……あぁ、そうだよ……もう屋敷には戻れないさ……でも戻らなきゃいけないんだよ」
「……この人達って」
「……俺が殺った……殺すしかなかったんだ……」
無造作に転がる使用人達の死体を、ユリアは青ざめた様子で見つめていた。
そのあとおどおどした様子でこちらを見つめてきた。
「……この人達は傀儡にされてたんだよね?」
「何で分かるんだ?」
「ちょっと見ててね……」
そう言って俺の手を離し、転がっている死体の一つに近付き、その死体の手に触れると、死体から紫色の炎が上がった。
「……一体何が起きたんだ?」
「この人達の中に残ってた他人の魔力を見えるようにしたの」
「ごめん、よく分かんない」
「えっと……どう説明すればいいかな……まあまず始めに私は魔女だから他人の魔力を感知できるの」
「うん」
「それで魔女っていうのはその魔力を目に見える形にできるの」
「なるほど、それでさっきみたいに火が出たってか」
「そうゆう事」
「で、なんでその魔力が見えるってだけで傀儡って分かったんだ?」
「それはね、魔力を感知できるだけじゃなくて使われた魔法や魔術の種類も何となくだけど分かるからだよ」
そう答えた後、ユリアは顔を曇らせ、不安げな様子で口を開いた。
「それでなんだけど、この魔術を使ったのは誰なの?」
「ジュリアンだ。 ほら、この間狼に吹っ飛ばされてきたやつ」
「そうなんだ……やっぱり……」
「あいつがやったって知ってたのか?」
「うーん、ちょっと違うかな……ただ、あの人からあの狼と同じ魔力が出てたの」
ユリアはそう言った後、何かを悔いるような様子で目を逸らした。
「……もっと早くそうゆう事を言っておけば、こうはならなかったのかな……?」
「馬鹿言うな、どうせあいつはどうやったってこうしてるさ……執事長がちょっと心配だ、急ごう」
「うん……」
無造作に転がされ、首のなくなったかつての同僚への申し訳なさや自責の念を振り切るように、俺はユリアの手を掴み、足早にその場を去り、屋敷を目指した。
屋敷の近くまで辿り着くと、案の定ジュリアンが屋敷入り口の前で見張りを置き、屋敷に近付けないようになっていた。
「……まあそうするよなぁ……」
「ねぇ、どうやって行くの?」
「抜け道があるんだ、あいつが知らない抜け道がね。 そこから行くんだ」
「私はここで待ってた方がいいかな?」
「……そうだな、すぐ戻るからちょっとこの辺りに隠れててくれないか?」
「わかった、気を付けてね」
彼女はそう言って俺の背中に触れ、そっと押してきた。
「……どうした?」
「ちょっとしたおまじない、それじゃあ待ってるね」
彼女に見送られ、俺は屋敷の抜け道へ向かった。




