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はぐれ魔女と平凡無才の魔剣使い  作者: 阿木津 秋水
はぐれ魔女としがない使用人
22/67

流浪人と魔女1


 それからすぐ、俺はユリアのいる小屋へ向かった。

 小屋へ向かう道で、ここまでの経緯に不自然な所がないか、そんな事を考えていた。

 あの時の獣、執事長の解任。俺のクビ、ジュリアンの執事長就任。全てではないが、一部は予想できていた。

 まず獣の件から。この辺りで獣なんて滅多に出なかった。それでジュリアンは使い魔だと言った。

 だがあれが使い魔だと何故分かった?普通なら分かるはずもないというのに。でもそれをジュリアンは使い魔だとはっきりと断言していた。

 だとしたらアレを召喚したのもーー


「……いや……まさかな……」


 魔術にしろ、使い魔の召喚にしろ、どちらも魔導具なりし、召喚の為の触媒が必要になる。

 だがそんなものはあの屋敷にあっただろうか。


『なぁお前、力が欲しくねえか?』


 唐突に魔剣の言葉が蘇り、脳裏を過る。

 魔剣が手引きをしたのだろうか、それなら合点のいくものがあった。あの魔剣の事だ、人を唆し、混乱に導くくらいやっていてもおかしくないはずだ。


「……一回屋敷調べないとかもな……入れるか分からないけど……」


 次に執事長の解任とジュリアンの執事長就任。

 間違いなくジュリアンと地主が結託しているのだろう。ジュリアンは前から執事長が俺に剣術を教えていたり、俺を目に掛けている事を不満に思っていた。

 そして地主は自分のやる事に進言する事で突っかかるって来る執事長が不満だった。

 ついでに目障りな俺を屋敷から追い出してしまえば後は邪魔をする者もいなくなるだろう。

 恐らく俺が去ってしばらくすれば執事長も屋敷を追われるのだろう。

 彼は俺と違って先代の時代から執事長をこなしてきた実績もある。故にただ気に入らないが為だけに追い出すのが惜しいのだろう。

 それか、酷使し、散々虐げてから追い出すのだろうか。


 どちらにせよ、俺にはどうにもならない事だ。それこそ執事長もこの屋敷を辞めるなら話は違うのだろうが。

 だが彼は使用人の鑑。恐らく主人に捨てられるまできっと主人に仕えることを辞めはしないだろう。


「……潰れないで欲しいけどな……」

「誰が潰れそうなの?」

「おわっ⁉︎」


 唐突に聞こえた声に思わず声を上げてしまった。

 

「お前、いつの間に……」

「さっき小屋から出たらライルが見えたから手を振ってみたんだけどなんか考え事してるみたいでこっち全然見てくれなかったんだもん」

「あー……それは悪いことしちゃったな」

「何か困った事でもあったの?」

「まあ、ちょっとな」

「愚痴くらいなら聞くよ?」

「悪いな」


 彼女の無垢な好意が、気遣いが、今は少しだけ辛かった。

 恐らくこうして彼女と会うのもこれが最後だ。そう思うと、尚更ここに来た事を後悔させられた。


 小屋に入るように促され、中へ入り、辺りを見回す。

 小屋の中は昨日のまま、特に変わった様子は見られなかった。


「ねね、それで何があったの?」

「あー……その話なんだけどな?」


 屋敷を追い出された。その一言を言う事を思わず躊躇ってしまった。

 言えば全てが終わってしまう。少なからず彼女を悲しませる事になるだろう。

 しかし言わなかった所で何が変わる訳でもない。いずれ彼女の耳に嫌でも入る事になるだろう。

 それでも、事実を打ち明ける事ができなかった。


「いやー、ちょっと野暮用でしばらく遠くに行かなきゃいけなくなっちまってね……」

「それって、都市の方に行ったりするって事?」

「まあ、そうだな……ここの屋敷からの使いって事で行かなきゃでな……」

「そっか……じゃあ、しばらく会えなくなっちゃうね」


 彼女はそう言った後、少し悲しげな顔をした。

 その顔に、二重の意味で俺に苦痛を与えた。一つは彼女にそんな顔をさせてしまう事、もう一つは彼女を騙さなければならない事だった。

 

「悪いな、しばらく面倒見てやれないけど、元気でな。」

「もう、気が早いなぁ……もうちょっとゆっくりしていってよ、しばらく会えなくなっちゃうんだしさ」

「そうだな……日が沈んでからだと色々厄介だけど、もうちょっとゆっくりしてから行くかな」

「ちょっとお茶淹れるから待ってて」


 そう言って彼女は小さな魔法陣を出した。


「ちょ、何始めるんだよ?」

「まあまあ、ちょっと見てて」


 自信ありげな顔でユリアはそう答えると、魔法陣を出したまま、指を鳴らした。

 すると、魔法陣からティーセットが飛び出し、テーブルの上に並べられた。


「……何でもできるんだな……」

「どう?すごいでしょ!」


 彼女は覚えたばかりの手品を成功させ、得意になっている子供のようであった。

 そんな彼女の様子に、塞ぎ気味だった気分も少し晴れてきた。

 彼女はてきぱきと慣れた様子でお茶を淹れ、紅茶の注がれたティーカップを俺の前に差し出した。


「お待たせ」

「あぁ、ありがと。 それにしても随分手際いいな」

「ライルがやってるの見て真似しただけだよ、どうかな? ちゃんとできてる……?」

「そうだな……」


 ユリアがまじまじとこちらを見つめる中、手に取ったカップを口元に近付け、小さく一口を口に含んだ。


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